白馬の呪い

月井 忠

第1話

 それは白馬に乗ってやってきた。


 記憶も定かではない小さな頃、公園で砂遊びをしていたら、怪しいババアが白馬に乗ってやってきた。


 今考えると夢だったのかもしれない。


 ババアは僕に白馬の呪いがかけられていると言った。


 怪しい人とは話しちゃいけませんとママに言われていた僕は、ババアを無視した。


 てか、白馬の呪いって何?




 小学生の頃、放課後の女子トイレで「花子」さんを呼んだ。


 トイレのドアがぎいっと開くと、のっそりと白馬が現れた。


 デカっ!


 てか、どうやって入ってたの?


 花子さんそっちのけで驚いた。


 狭いトイレだと余計に大きく見える。


 馬に気を取られてぶっとい足とか観察してたけど、本当の目的を思い出す。


 白馬の背を見ると、そこには天井に頭をこすりつけそうになっている花子さんがいた。


 やっぱり、トイレに白馬はいろいろキツイ。


 ちなみに、花子さんは白馬に乗ってるだけでお嬢様風に見えて、怖いというより少しだけ惚れそうになった。




 中学生の頃、友達と山に行って、皆でUFOを呼んだ。


 背後の茂みでガサッと音がする。


 振り向くと、そこには白馬にまたがった宇宙人がいた。


 グレイと呼ばれるツリ目の宇宙人。


 やっぱり、UFOから下りてくるという演出がないと、ちっともそれらしく見えない。


 着ぐるみを着たちっちゃいおっさんという印象だった。


 皆、驚きはしたけど、どこか期待はずれの顔。


 そんな空気を察したのか、宇宙人は見事な手綱さばきで白馬を走らせ、逃げていった。


 宇宙人の表情はわからなかったけど、悔しかったに違いない。


 宇宙からUFOでやってくるより、地球に潜伏していた宇宙人を呼んだのかなと皆で無理やり納得した。


 近場の方が来やすいだろうし。




 高校生の頃、青信号を渡っていたらトラックにはねられた。


 どうやら僕は、死んでしまったらしい。


 真っ白い世界で、ローブを着たおっさんに何か言われた記憶がある。


 徐々に視界がクリアになっていく。


「おお、勇者様だ」

「勇者様が、この世界に降臨された」


 なにやら辺りが騒がしい。


「勇者様が白馬にまたがって降臨された」


 僕は白馬に乗って異世界にやってきた。


 どうやら僕が呼ぶと白馬が出てくるわけじゃないらしい。


 今度は自分の番ということか……。


 残念ながら、転生したからといって最強というわけじゃなかった。


 早く帰りたい。


 白馬の呪い恐るべし。

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