第2話 蜂人の居場所《変数代入》

 蜂人はちとの家に着いた。

 家は千葉県の郊外にある。

 一軒家で、ほんの少し羨ましい。

 もっとも結婚する前に持ち家があるのも少し重たい気がする。


 蜂人はちとは既婚者だ。

 子供が二人いる。


 僕は家のインターホンのボタンを押した。


「はーい、どなた?」


 奥さんだろう女の人の声がした。


「アークウィズ社の蘭崇らんすうと申します。ご主人と連絡が取れないので、お伺いしました」

「今、開けます」


 扉が開いた。


「主人が迷惑をお掛けします。たぶん隠れ家で寝ていると思うのですが」

「隠れ家?」

「奥多摩にある小屋なんですが。小屋などを全て主人が作りまして、暇をみつけてはそこで休んでます。小さい家庭菜園もついているので助かってはいるのですが、今回みたいな事があると、困ります。本当にすいません」


 これは、そこに行ってみるしかないか。

 隠れ家の地図を貰った。

 中央線に乗り換えて、隠れ家に急ぐ。

 とんだ遠出になってしまったな。


 幸いにして隠れ家は駅から近かった。

 敷地内を緑の鉄網と鉄枠が覆っている。

 鉄網の上の方バラ線が張ってある。


 中の敷地は意外に広い。

 家庭菜園と小屋が見えた。


 鉄網とバラ線は獣対策だろう。

 ここら辺は鹿、狸、ハクビシン、猪などとにかく色々と出没する。

 ニュースで見た。


 入口として鉄製の扉がある。

 鍵は4桁のダイヤル錠だ。

 鉄網の隙間からダイヤルを弄れるようになっている。

 番号を知っていれば外からでも開けられる。


 もちろん、僕は番号を知らない。

 奥さんも知らないそうだ。


「おーい、蜂人はちと


 僕は鉄の扉を叩いた。

 寝てるのかな。


 スマホで蜂人はちとを呼び出す。

 小屋から着信音が微かに聞こえた。

 中にいる事は間違いない。


 蜂人はちとは中年だ。

 ぽっくりって事も考えられる。


 警察を呼ぶか。


 僕は警察に電話を掛けた。

 駐在さんがやってきた。

 事情を話す。


「寝ているのかも知れないけど。何となく嫌な予感がするんだ」

「分かりました。ダイヤル錠の番号は分かりますか?」

「家族も知らないらしい。知っている人はいないんじゃないかな」


 僕はふと久美子の言葉を思い出した。

 プログラムのデバッグは推理よ。

 ロジックを組み立てて追跡するの。

 なんのこっちゃ。


『もしもし、今良い?』


 僕は久美子に電話を掛けた。


『構わないわ』

『ダイヤル錠を開けたい。できるか?』

『鍵の番号は誕生日とか電話番号とかがよくある話だけど』


『試してみるよ』


 金網の隙間から指を差し込んでダイヤル錠のダイヤルを回す。

 誕生日や住所、蜂人はちとに関係する思いつく限りの番号を試してみた。


『開かないな』

『ならデバッグの基本としましょう。プログラム的には【tempファイル】と【変数の追跡】ね。ダイヤルをよく見て。傷が出来ているでしょう。それでダイヤルにまたがって筋が出来てるはず。それを合わせるの』


※挿絵 リンク。


https://kakuyomu.jp/users/455834/news/16817330653549431695


 となっているから。


※挿絵 リンク。


https://kakuyomu.jp/users/455834/news/16817330653549473611


 こういうふうに筋が切れているのを綺麗に合わせるのか。

 細かい傷が多数あるので、ヒントにはことかかかない。


 鍵が開いた。


 なるほど、鍵が開いた状態で傷が付くとヒントになってしまうんだな。

 ダイヤルを回しても傷を頼りに正解に辿り着く事ができる。


 小屋の扉を叩く。


「おーい、蜂人はちと


 扉は引き戸で動かそうとしたが開かない。

 扉は横木に板を何枚も打ち付けただけの物だ。

 蜂人はちとの自作だろう。


「扉を壊してもいいですか?」

「やってくれ」


 駐在さんが扉を壊して外す。

 中に入ると蜂人はちとの首にロープが巻かれている。

 亡くなっているようだ。

 僕は手を合わせた。

 あー、事件だな。

 そんな感想しか、出でこない。

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