第15話 それぞれの想い


「遠峰、既読もつかねえ。チョコ渡すのか?」

「あんがとな。もう用はない。しっしっ」

「お前なぁ……」

「かたりん、どーどー!おお、私力持ちぃ?!」


 うがー!と詰め寄ろうとする片山の両肩を両手で押し返す菜々子。


 無論、野球部で鍛えている片山が帰宅部兼レイヤーの菜々子に力負けする訳がない。このメンツでの、いつものじゃれ合いなのだ。

  

「よっしー!かたりんなら協力してもらってもいいんじゃないの?何かの役には立つかもよ?」

「あー……まあ、いないよりマシか」

「なあ、お前ら。建前って言葉知ってっか?」

「ぎゃー!かたりんまで頭すんなよ!」



「なるほど。誰か見てないか俺も聞いてみるわ」

「頼む。チョコが見つかるのが一番だ。だけど」


 芳乃は、ちらり、と美海がいる場所を見た。美海はクラスの女子と手を握り合って、きゃあきゃあ!と笑いあっている。


「……あれはヤセ我慢だ。私らは知ってる。五年越しの気持ちを伝える決心をして、心を籠めた手紙だって書いてる。今日が勝負なんだ。人助けして荷物忘れました?そんなの、本気で助けたいと思ってたからだ!一生懸命だったからだ!美海は何も悪くねえっ……!」


 芳乃は握りしめた手を机に押し付ける。菜々子は、芳乃の肩にそっと手を置いて片山を見た。


「芳乃、お前……」

「今はそんなだ。時間がない。少しでも後手後手から抜け出したい。頼む!」

「かたりん、友達多いもんね!何かわかったら教えてね!お願いします!」


 苦しそうに自分を見上げる芳乃と、深々と頭を下げた菜々子を見た片山の息が詰まる。


(何でお前らが泣きそうな顔してんだよ……そんな顔見せんじゃねえよ!)


「わかった。どんでん返しに一口ひとくち乗った!ダチ友達に聞いてみらあ」

「かたりん!ありがとうね!」

「頼む、雄二」


 自分を見つめる芳乃と菜々子の顔を見て片山はいたずらっぽく笑った。


「ああ。礼はチョコな?」

「は?!……でいいなら、楽しみに待ってな」

「……?おう」

「オッケー!買い物かご山盛りに持ってくよ!」

「一個でいいっての。後でな」


 片山はひらひらと手を振り、席に戻った。


 とす。

 とんっ!


 椅子に座った芳乃と菜々子は、新たな情報がないか、とスマホに目を走らせていく。



「送信っと」


 個チャやグルチャとメールで簡単な文面の一斉送信を終えた片山に声がかかる。


「片山!片山!」

「ん?お、どしたどした田中。青木もか」

「さっき、片山と笹原芳乃さん達の会話が聞こえてきてさ」

「俺達も堀さんの事で、できる事ないか?」


 ふむ、と片山は考える。


(人手は多い方がいいよな……よし)


「喜ぶんじゃねえかな?堀にバレないようにこっそりと芳乃に聞いてみ?」

「わ、わかった!」

「サンキュー片山!」

「おうさ」


 駈けだした二人は旧ブレーキを掛けて速度を落とし、忍び足で芳乃に近づいていった。


「ぶっは!何やってんだアイツら!あっはっは……お?」


 片山の視線の先に、芳乃と菜々子とコソコソ話をする女子、男子達。


(まさか……)


 更に視線を巡らすと、美海をちらちらと見ながらスマホを触るクラスメイトが多い。


「こりゃすげえ!よし、俺も負けてらんねえ!」


 嬉しそうに笑った片山は、再度スマホに手を伸ばした。



” ねえ、●●ヶ丘の駅でさ、朝七時ごろ ”




(ホームで小学生の女の子を介抱してる堀さん、見かけた奴いる?)




『誰かを追っかけてる、うちのテニス部の男子見なかった?』




《朝、●●高校の制服を着た女の子が……》




【天使ちゃんって呼ばれてる、……】



 願いが。

 祈りが。


 たくさんの、優しさが。

 それぞれの想いが。


 翼を広げて、冬の空へと羽ばたき始めた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る