花が咲くまで初見月。

長月瓦礫

花が咲くまで初見月。


探査車の窓の奥で砂埃が舞う。

長い航海の末、宇宙船ワカサギ号はLO3498惑星にたどり着いた。

星々をいくつも渡ったからか、機体はすでにぼろぼろだ。

この星の探査が終わったら、一度拠点に帰らなければならない。


長い大戦の末、多くの星が不毛の土地となった。

星々が資源を求め、最大戦力で殴り合った。


その結果、ほとんどの星が死地と化した。

賢く裕福な生物は、はるか遠くの星へ移住した。貧しい者と荒くれ者が残った。

蛮族と化した残留者は争い、奪い、消えた。


大戦が終わると、私たちは故郷に戻った。

どの星も似たような有り様だった。

建物は崩壊し、海は汚れ、山は削られ、生き物は死んだ。戦いの果てに一つの文明が終わりを告げた。


宇宙で音はしない。この争いについて語る者はすでにいない。

だから、私たちで復興するしかない。

争う前に逃げた卑怯者の私たちがどうにかするしかないのだ。


私たちは母なる星を復活させるべく、互いに手を取り合った。

いつか帰れることを願い、旅に出た。


探査車を数キロも走らせると、何もかもが崩壊した場所にたどり着いた。

瓦礫の欠片すら残っていない。

しかし、何かがいた気配は残っている。


ここは町だった場所だ。

すべてが吹き飛ばされてなくなっているが、私の直感がそう告げている。


私は車を降りて、町を歩き始める。

砂に交じって建物の破片が転がっている。

この場所に誰かがいたのはまちがいない。


道なき道を歩くと、視線の端に建物の壁が目に入った。

壁に取りつけられた板の上に、ほこりをかぶった鉢を見つけた。

培養土と思われる塊が入れられている。


探査車の後部座席にのせ、道を走らせる。

一面が砂、そのなかに破片が混ざっている。


誰かがいた痕跡だ。何者かがいた証だ。

早めに確認しなければならない。


私はワカサギ号に戻り、植木鉢の解析を始めた。土の塊の中には種があり、適切に管理すれば、花を咲かせる。私は息をのんだ。

この星にまだ生き物がいると誰が思う。

幾度の戦いでズタボロになった星に何が残っていると思う。


この星に残った生物を蘇らせることができるだろう。この星の住民と初めて会うことができる。なにか話を聞くことができるかもしれない。


私は鉢植えに水をやって、探査車に戻った。

この植木鉢は無限の可能性が眠っているに違いない。


戦場に残された鉢植えの夢を見ながら、私は次のポイントへ向かった。

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花が咲くまで初見月。 長月瓦礫 @debrisbottle00

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