第14話 絶対に約束だからね

 鈴里玄すずり/くろは幼馴染がいる場所に急いでいた。

 今、全力で走っている。

 何が何でも、幼馴染と会話をしたかったからだ。


 加奈のことを考えれば考えるほどに、胸元が熱くなってくる。


 玄は彼女の家の近くまにまで到着した。


 加奈が家にいるかはわからないが、迷うことなく、急いでインターフォンを押す。


 いればいいけど……。


 玄は不安な感情を抱きながら、扉の前で待つ。

 そうこうしていると、彼女の家の扉が開かれるのだった。




「どちら様で」


 女性の声が聞こえた。

 そして、玄関先から姿を現したのは、加奈の母親だった。


「あれ? 玄君? どうしたの? それに、そんなに息を切らして」

「あ、あの……加奈っていますか?」


 玄は咄嗟に、それを口にする。

 余計なセリフは一切口にはしなかった。


「加奈? 加奈なら、数分前にスーパーへ行ったけど?」

「そうなんですか?」

「ええ」


 加奈の母親は、疲れ切っている玄の姿をまじまじと見ながら言う。


「どうする? あともう少ししたら戻ってくるかもしれないけど?」

「いいえ。スーパーの方に行きます。どこのスーパーですか?」


 玄は焦った口調で問いかけた。


「西側にあるスーパーだけど。本当に大丈夫? 疲れてるなら、家で待っていてもいいのよ。飲み物もお出しするから」

「でも、いいので。加奈は西側のスーパーですね。わかりました。ありがとうございます」


 玄は簡潔に話を済ませ、背を向ける。


「ちょっと、まだ、玄君と色々話したいことがあるんだけど」


 玄関から立ち去ろうとした直後、背後から声を掛けられた。


「すいません。また後で、ゆっくりとできるときに、お邪魔すると思いますので」


 と、玄は焦った感じに返答し、その場所から走り出したのだ。






 玄はひたすらに走っていた。

 住宅街を迷うことなく進んでいる。

 一秒たりとも立ち止まりたくなかった。

 やはり、早くに彼女に会いたいという思いが強くなっているからだ。


 玄は息の息が荒くなってくる。

 普段から運動をしていないところが顕著に表れている感じだ。


 もう少し普段から練習をしておけばよかったと思う。

 でも、そんなことをいまさら気にしても遅い。


 勢い任せで走り抜けていると、目的となるスーパーの看板が視界に入ってきた。




 玄は一先ず、スーパーの中に入ることにした。


 地元にあるスーパーの品揃えはいい。

 だから、普段から混んでいる。

 人気だというのが伺えた。


 玄は店内を見渡すが、彼女の姿はなかったのだ。


 どこにいるんだ?


 焦る気持ちが、玄の胸の鼓動を高める。

 そんな中、店内で見知った姿が視界に入った。

 まさかと思い、視線をそちらへ向けると、加奈の後ろ姿が見えたのだ。




 あそこにいたのか。


 玄は彼女の存在に気づくなり、咄嗟に人混みをかき分けるように進む。


 他人とぶつかりそうになりながらも進んだ。


 加奈と関わって謝りたいという思いがあった。

 だから必死なのだ。

 そして、彼女のところに到達した。




「ちょっと待って」


 玄は呼び止めるようにハッキリと言った。


「な、なに⁉」


 突然のことにより、加奈は驚いたように振り返る。


「玄……?」


 スーパーの入り口付近で、加奈は驚いた感じに、玄の姿をまじまじと見つめているのだ。


「ちょっと待ってほしい」

「というか、人がいるところじゃなくて。別のところで会話しない?」


 確かにそうである。


 皆がいる前だと会話しづらい。

 むしろ、迷惑になっているのだ。


 現在、周りにいる人らにまじまじと見られている始末。


 幼馴染の言う通り、場所を変えることにした。






「今日の件だけど、ごめん」


 スーパー近くの公園で、加奈と向き合うように、玄は頭を下げた。


「……別に気にしてないから」


 加奈は不機嫌そうな口調で言う。

 その表情は、あまりよろしいものではなかった。


 今日は色々と彼女に迷惑をかけてしまったのだ。

 そういったことがあって、彼女もすんなりとは、玄の謝罪を受け入れたくないのだろう。


 玄が少し苦しそうな態度を見せていると、彼女の雰囲気が変わったような気がした。


 どうしたんだろうと思う。


 そして、玄は頭を上げた。




「だったら、誠意を見せてよ」

「え?」

「だから、そういう風に謝っているなら、それなりの覚悟があるんでしょ?」


 加奈はそう提案してきた。


 どういった誠意を見せればいいのだろうか?


 玄は彼女の方の顔を見る。


「ねえ、それで、私に、どんな誠意を見せてくれるの?」

「それは……」


 玄は口ごもる。


「だったら……私と付き合ってよ……」

「⁉」

「だから、あの子と別れて、私と付き合ってってこと」


 加奈の表情は本気だった。






「誠意を見せて、私と付き合ってよ。あの子と別れてさ……」


 加奈の方から、そんなことを言われたのだ。


 玄も、加奈と付き合う気持ちでいた。

 だから、すんなりと頷いて承諾する。


「もう暗いし、早いとこ、帰ろうよ。あのさ、歩きながら話せばいいし」

「そ、そうだな」


 辺りを見渡せば、その公園には誰もいない。

 大方、夕食の時間なのだろう。


 二人は道なりに沿って公園から歩き始めた。




「ねえ、あんたは私の事、どう思ってるの? ……正直なところさ」


 いきなり、返答しづらい質問である。


「それは……」


 変なことを言うと、関係性が拗れてしまうかもしれない。


「幼馴染として好きというか。いや、普通に好きだからさ」

「それ、本気で言ってる?」


 加奈からジト目を向けられた。


 だったら、なんて言えばいいんだよと思う。




「というか、別に言わなくてもわかってるし。あんたが私のこと暴力的だって感じていることくらい」


 加奈は悲しそうな表情を浮かべていた。


「いや、別にいいんじゃないか。そういうところがあってもさ」


 玄は言った。


「別に、そんなに気を使わなくてもいいし……」


 彼女は気まずそうに返答してきた。




「それで、私と付き合うの? 私、それを約束してくれるなら、それでいいし。それが、あんたからの誠意だって受け取るし……」


 右隣を歩いている加奈は少々俯いていた。


 玄は心の中で、加奈と一緒になることを選んだ。

 だから、彼女の想いを受け入れる。




「というか、これ」

「なに?」

「なんていうか。それあげるし」


 加奈から渡されたのは、この前のキーホルダーだった。


 犬と猫のキーホルダーであり、二つ購入していモノだ。


「これを俺に?」

「うん」


 加奈があげようとしていた。

 だから、玄は受け取ることにしたのだ。


「というか、付き合うことになったら、あんたにあげるつもりだったし」

「そうなの?」

「気づかなかったの?」


 隣を歩いている彼女からジト目を向けられる。


「それをあげたんだし。絶対に、私との約束を破らないでね」

「わかってるさ」


 玄は軽く頷いて、承諾する。


「明日さ、夕に話すことになってるんだ」


 玄は彼女に語り掛ける。


「明日、彼女とは別れるからさ。だから、明日の放課後に、もう一度、俺の方から色々と言うから」

「絶対にだからね」


 加奈はぎこちない笑顔を向けてくれる。


 玄は絶対に約束を守ろうと決意を固めた。

 だから、右側を歩いている彼女の手を軽く握ってあげたのだ。


 できる限り、加奈の思いを受け入れようと。

 そんな想いを抱いて。


 二人は家のある方へ、夕暮れ時の道を歩き続けたのだった。

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幼馴染から嫌われている俺が、学園の美少女と関わるようになったら、幼馴染の様子が変わったのだが⁉ 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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