六話

 私はいつからか、家族に……特に姉と母から疎まれていた。姉は十七で私は十四。ここ二、三年は特に、そういった行為が多かった。


 食事の内容が貧相になっていたり、お茶会で弾かれたり。だんだんものを隠されたり壊されたりするようにもなった。


 父は貿易業で忙しくてあまり私達に構わなかったから、そういう家族の事に気付いていたのかは分からない。前は姉と共に船着き場まで連れて行ってくれて勉強させてくれたりしたけど、そういう事もいつしかしてくれなくなった。


 姉が私より貴族らしく振る舞えて、私がそうでなかったのも、原因かも知れない。


 家族は皆、『貴族』に憧れていたから。でも私達の家は貴族では無い。貿易業で成り上がりかけてはいるけれど、まだ一歩及ばない、そんな立場だった。


 私は父の貿易業の方に興味があって、そういう勉強や商人が持ってくるものを眺めて色々考える事が好きだった。そういう所が姉と母には思わしく映らなかったんだろう。


 そして、少しずつ家族内に溜まっていった鬱々とした空気は、突然弾けた。


 ピクニックに行きましょう、と姉に言われた。その時、なんとなくもう戻れない所に行くんだな、と気付いてしまった。


 だけど私はついて行った。私が家から居なくなる事で、少しでも家の環境が良くなるなら。そんな風に思ってしまった。


 そして母と姉に連れられ、惑いの森に置いてけぼりにされた。いや、それを自分で選んだとも言えるかも知れない。



   ◆



「……こう言ってると、私から家族の元を離れたみたいですね」


 アイリスはそう言って、また俯いた。


「……アイリス」


 ブランゼンは二の句が告げず、シャオンも黙り込んでいる。


 この人達にこんな事を言ってどうするんだ。困らせているだけではないか。そんな自問がアイリスの頭を支配する。


「アイリス、お前は悪くない」


 ヘイルの言葉に、アイリスは顔を上げる。


「でも」

「悪くない」


 ヘイルはもう一度そう言うと、アイリスの肩に手を置き、その瞳を覗き込んだ。


「人間の十四というのはまだ親の世話になる歳だろう? そういう存在はまだまだ守られるべき存在なんだ。それにアイリス、お前は勉強が好きだと言ったな。何かを学ぼうとする者に、悪い奴はいない。安心しろ」


 しっかりした口調で言って、ヘイルはブランゼンの方を向く。


「アイリスもここで暮らせるようにしよう」

「えっ?」


 アイリスは驚いて、ブランゼンとヘイルを見つめる。


「それはアイリスが決める事でしょう。……私は異論は無いけれど」


 今度はブランゼンとヘイルがアイリスを見つめる。シャオンは話についていけてないのか、三人の顔をそれぞれぐるぐると見回す。


 ここで、暮らす? この竜の都で?


 そんな事考えもしていなかったアイリスは一瞬動きを止める。が、次の瞬間はもう心を決めていた。


「お願いします。ここに置いて下さい」

「駄目だ」

「ええ?!」


 ヘイルは首を振ると、こう言った。


「置くんじゃない、暮らすんだ。己の尊厳を保て」

「……! はい! ここで、ヘイルさん達と暮らしたいです!」

「よし」


 そんな二人のやりとりを見て、ブランゼンはほっと息をついた。シャオンはそれを見て、呟く。


「いまいち話が見えないけど……良かったね?」


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