四話

 ブランゼンは扉の方へ振り返ると、声を張った。


「ヘイル! いつまでそこにいるの! アイリスにちゃんと説明しないと」

「えっ」


 アイリスも扉の方へ向く。すると、扉はゆっくりと開きヘイルが顔を出した。


「……」

「…………?」


 ばっちりとヘイルと目があってしまったアイリスだが、ヘイルが何も言わないためにどうすればいいか分からない。


「ほら、ちゃんと入って。そんな風に見つめるだけじゃどうにもならないわ」


 ブランゼンに促され、おずおずといった感じで部屋に入ってくるヘイル。


「あー……その……」

「は、はい……」


 ベッドの横までやってくると、ヘイルはまた髪をかき上げる。


「いや、すまん。竜では無さそうだと思ったんだが……そのまま捨て置くというのもどうかと思ってな……いやこれはさっき言ったか?」


 どう言えばいいのか分からないのか、ヘイルは先ほどとは違ってもたついた言葉を漏らす。


「……そうだ。アイリス、窓の外を見てみろ」


 と、ヘイルは思い付いたように窓のレースカーテンに手をやり、それを引いた。


「…………えっ……」


 そこから見える景色に、アイリスは目を見張る。

宝石のような彩りの外壁に、また飴色のような高い三角の屋根。高くても三階ほどの高さしかないが、見える建物全てが煌々と輝いていた。


 そして何より、その上空を飛ぶ竜。絵物語りでしか見た事のない、大きくて鱗と羽を持ち長い尾をくねらせて悠々と空を行くその生き物。

 ここは、本当に。


「竜の都……なんですね……」

「ああ」

「あれえ? ヘイル?」

「?!」


 突然響いたその声に、身を縮めるアイリス。見ると、少し遠くを飛んでいた竜がこちらに近づいてきた。


「シャオンか」

「なんでブランゼンのとこにいるんだ? ……あれ? その子は?」


 窓枠から顔を近付け、人の頭ほどもある大きな碧い瞳にアイリスの顔が映る。ここでやっとアイリスは、この建物も三階くらいの高さである事、窓に硝子がはまっていない事に気付いた。


「え………え、と……」


 これは、どうすればいい?

 少し気が遠くなったアイリスが固まっていると、ブランゼンがその背を支え、シャオンと呼ばれた竜にこう言った。


「お客様が来てるのよ、シャオン。入るならちゃんと入り口から入ってきてちょうだい」

「あ、ごめん。お客さんが来てるなんて知らなくて、つい」


 シャオンは首を引っ込め、ようとしてその動きを止めた。


「えっ待って……もしかしてその子……人間?」

「ああそうだ」


 シャオンの問いに、ヘイルが事も無げに言う。


「えっ……」


 シャオンは首を振ってヘイルを振り返り、すぐまたアイリスへと向き直る。


「……ヘイル……」


 ブランゼンが呟くようにヘイルの名を呼ぶ。

 また見つめられたアイリスは、今度は固まるまではいかずに少し冷静にシャオンを見つめ返す。


「こ、こんにちは……アイリス、と申します」


 挨拶くらいは、と出来るだけ笑顔でシャオンに言う。


「………………………………人間だああああ!!!!?」


 シャオンのその咆哮は、アイリスを再び気絶させるには充分な声量だった。


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