第7話 ミタライさん

 さすがにミタライさんも、花柄の派手なシャツ(後でアロハシャツという名前なのだと知った)では仕事をしないようで、上から薄いブルーの白衣を着ていた。まぁ、それでも足はサンダルなんだけど……いいのかな。

 あの後、気を取り直して掃除を続けて、開店準備を終えた。私の最初の仕事は【レジ】というものらしい。数字は読めるので、カラクリの使い方さえマスターすれば何とかなりそうだった。

「YO!ユミちん、イケてるかい?」

「誰がユミちんだ、誰が」

 いきなりざっくばらんに話しかけられて、正直どう返していいのか分からなくて困る。どう接したら良いかと本人に訪ねたら、「ユミちんの自然体でイイZE☆」とか言われた。アホか。

「レジは何とかなりそうですけど……ミタライさんは大丈夫なんですか?本当に??」

「YA!何故そんなに念押して訊くんだい?

 大丈夫に決まってるじゃないかYO!」

「不安しかねぇ……アヅマさん、本当に大丈夫なんでしょうね??」

「心配すんな、これでも御手洗は3年やってきてんだ。

 大体は任せて大丈夫だ」

「……大体は。」

 てことは、ダメなところもあるんだろうなぁ。ああでも、3年ならそんなものか。そもそも今日が初めての私にはそこまで言う資格も無かったんだった。

「先生、準備OKっス!」

「こっちも大丈夫ですよ、アヅマさん」

「よっしゃ、そんじゃ今日も一日張り切っていこうぜ、てめぇら」


「「うおっス!!」」


 ……なんでこんな体育会系なんだろ?







 アヅマ薬局の隣が小さな診療所になっていて、そこで診察してもらった人が、処方せんってやつを持ってこの店に来るらしい。そして、その処方せんに書いてある通りのお薬を用意して渡す。ここまでは理解した。

 ……が。


「あらぁ、みたらしちゃん、今日も元気そうねぇ~」

「YO!ばーちゃん、今日もべっぴんさんだZE!」

「みたらしちゃん、この飴はいくらだい?」

「198円(税抜)だYO!」

「みたらしちゃんよ、風邪気味なんだけどね、何か良い薬はないかい?」

「症状はどうだい?喉が痛い?鼻水は?咳は?

 ……鼻風邪ならこの薬だな、あっという間に治っちまうZE!」

「みたらしちゃん」

「みたらしちゃん」

「HO!順番順番!番号順に並んでくれYO!

 ユミちん、番号札くばってくんない?」

「ないですよ番号札なんて」

 そこそこ年配のお婆ちゃん達に大人気なミタライさんが意外すぎる。みたらしちゃんとか呼ばれてるのか。可愛いとか思ってないぞ、絶対。

 処方せんを受け取ってはカラクリに何か打ち込み、それを見ながらお薬部屋(調剤室、というらしい)へ駆け込んでお薬を準備して、できたらアヅマさんに渡して、領収証は私に回ってくる。私はそれを見ながらレジを打つだけだ。もちろん、お薬と一緒に市販薬や飴玉などを買っていく人もいるので、その時のレジは少し気を遣いながら間違わないように慎重に。

 つまり、レジは私、お薬の確認と説明はアヅマさんで、それ以外はほとんどミタライさんがやっているのだ。接客も含めて。アヅマさんはあの通り無愛想なんで、あんまり接客しないみたい。と、考えると、ミタライさんの仕事量が半端ない。ちょっと凄いなと見直した。

「みたらしちゃん、まぁだその面白い頭してんのかい?」

「YO!ばあちゃん、ドレッドヘアと言ってくれないかい?」

「どれっどへあ?

 なんか知らないけどヘンテコな頭だねぇ。普通にすりゃいいのにさ」

「これが俺のスタイル。普通ってやつなんだZE☆」

「はいはい」

 お客様に軽くあしらわれてどうするんだ。まぁ、大体のお客さんはニコニコしてるから、それが悪いっていうわけでもない……の、かなぁ?

 だめだ、自分の中の常識に自信がなくなってきたぞ…?


「おっちゃん!助けてくれ!!」


 唐突に、店の入り口から若い男の子の声がした。そっちに目をやると、15才くらい(かな?)の男の子が立ち尽くしている。

「おう、足立のボウズじゃねぇか。どうしたんだ?」

「おっちゃん……俺は…俺はもうダメだァァァァ!!」

 いきなり顔をくしゃくしゃにしたと思うと、男の子はその場に突っ伏しておいおいと泣き始めたのだった。

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