第5話 アヅマさんについて

 そんなわけで、私は【あづま薬局】に住み込みで働く事となった。確実に路頭に迷うであろうフラグをへし折った自分を褒めてあげたい。よくやった、私!

 さて、ここで改めてアヅマさんについて説明しよう。彼の名前はアヅマジンパチ。御歳は58才。この【あづま薬局】の社長にして薬剤師である。

 背丈は私より頭2つ分ほど高く、がっしりとして大柄。私の世界の冒険者なら、背中にごっつい大剣でも背負ってそうな雰囲気。その大剣でオーガを一刀両断!うん、超似合う。

 角刈りの頭に気難しそうな眉、鋭い眼光。確実に何人か殺った事のありそうな顔だが、私を助けてくれた事を考えると、基本的には良い人なのかもしれない。

 で、こんな感じのオッサンなものだから、私はてっきり独身貴族なのかと思っていたのだが、聞いてビックリ見てもう一度ビックリ、彼は既婚者だった。だが、奥さんは早くに先立たれて、お子さんも娘さんが1人いるらしいのだが、こちらも既に成人して家を出ているのだそうだ。つまり結局アヅマさんは今は独り暮らしをしている。

 そして私が働く事となった【あづま薬局】だが、こちらは従業員が2名。ところがその内の1人が産休に入り、アヅマさんと残った従業員の2人でてんてこ舞いしていたそうだ。新たに人を雇おうかとしていた所に私が現れた、ということらしい。

 あづま薬局の仕事は、お医者さんが出した処方せんに書いてあるお薬を準備して患者さんに渡す、というものがメイン。その傍らで、一般に流通しているお薬や、健康に良いとされる食品などの販売をしている。

「とはいえ、まずやる事といったら掃除だな。塵一つ残すなよ」

「塵一つ。」

 相変わらずの人を殺めそうな顔をしたオッサンが、私にホウキを差し出しながらニヤリと笑う。やめてよ、なんかを狩猟した後のような顔で笑うの。コワイヨー。

 塵一つなんてどう考えても無理だが、とりあえず綺麗にしろよという脅しなのだと判断して、私は無言で頷きながらホウキを受け取った。

「掃除しながらでいい、市販薬にどんな物があるのかも見ておけ。どうせ市販薬なんてのも初めてなんだろ」

「イエッサー」

「面白い返事するな、バカか」

「了解しました」

 返事をし直して、私は床の掃き掃除を始めた。



 言われた通りに、掃除をしながら薬の箱を見ていく。

 鎮痛薬、胃腸薬、そのぐらいまでは分かる。私の世界でも必要なら先生が調合していた。でも、点眼薬とか見たことない……この液体目に入れるの?大丈夫なの!?

 点鼻薬……鼻!?ノーズ!?そんなとこに使う薬もあるんだ!へぇ~……こっちの世界のお薬って、凄いんだぁ…。

 ちょこまかと床を掃きながらアレコレと漁ってみる。そして見ながら色々考えてもみる。こっちの世界の薬は、私がいた世界の薬より、もっと効能を細かく限定しているようだ。私がいたところでは、頭だろうが腹だろうが足だろうが【痛み止め】として同じ薬を出すんだけど、ここでは違うようだ。うーん、奥が深い。

 ざかざかと埃を纏めてちり取りに受けていたところで、店のドアが開く音がした。カランコロンとオッサンの店にしては可愛らしいベルの音が鳴り響き、誰が来たのかと私はちり取りを持ったまま顔をそちらへ向ける。


「YO!おはYO!

 今日も一日張り切っていこうZE!!」


 ビックリしすぎてちり取り落とした。

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