四節(第一節)

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『滅世綴 第一節』


 暗闇の奥の奥。


 分かれ道は必ず細い方。


 運ぶ必要はないから。


 電子の世界に堕ちたとしても


 イノチらしく喰らわなければ。


 ただでさえここは同業者が多い。


 彼らが守っているのは


 仄暗いパイプじゃない。


 群れに力を与えることの


 愚かな当たり前から


 種全てを守っている


 守っているつもりでいる。


 彼らに効くのは


 盲信する「神」とやら。


 暴くかどうかはまかせるが


 君の仲間の大半は


 多い方を守るため


 レバーを倒すだろう。


 気にしなくていい。


 今はただ君のイノチだけ。

 



    ◆




 こぽ、こぽとドス黒い液体が煮立っている。半円状の広い空洞に流れるそれは、死を想起させるほどの異臭を放っている。唯一の迂回路は、両脇にある崩れそうなコンクリートの足場のみ。人一人が通れるかどうかのその道を、エラ達は慎重に歩いていた。

 もう一時間は歩いただろうか、代わり映えのない暗闇と集中を要する道筋に、徐々に体力を奪われていく。ヨドが軽口を叩こうとしたその時、


 「……止まれ!!」


 先頭を歩いていたレイダが二人に呼びかける。追いついたエラは、先程翻訳が完了した恋文(?)の意味を理解した。

 分かれ道。左にはこの一時間進み続けてきたのと同じ、広く汚水の流れる空洞。右手には足場の幅こそ変わらないものの、一人ずつしか通れないほど狭い穴。エラを除いた二人は当然左に行こうとしたが、彼女はそれに反対する。


 「この文――分かれ道は必ず細い方。運ぶ必要はないから――に意味がないとは思えない。あまりにこの状況に即しすぎているわ」


 レイダは沈黙し、ヨドはまたかという表情だ。どんなに思慮浅い者でも、プラントで生産された大量の食料を運ぶ道がこれ程狭いとは考えない。運ぶ必要がない、という文言がなければ、エラも突っかかることはしなかっただろう。


 「右に進もう。確かに偶然とは思えない」


 レイダが沈黙を解いた。ヨドは諦めた顔をして一言、


 「鉄のエラ様が惚れたんじゃしょうがねぇなぁ」


 とぼやく。次の瞬間、エラに首を掴まれたヨドの顔面は廃水に浸かりかけていた。


 エラ。彼女は近接格闘のエキスパートだった。調査隊に選ばれる基準は、何も腕っぷしだけではない。まして、崩虫に対して格闘術など役に立たない。

 それでも彼女が調査隊となれたのは、腕力だけではない身体能力に裏付けられた確かな技術力と、危険時の判断力のためであり、レイダもそれを買っている。彼女が鉄の女と言われるのは、その能力に加えてどんな男にもなびかないクールさもあるのだろうが。


 「だが、実際珍しいなエラ。お前がそこまで感情的になるとは。何か気になるのか?」


 ヨドを解放したエラが、レイダに向き直す。


 「この文は間違いなくこの世界が荒廃するよりずっと前のモノ。それなのに節々にまるで見て書いたかのような言葉がある」


 ヨドもそれは理解しているようで、首をおさえながら話を聞いている。

 

 「そしてもしこれを信じるなら、この先私達は『同業者』という集団と会うことになる。注意するに越したことはないわ」


 彼らは奇文に従い、細い道を選んだ。文字通り、細くもろい道程となることは露知らず。イノチの軽い滅世でも、死より恐ろしいことはある。ここはその、最初の分岐点だった。

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