アクアマリン秘話 人魚姫の涙 オリジナル小説

 その昔。

 ゴンドアナ大陸の東にあった美しい海に人魚の国がありました。

 そこにケイナという人魚の少女がいました。


 ケイナは薄い青色の髪の色をした美しい少女でした。


 ある日、一枚の板に掴まって海を漂う一人の少年を見つけました。

 このままでは少年は死んでしまいそうです。


 「ねえ、大丈夫?」

 少年は気を失ったままです。


 ケイナは小さな身体で必死で板を引っ張って泳ぎ、一番近くの入江まで運びます。


 人間は怖かったけど、浜辺で網を繕っているおじいちゃんに、


 「おじいちゃん、この子を助けて!」


 「コイツはたまげた、大丈夫か?しっかりしろ、お嬢ちゃん、うちに運ぶから手伝ってくれ!」

 

 「ごめんなさい、私、海から上がれないの。」


 魚姿の下半身を見てぎょっとした様子だったが、


 「わかった、コイツはなんとかするからお嬢ちゃんは早く帰りな、人間に見つからないうちに。」


 そう言うとおじいちゃんは少年を抱きかかえて家に戻っていった。


 ****


 そして、それから少年はおじいちゃんの子供として漁を手伝い、逞しい漁師となっていった。

 ケイナはときどき少年に会いにくるようになり、外の広い世界の話を聞いたりした、少年の名前はカイトという、お父さんが船乗りでカイトは嵐で海に転落して漂流していたと言う。

 ケイナは美しい歌声をカイトに聞かせる。


 それは何度聞いても飽きることはなく心が癒される美しい歌声だった。

 何度も何度も会ううちに友達になり、お互い好きになっていた。


 そして5年ほど経ち、ケイナも15歳となった。


 ある日、見たこともないような巨大な艦船の船団がカイトの住む入江の沖合に姿を現した。


 ケイナは驚いて海の底深くに逃げたが、あれはいったい何だろう?



 その頃入江のカイトの家には立派な軍服を着た兵士に囲まれた壮年の男性が立ち寄っていた。

 カイトは東の海の巨大艦船旅団帝国皇帝の第三王子だったのだ。


 「お父さん!」

 「カイト!無事だったんだな!」


 父と子はしっかりと抱き合い再開を心から喜んだ。


 「翁よ、よく我が息子を助けてくれた、礼を言う。」


 「そんな滅相もねえ、わしのほうがご子息にいろいろと手伝ってもらったんでさあ、それに助けたのは、、」


 翁はチラチラとカイトのほうを見る。


 「父さん、少し話したい人がいるんだ、しばらく待ってくださいませんか?」


 「よかろう、次の満月までに済ませると良い、その後ここを発つ。」


 カイトはいつもケイナと会う入江に走った。

 何日か通ってみたがケイナは現れない。



 その頃ケイナは巨大艦船群に警戒した人魚国の王と王妃である両親から入江に行くことを止められていた。

 そのまま数日が過ぎていく。



 ついに満月の夜を迎える。


 カイトは一人で入江に座り込んでいた。


 「もう会えないのかな?」


 カイトは涙を流した。



 その時だった。



 「カイト〜!」



 ケイナの美しい声だった。

 何度も心に沁みる歌を聞かせてくれたあの声が聞こえる。



 「ケイナ〜!」


 沖合からケイナが必死で泳いでくるのが見える、カイトは夢中で波を踏み分けて走る。


 二人は固く抱き合ってキスをする。


 「ごめん、ケイナ、僕は明日ここを離れないといけないんだ。」


 「うん、聞いてる、私ね、15歳になったの、人魚は15歳になったら人間になれるんだよ、そしたら連れていってくれる?」


 「それはダメなんだ。」


 博識なカイトは人魚についても学んで知っていた、その昔、ある人魚姫が王子に憧れて人間になるために声を代償に払い、結果海の泡と消えたことも。

 

 大好きなケイナにそんな代償を払わせることなど出来はしない。


 「わかってくれ、これでお別れだ。」


 何度も何度も諭し、心を鬼にしてケイナを突き放す。


 「わかったわ、でも最後にもういちどだけキスして。」


 二人は月明かりの中キスをする、ケイナの目から大粒の涙がボロボロと溢れる。



 その時だった。


 月の光が明るさを増し、まるで昼間のように明るくなる。


 奇跡が起こったのだ。



 二人の様子を見ていた月の女神ディアナがゆっくりと降りてくる。



 「ケイナ、カイト、あなたたちの深い愛情は素晴らしい宝物を生み出したわ。」


 「カイト、あなたの手にあるそれを一つ私に。」


 それは、ケイナの涙を拭おうと伸ばした手のひらに落ちた二つの美しい宝石。


 それは美しい人魚の住む海と同じ色、そしてケイナの髪と同じ色をしたアクアマリンだった。


 月の女神ディアナは言った。

 「このアクアマリンは一千年に一度だけ人魚の涙から生まれる貴石です、このアクアマリンの一つを代償にケイナ、あなたを人間にしてあげましょう、そしてこのアクアマリンを私の守護石といたします。」


 そう言うと神杖を振る。


 みるみるケイナは人間のお姫様の姿に変わっていく。


 足に慣れないケイナはよろけるが、カイトがしっかり抱き抱える。


 「ああ、月の女神ディアナ様、感謝いたします。」


 あまりの明るさに旅団帝国国王も、人魚国国王もその光に集まっている。


 「女神の名において、ケイナ、カイトに祝福を与える。」


 こうしてカイトとケイナは終世幸せに暮らし、月の女神ディアナの守護石がアクアマリンとなったのです。

 もう一つのアクアマリンは船乗りの守護石としてカイトの乗る巨大艦船旅団帝国旗艦の宝物庫に国宝として保管されることになる。

 人間の国と人魚の国が統一され交流が始まるのはまた別のお話で。 了


 注:このお話は完全オリジナル小説で、実際の神話等と異なる部分もあります、ご了承ください。

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