宿花/@shibachu への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




宿花/@shibachu

https://kakuyomu.jp/works/16816927862386978569


フィンディルの解釈では、本作の方角は北北西です。


過去に「彼女」と恋仲だった、あるいは過去に「彼女」へ想いを寄せていた、そんな「僕」の姿が描かれています。端々の口ぶりから前者が想像されるものと思います。

本作はこの基本構図を軸にして共感的に見せている点で北向きだろうとは思いますが、オチらしいオチがない、本作を通して大きな変化がない、事実開示のようなものがない、などから若干西に寄るだろうと考えます。これからどのような展開になるかも書きぶりによっていくらでも変わって、予想も固定できませんしね。

北北西と判断して差し支えないだろうと考えます。


方角抜きにして気になったのが、雰囲気の作り方です。

本作は“大人の恋愛”みたいな深みのある雰囲気を整えようとしているとは思うのですが、描写と言葉選びで強引に雰囲気を作ろうとしているのが気になりました。“肩に力が入っている”とされるような筆運びで、冒頭からくどさを感じてしまいました。「上手い描写を書こう」という意欲が前のめりになってしまっている印象です。

本作の文章は「別に普通の言い回しで書いても雰囲気的にも内容的にも全然問題ないんだけど、気を利かせてオシャレな言い回しにしてみました」という言葉選びの割合が非常に高いように感じます。反面「普通の言い回しだと雰囲気的にも内容的にもしっくりこないから、相応しい言い回しを探したらこうなりました」という言葉選びの割合が低い。

前者が多いと“肩に力が入っている”印象(頑張ってる感)が強まってしまって、作品への没入がかえって阻まれてしまうので、むしろ悪く見えてしまう危険があります。南半球ならそれはそれでアリなのですが、北半球なら作品内容と言葉選びのバランスに留意するのが無難だと考えます。

本作を読むと、地の文と台詞の空気感にズレがある印象を覚えます。地の文の「僕」はどこか高尚なのですが、台詞の「僕」はどうも俗っぽい。両者の感覚から同一人物の印象が弱く、こういったところからも“肩に力が入っている”と受けとれるだろうと思います。


もちろん地の文の肩の力をもっと抜くことでバランスを整えるのもアリですが、「僕」と「彼女」の人物表現に厚みを持たせることでもバランスを整えられるだろうと考えます。

要は「僕」は「よりを戻したい(過去に寄せた想いを遂げたい)」というだけであると思うので、人物表現としてはあんまり力が入っていないと思うんですよね。にしては文章表現に力が入りすぎていて、前のめりの言葉選びが散見されるのだろうと思います。なので文章の力を抜くでもいいし、人物表現に力を入れるでもいいだろうと思います。

たとえば「よりを戻したいが、戻ってしまっていいのだろうか」「よりを戻したいが、よりを戻したくない」くらいの人物表現にしてみると(そして「彼女」もそれに対応させてみると)、言葉にするのが難しい表現対象が一気に増えます。それを言葉にしようと思うと「普通の言い回しだと雰囲気的にも内容的にも相応しくないから、相応しい言い回しを探したらこうなりました」が増えるので、言葉選びの前のめり感が軽減されるだろうと思います。

あるいは「よりを戻したい(過去に寄せた想いを遂げたい)」の解像度をもっと上げるだけでもいいと思います。言葉にしにくい機微をもっと含んでみると。

いずれにせよ、作品内容と言葉選びのバランスを整えてみることをオススメします。


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 僕の口も小さな笑みを象ったけれど、彼女の容とは少し違う気がしていた。僕と彼女のあいだには、いったいどれだけの空気が詰まっているのだろう。

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とても良い描写。他にも良い描写がいくつか見受けられました。

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