お菓子

たちばな

お菓子

 お菓子を食べたら、甘かった。


 食べたのは、ちょっと良い値段のする生チョコ。奮発して買ったのだ。とろりと口でとろけるチョコは、とっても濃くて、甘くて、美味しかった。


 当たり前のことだ。でも、私にとっては久しぶりの甘さだった。

 そもそも、味を感じることが、私にとって久しぶりのことだった。


 私は、がんの治療を受けていた。長い間の抗がん剤治療で髪は抜け、肌は荒れ、味が分からなくなった。

 全て副作用だった。治療が進むにつれて、副作用もかなり現れるようになった。


 辛かった。食べるのが大好きなのに、味が何にも分からなくて。全部、紙みたいな味がして。食事をするのが億劫になって。


 でも、今。一応治療が終わった今、味が分かる。

 あの時は分からなかった味が、分かる。味わえる。


 お菓子を食べたら、甘かった。

 当たり前。でも、すごく幸せだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お菓子 たちばな @tachibana-rituka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ