ボケとツッコミとは?

 さて、君のコメディ小説の対象年齢が決まった。

 そして舞台も決めた。登場人物も決まったと仮定する。


 そうしたら、そこで起きるのはなにか?

 人と人が集まれば、葛藤が起き、衝突する。

 つまり漫才におけるボケとツッコミが発生するのだ。


 コメディの構造としては、落語のような、ストーリー仕立ての高度な芸術よりは、舞台ショーである「客がいつ入ってきても良い」漫才を使うのが良いだろう。

 途中から入っても、次のボケとツッコミで面白いと解るなら、途中参加でも作品に入り込める。これはコメディが強みとする部分だ。


 そもそも、ストーリー仕立てのコメディは、長期連載には向かない。

 ここでジャンプで連載されていた「銀魂」を思い出してほしい。


 あの作品では、ドリフのコント、モンティ・パイソンのスケッチに相当する単発のシチュエーションコメディはあったが、ストーリーを通しでみた場合、むしろシリアスシーンが中心であるのに気づかないだろうか?


 ボボボーボ・ボーボボでさえそうだ。

 毛狩り隊との戦いというメインプロットがあり、おもしろいコメディ部分は、所詮バトルシーンにおける奇妙な行動、サブプロットにすぎないのだ。


 戦闘という、本来緊張する状態で変なことをするから、ボボボーボ・ボーボボでは、笑いが生まれるのだ。


 繰り返しになるが、コメディを一連のストーリーとするのは非常に難しい。

 これはもはや、芸術といってもいい、落語がそうであるように。


 君がコメディをメインプロットに据えた場合、それは1話完結のオムニバスになってしまうだろう。少し書き進めれば、とても続けることができないと気づくはずだ。


 もし、オレは続けられたというなら、それは君が、自分の作品にコメディのラインとは別に存在する、メインプロットに気づいてないだけだ。


 さて、コメディ部分はあくまでサブプロット。

 添え物として使うのが長期連載ではふさわしい。


 次に問題になるのは、実際に何をすれば面白くなるか?ということだ。

 大多数の人がコメディを書こうとして悩むのが、この部分だろう。


 一言で言おう。「ボケとツッコミ」だ。

 先に上げた漫才の、「ボケとツッコミ」を使うのだ。


 まずボケは誰でもわかるだろう。

 なんか常識のないやつが、ズレたことを言ったり、することを指す。


 しかし、テレビやYoutubeでもなんでもいいが、漫才の動画を見て、ボケの部分で笑いが発生しているだろうか?いや、その次の「ツッコミ」で発生しているはずだ。


 ボケ単体で笑いが起きることもあるだ、ボケ単体はそれほど面白くない。

 では、ツッコミとはなんだろう?


 これから少し難解な表現をするが、許して欲しい。


 ボケとは世界を非常識にする行為だ。

 ここで桃太郎のシーンを例にしてみよう。


「おばあさんが川に行くと、川からどんぶらこと桃太郎がながれてきました」


 かなり異常なことが起きた。桃太郎自体が流れてきてしまった。


 そしてこの次にツッコミがやるべきことはなんだろう?

それは世界を言語で取り囲み、評価し、笑って良いものに加工することだ。


「アカン!完成品流れてきてるやん!なんで桃1ミリも出てきてないのに、おばあさんはそれ桃太郎ってわかんねん!」

「そしておばあさんは桃太郎を持ち帰り、包丁で切ってみることにしました」

「いやいや!そこで原作のとおり進んだらアカンやろ!やめてーー!!」


 ツッコミとは、こうしてボケを「包む」ことにある。


 そしてこれをさらに詳細に説明すると、ボケの種類、ツッコミの種類になる。


 ・異常な動作


 ・異常な場面・状況


 ・異常な外見


 ・異常な関係性


 ・異常な思考=ヒト・モノにたいする評価 


 ・異常な言葉、本来の意味とは違う語彙


 ・異常な音、本来すべきではない異音


「海ってアレやろ?なんか青いやつ」

「アンタの理解浅すぎて、潮干狩りできそうだわ」


「したら自販機からブリュリュリュー!!って音してな」

「もうソレ排便やろ、アイスクリーム機の出す音違うやん!」


こういった具合だ。


 ボケで火薬を撒いて、ツッコミで着火するのだ。


「ボケに対してツッコミで包む」ボケとツッコミの基本概念はこれでいい。

 しかし、ボケを言葉で包むだけがツッコミではない。


 より詳しく説明していこう。



 ツッコミの種類は、大きく別けると3つの系統になる。


・イメージの集中、概念を表す

・共通項を示す

・輪郭を表す


それぞれ説明していこう。


 まず「イメージの集中、概念を表す」とは何か?


 ボケがその言語によって、世界をふんわりとしめす。

 しかるのちに、ツッコミが詳細を貫くことで、ボケをフチ取りしていく。

 読者のイメージを限定して表現していくことが、笑いとなるのだ。


 言葉で言ってもわからないだろうから、実際にやってみよう。


「あれ風呂だったの?!親父はプールかと思ったって言ってたわ!!」

「ウチの足も伸ばせん風呂で何がプールや!茶碗で風呂はいっとんのか?」

「なんでウチの風呂のこと知ってんの?」

「えぇーー?!目玉の親父ぃ?!」


 こういうことだ。


 つぎに「共通項の説明」とはなんだろう?


 ツッコミとボケを対比したときに、共通する部分を指摘する。

 そうすると、本来結びつかない両者が結びつく。

 このことによって、その異常性から笑いが発生するのだ。


 これは先に上げたネタが相当する。


「したら自販機からブリュリュリュー!!って音してな」

「もうソレ排便やろ、アイスクリーム機の出す音違うやん!」


 つまりは、こういうことだ。

 両者は汚らしい音という点が共通している。

 この共通項への気づきが、読者を笑わせるのだ。


 最後に「輪郭を表す」を説明しよう。


 このパターンの笑いは、小説ではかなり有用な特性を持っている。

 説明を取りまとめる構造なので、世界観設定を語りながら、まとめるということができるのだ。


 ではそれを、具体的にネタで説明してみよう


「そして騎士団長が現れた、彼は胸にデカデカとアメリカ国旗が描かれたTシャツと、ピンク色に花柄のプリントがされたチノパンを履いている」

「クソダサ私服やん!なにそれ、騎士団長のくせに、服選ぶ権利ないの?」

「彼は幼くして亡くなった、母が選んだブランドを使い続けているのだ」

「割と重い理由だった?!」


 ツッコミによってボケを包んで、それで事象の輪郭を説明する方法だ。

 大から小に集中していくのが解るだろうか?

 クソダサ私服、というツッコミがそれだ。


 以上の3つがツッコミの基本だ。

 自分の書いたギャグに、これらの要素があるかチェックしてみて欲しい。


 もしなかった場合?

 それはギャグの体をなしていない可能性が高い。


 ギャグのつもりが、ただの怪文書になっていないかチェックするためにも、こういったギャグの構造論、ボケとツッコミを言語化したものを学んでおくべきだ。

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