追放サイドストーリー6




「どうした? もう攻撃しないのか?」


「ひっ!! ウィ、ウィル様!! た、助け……ガッ!!」


 ま、また消えやがった!!? カーリアはグランバルドと同じように腹に拳を突き立てられ失神した。


 唯一違うのはカーリアのローブは下半身がビシャビシャに濡れていた事だった。


 攻撃を喰らう直前から漏らしていたんだろう。


「あとはお前だけだが……まだやるのか?」


「舐めてんじゃねぇ!! このクソ野郎が!! まさか魔族ごときに俺のスキルを使うことになるとはな!!」


 その一言で頭に血が上り、あるスキルを使用することにした。


 俺が勇者たる所以であるスキル……その名も【ブレイバー】その能力は聖剣の使用を可能にし、任意で身体能力を底上げすることができる。


 このスキルは体への負担が大きすぎる……消耗した状態では使えないが今なら使える!!。


「ほう、切り札があったのか! 面白い! その力試させてもらう……」


 そう言うと魔族は腰に差してあった剣をゆっくりと抜き今までにない威圧感を解き放った。


「つっ!! 魔族風情が!! 死ねぇ!!!」


 威圧感にのまれそうになった俺は必死で自分を奮い立たせ、ヤケクソ気味に魔族に切り掛かった。


 ーーパキン!。


「えっ……! お、俺の剣が!! ありえねぇ!! オリハルコンだぞ? それをあっさりと……」


 折られた事がいまだに受け入れられずにいると、首元に剣を突きつけていた魔族がゆっくりと構えを解く。


「ふん、この程度か……もういい、早くそこに転がっている奴らを連れてここから出ていけ」


 魔族はそう吐き捨てるとつまらなそうに森の中へと消えていった。


 見逃された……?? この俺が? 魔族ごときに!? 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!。


「くそぉ!!!!!! ふざけんな!!!! クソ! クソ! クソ!」


 俺はもう誰もいない森の中でオモチャを買ってもらえない子供のように、みっともなく地面を蹴りつけた。


 しばらくして冷静になり、失神していたカーリアたちを引きづり安全な場所まで逃げ帰るが。


「……」


 胸の中には虚無感と無力感だけが残っていた。


 そして剣も心も折られた俺は再び王都へと向かい、国王である父上に全てを報告することになった。


 道中カーリアとグランバルドは地面に頭をつける勢いで謝ってきたが、俺は一言も言葉を発する事も無く王都へ歩みを進めた。


「そうか……そのようなことがあったのか、確かにこれは由々しき問題だな……人族の希望である勇者が敗北したというのは……」


「とりあえずリルドの街のギルドマスターには討伐に失敗したと報告をしておく、口止めも一緒にな」


「父上、申し訳ありません……で、ですがあの魔族の強さは異常でした!! 私のスキルを使った攻撃で傷つくどころか剣を折られるなんて」


 俺が必死で弁明をしているのがよほどショックだったのか目を軽く閉じ、慰めの言葉をかけてきた。


「案ずることはない……勇者とて人間だ、そこまで強い魔族相手に生きて帰っていた事自体が奇跡だろう」


「だが、情報はいつか外に漏れてしまう……そこで各地から強者を集め御前試合を行う事とする! そこで見事勝利し各国に勇者の威厳を見せつけよ!」


 御前試合!! そうか! その手があったか、さすが父上だ。


 これなら、俺は優勝し自信も名誉も取り戻せる! 魔族には遅れを取ったが人族相手なら俺は無敵だ!。


「御前試合は1ヶ月後に執り行う事とする! それまでは王都で己の力を高め試合に備えるように!」


「「「ハッ!!」」」


 少し自信を取り戻した俺は王宮を出るとあの剣を作ったやつに文句を言いに行こうと、前とは別の鍛冶屋に向かった。


 今度の鍛冶屋はかなり多くの貴族たちが通い詰めているほどの場所。


 前ほどの無茶はできないが、文句のひとつぐらいは言わないと気が済まない。


「おい! 俺の剣を打ったやつはどこだ! こんな不良品押し付けやがって!」


 鍛冶屋の扉を乱暴に開けると、俺は店内に響く声で怒鳴り散らす。


 すると、工房の奥から一人のドワーフが歩み出てきた。


「なんでぇ? 勇者じゃねぇか? アンタの剣を打ったのは俺だが、何かあったのか?」


「何かじゃねぇ! お前の打った剣が戦っている最中に折れたんだよ! 王都一の名工が聞いて呆れるぜ!」


「ああん? 俺が打った剣に文句があるってのか!?」


 俺が文句を言うとドワーフは不機嫌そうに怒鳴り返してきた。


 この野郎! 俺が誰だかわかっていないのか!?。


「この脳筋野郎が! 言葉が理解できないのか? とりあえずこの不良品の代わりに新しい剣を作れ!!」


「バカ言ってんじゃねぇ!! 自分の実力も分からねぇ奴に打つ剣はない!! とっとと失せやがれ!! おい! お前ら! お客様がお帰りだ!!」


「テメェらなにしやがる! 離しやがれ!」


 俺たちは力自慢のドワーフ十数人に囲まれ強制的に外に出されてしまった。


 あの魔族といいここのドワーフといい舐めた真似ばかりしやがって!!。


 俺はドアを蹴ろうとしたが貴族の常連が多数いるこの場所で何か問題を起こすのはマズイ。


 これ以上何かしたら良くない噂がたちそれを貴族たちに利用されるかもしれない。


「くそがっ!! たかが鍛治師の分際で偉そうにしやがって!! もういい! 行くぞお前ら」


「ゆ、勇者様、どうか落ち着いてください! 剣に関しては国王様から直接依頼をしていただき、作って貰えばよろしいかと!」


「その通りですわ! それに1ヶ月後の御前試合で優勝すればあの鍛治師もきっと後悔するはずです! その時に改めてここにくればいいかと思いますわ!」


 !確かにそうだ、俺が優勝すればあのクソ野郎も大きな口を叩けなくなるだろう。


「クク! お前らの言う通りだ! 今度の試合で優勝すれば俺は全てを手に入れる事ができる!! 」


 俺の優勝は確定しているわけだしな! 1ヶ月後が楽しみだぜ!。

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