第6話 忘れ物

レントは荷物を持って、ミストを自宅まで送り届けた。

「あの……、今日はありがとう。荷物も、カフェでも……」

「ああ、気にしないで。ミストが楽しかったなら嬉しいな」

「う、うん……、凄く嬉しかった……。レント、本当に……ありがとう」

ミストはそう言って恥ずかしそうに笑顔を見せた。


「さてと、そろそろ僕も帰ろうかな」

「う、うん……」

「じゃあ、また」

レントはそう言って笑顔で帰っていく。


「日が暮れた……。そろそろ、来るのね」

ミストはそう言って椅子に座る。

トントン、とノックされる。


「開いているよ……」

ミストはそう言って、戸を開ける。

そこにいたのは、青年。


「例の薬の材料持ってきたぞ。うちの坊では少し持ち込むには多いからな」

「助かります……」

「契約の事は……」

「誰にも言っていないわ」

「そうか。それは良かった」


青年は棚に薬の材料を置く。

「さてと、今日のお代を……」

「ああ、いつもので構わないよ」

「そう……、助かります……」

ミストはそう言って、青年にお茶を出す。


「しかし、薬師の仕事も苦労が多いだろう?」

「ええ……」

「だが、しっかりと努めている。立派ではないか」

「ありがとうございます……」

ミストは嬉しそうに言う。


所変わって街の中。

レントは家に戻ってすぐに気づいた。

「あ! ミストのところに明日送る資料を忘れてきた!」

レントは額を手でたたく。

「明日の朝一で送るとは言ったけど……、うーん、どうしようかな……」

レントは部屋で右往左往する。


「よし、取りに行こう!」

レントは部屋を飛び出した。


「うむ……?」

「どうしたの……?」

「人の気配がするな……」

「こんな暗いのに……、この森に誰かいるのかしら……?」


トントン、とノックされる。

「ミスト―! いるかい?」

ミストはその声にハッとした。

「……隠れて」

「お、おい、ちょっと……」

ミストは青年を服の戸棚に押し込んだ。


「どうしたの……?」

「あー、実は……、明日の資料をミストの荷物と一緒に置いて忘れてきちゃったみたいでさ」

「そうだったの……。ちょっと待って」

ミストは買い物の中から、青い封筒を手に取る。


「えっと、もしかして……これ?」

「ちょっとごめんよ……」

レントは封筒の宛名を見る。

「うん、これだ! ごめんね……」

「ううん。すぐ見つけられてよかった」

ミストはホッとしたように言う。


「そういえば、誰か来てるの?」

「えっ……?」

ミストはどきりとする。


「まあ、ミストだって年頃の女の子だしな」

レントはからかうように笑った。

「森の中は危ないから……、送る……」

「ううん、大丈夫だよ。すぐ帰るし。じゃあ、またね」

「うん……」


ミストはレントが見えなくなるまで見送った。

「ミスト、なんか変な感じだったな……」

レントは少し違和感を覚え始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る