第5話 束の間の……

物静かなミストだが、レントがうまく話を持ち出してくる。

今日は饒舌だ……。

レントはそんなミストについ笑顔になる。


「……どうしたの?」

「いや、今日は一杯ミストも話してくれるから嬉しくて」

「……うるさくない?」

「うん! 僕も楽しいよ」

レントはとても楽しそうに言う。

ミストは少し安堵した。


「ところで……、大丈夫? 重くない……?」

「平気だよ、このくらい平気。僕の事は気にしないで」

レントはミストが買ったものを、次から次へと持っているのである。

「そう……。あ、あと……、もし良かったら……そこで少し休憩しない?」

ミストが言って指を指したのは、可愛らしいカフェだ。

「そうだね……」

レントはそう言って嬉しくなる。

前誘ってみたが、断られたからこそだろう。

レントは積極的にミストをエスコートして店内に入る。


席に座って、ミストは気付いたように言う。

「少し、荷物を整理しない?」

「……もしかして、ミスト」

「……余計な事だった?」

「いや、嬉しいんだけどさ。大丈夫か不安で。潰れたりとかしない?」

「大丈夫……、パンは鞄に入れたし……、他は薬草を上に入れておいたら大丈夫……」

「うん、そっか」


ミストはいそいそと荷物を整頓する。

いくつか余分に紙袋が出たが、上手く隙間に入れる。

その手際の良さに、レントは感心するばかりだ。


「器用なものだね……」

「普段は一人で買い出すから……」

「そうなの? これからは僕にも声かけてよ。仕事がないなら手伝うし」

「でも……」

「ああ、僕は歴史研究の助手をしているだけだから、立て込んでる時以外は全然平気」

「そうなのね……」

ミストは驚いている。


「お待たせしました」

注文した珈琲と、ドーナツがやってくる。

ミストは深煎りの珈琲とクリームドーナツ、レントは中煎りの珈琲とはちみつドーナツだ。

レントはドーナツを口にした。

「美味しい……」

「はちみつは疲労回復にも良いから……」

「確かに。僕は紅茶に入れることが多いかな」

「私も……」

「そうなの? ミストも紅茶飲むんだ?」

「うん……、珈琲も紅茶も好きだし……」

「そっか。じゃあ、今度時間がある時に美味しいところ教えてあげるよ。もちろん、個々の珈琲も美味しいんだけどね」

「うん……、じゃあ今度頼もうかしら……」

「任せて」

レントは嬉しそうに言った。


「珈琲も深煎りだから、味がしっかりしてる……。美味しい……」

「そっか、良かった。……あ、ミスト、クリーム付いてるよ」

「え……、や、やだ……」

ミストは恥ずかしそうに言う。

そして、そっと手鏡で顔を見て、クリームを指で拭う。


「大丈夫、取れたよ」

「恥ずかしいな……」

「そういうのも良いんじゃない?」

レントはからかうように笑って言う。

ミストは恥ずかしそうに頬を赤くしている。


「それにしてもさ」

「な、なによ……」

「ミストって親御さんは……」

「父さんなら明日帰ってくるよ……。母さんはもう」

「そ、そっか……」

「気にしないで」

ミストはそう言って、珈琲を口にする。

「……そろそろ日も傾いてき始めたね」

「あ……、もう帰らないと……!」

「ミストは門限が厳しいんだね……」

「……うん」

ミストはそう言って、申し訳なさそうに顔を伏せる。

レントはミストを制止して先に伝票をもって会計に向かった。

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