俺がカフェでバイトをしてたら同じクラスの学年一の美少女が新人バイトとして入ってきた上、研修を俺が見ることになった件

タカ 536号機

第1話 新人バイト


 俺がいつものように席で1人、本を読んでいると担任の先生である濱田先生が俺に対し手を振っていた。


「おい、赤田ちょっと来い」


 俺の名前は赤田あかだ 順一じゅんいちでありこのクラスに赤田という苗字は他にいない。

 呼ばれていることは確定だろう。特になにかをやらかしたりはしていないはずだが……まぁ、思い当たる節がないわけじゃない。


「なんですか?」


 仕方なく俺は本を閉じて濱田先生の元へと近寄ると、濱田先生は少し躊躇った様子を見せた後に俺に顔を寄せるようにとジェスチャーをする。どうやら、他の生徒には聞かせたくないらしい。


「こんなこと聞くのもどうなんだが……どうだ? そろそろ友達出来たか?」


 やっぱりそれか。確かに2年生に上がって以来、濱田先生の前で俺が他の生徒と話しているのを見せたことがないな。

 いや、濱田先生の前だけとかじゃなくて常時そうなのではあるが。


「出来てないですよ」


 嘘をつくわけにもいかず俺は正直にそう答えるしかない。……言ってて少し悲しくなるな。


「そ、そうか。まぁ、なんだその……頑張れ。先生で良かったらいくらでも相談乗るからな。いいか、思い詰めるんじゃないぞ? 少しでも辛かったら吐き出せばいいんだ」

「お気遣い感謝します」


 どうやら相当気にかけてくれていたらしい。俺は頭を下げるとその場から去り、再び席へと戻る。

 濱田先生を不安にさせてしまったのは失敗だ。……しかし、実際のところどうやって友人など作ってよいやら。そもそも、俺にその権利があるのだろうか?


「えぇ〜、しばらく遊べないの? なんで!?」

「花凛と遊びたいよぉ」

「お前ら迷惑言うなって」

「ご、ゴメンね。色々とあってね」


 俺がどうしていいのか分からず、視線を彷徨わせていると一際目立つ彼女の姿が目へと入って来る。

 長く美しい髪を今日はポニーテールにし、いつものように女性なら誰しもが羨ましがるであろうスタイルを披露している学年一の美少女とも呼ばれる存在。

 彼女の名は町田 花凛かりんであり、みんなからはハナリンとも呼ばれ愛されている。今日も沢山の友人に囲まれている彼女は、珍しく困ったような笑みを浮かべていた。


「家族の用事とかで忙しいから」

「まぁ、ならしょがないか」


 俺とは真逆の位置に存在する彼女を見てしまった俺は、こりゃ友達作りとか無理だと濱田先生には悪いが早速諦めるのだった。

 そもそも、ここまでボッチで来た俺が誰かに話しかけ友人を作ること自体ハードルが高すぎるのだ。



 *



「っし、そろそろか」


 授業も終わり家へと帰った俺は時間を確かめると髪を整えていた洗面所で頰を叩き、気合いを入れる。

 これは俺にとって何よりも大切な儀式。そして、しっかりと気持ちを入れた俺は家を出て鍵をかけ自転車にまたがると、人気の少ない道路を走っていくのだった。



 *



「ハァハァ、セーフですか?」

「セーフもセーフ余裕だよ。というか、30分前だってのに」


 俺がその場所——カフェ「ラミテスタ」へと到着し、スタッフ専用の裏口から中へと入り目の前でいつものように椅子に腰掛けいる人物——梅バァに声をかけると、少し呆れたような返事が返ってきた。


「なら、もう準備をしないとじゃないですか」

「言うても着替えるだけだよ? そんな急ぐことかね」

「着替えたら勿論掃除ですよ。分かってるんでしょう?」

「はぁ、ゆとりの若者には困ったもんだがやりすぎる若者ってのも困ったもんだ」


 梅バァはそんなことを言うが俺にとってこれこそが全てなのだ。ここでやる気を出さないでどこでやる気を出すというのか?


「まぁ、手を抜かれるより全然いいが……ねっ!」

「うっ! な、なにするんですか?」


 俺が着替えを終え、(とは言っても中に着ている為羽織っているものを脱いだだけだか)掃除をしようと歩き出すと突如として梅バァに服の裾を捕まれ動けなくなってしまう。

 あ、相変わらずの馬鹿みたいな力だ。これで82歳だと言うのだから信じられない。


「まぁ、いつもならいいんだけどね。今日は——というか今日からは少し変わるよ」

「いっ、一体どういうことですか?」


 梅バァの発言の意味が分からず俺は思わず聞き返す。すると、その様子に梅バァは少し不気味にニヤリと笑うと口を開いた。


「先月、新人バイトが決まってたって言ったよね」

「はい、言ってましたね」


 滅多に入って来ることがないのでかなり鮮明に覚えている。そもそもここはバイトの抜けと入りが異様に少ないのだ。

 しかし、何故突然こんなことを言い出し始めたのだろうか?

 俺はどこか嫌なものを感じつつも梅バァの次の言葉を待つ。


「その子の研修……アンタに見て貰うことにしたよ」

「はぁ!?」


 俺は今まで研修などみたことはない。それに加えてコミュ力も乏しい。そんな奴が研修を見て大丈夫なのだろか?


「来月と再来月のバイト代はアップさせといてあげるから、ね?」

「分かりましたよ……」


 しかし、勿論断るなどという返事は存在しない。全部はイエスだ。


「よしっ、話は纏まったね。町ちゃん入っておいで〜」

「は、はいです」


 俺の答えに対し梅バァは満足げに微笑むと、俺が入ってきた裏口の方に向かってそんなことを呼びかける。どうやら裏口に待機させていたらしい。

 いや、普通にこの部屋で待たせておけばいいだろうと考えたが俺を驚かせたいと思ったのか? 未だに梅バァに関しては謎な部分が多い。

 というか、町ちゃんってそれに今の声……いや、まさかそんなわけがないか。


「こ、こんにちわ」

「あぁ、こんにち……」


 ガチャリと音を立てドアを開けると入って来た彼女に対し、出来る限りの笑顔を向け挨拶をしようとした俺はその場で固まってしまう。


「はぁぁぁぁぁぁ?」


 姿を現したのは学年一の美少女とも呼ばれるクラスメイトであり、つい先程学校で目にしたばかりの町田 花凛かりんさんであった。

 ……これマジか。






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 次回「荷が重い」


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