神様の国

あいりす

第1話 はじまりの ふたり

蒼衣あおい!学校行くよ!!」

「ん……」


 藤白蒼衣ふじしろあおいの眼は、半分も開いていない。現在時刻は朝6時。彼女たちの登校時間までは、まだ2時間以上ある。

 蒼衣は、かろうじて制服だけ着て部屋を出る。


「今日はあっちの方通ってくよ〜」


 旭黄美歌あさひきみかは蒼衣を手慣れた様子で引きづりながら学校とは反対の方向、地区一番の公園に向かって歩き出す。


「もう桜だいぶ咲いてるかな」

「今朝のニュースだともうすぐ満開だって」

「いよいよ春だね」


 空は、雲ひとつない快晴。早朝の空気にはまだ冬を感じる寒さがあるが、日の暖かい匂いが混じる。公園に入ると、中央の通り両脇がピンクに染まっていた。


「おお…これはもう満開だ」

「今日の通学路、公園にして良かった!写真撮り甲斐がある〜」


 いそいそとカメラを鞄から取り出し、写真撮影を始める黄美歌。一方の蒼衣も満開近い桜並木を前に、目が覚めたようである。


「つい最近カメラにハマったかと思ったら、ずっとカメラカメラじゃん。その前にハマってたギターはどうしたの?」

「んー今ギターはいいかなぁ。好きな曲ほぼ弾けるようになっちゃったし。それに最近の音楽はつまんないんだよ」

「ほんと飽きっぽいよね…」

「そこは好奇心旺盛と言いなさい」


 蒼衣は呆れる様子を見せるも、黄美歌の趣味になんやかんやいつも付き合っている。その日も結局、黄美歌は写真を撮りまくり、蒼衣はそれを横目に、公園をそぞろ歩く。


***


「やばい!!遅れる!!!」


 黄美歌は写真に夢中。蒼衣は抜けているところがある。そんな2人が遅刻寸前になるのは必然。チャイムと同時に教室に入ったのでセーフなので、今日のところは運がいい。


「おはようございます〜。旭さんと藤白さん、今日は間に合ったみたいですね。はい、席について。他のみなさんは、揃ってますか〜?」

「みどりん、おはよー」

「こら、せめて”先生”をつけなさい!」

「みどりんはいいんだー!」


 教室が生徒達の笑い声に包まれる。蒼衣の担任、葉月翠はづきみどりも、眉を寄せてはいるが、結局笑みを浮かべる。


「はいはい、じゃあ朝礼始めますよ。早速ですが、今日の中央教団からのお便りです。名前を呼んだら取りに来てくださいね〜」


 生徒たちが出席番号順に呼ばれ、個人宛の封筒を受け取っていく。


「今日は神様からの御言葉に加えて、中学3年生になった皆さんには、進路に関する御神託も書かれていると伺ってます。心して読むように」


 生徒たちは手慣れた様子で各々中を読み、周りの者と言葉を交わす。


「蒼衣の、なんだって?」

「いつも言うけど、これ他人に見せちゃだめなんだよ?」

「みんな見せ合ってるじゃんか。蒼衣ぐらいだよ?未だに見せてくれないの」

「だって神様から私だけの御言葉なんだから…」

「今回は進路も書いてあるし、他の人なんて書いてあるか気になるんですけど〜」


 ホイッ、ホレッと紙を奪おうとする黄美歌。ただ蒼衣が本気で嫌がっているのを見て、早々に手を引いた。顔は絵に描いたような不貞腐れ顔だが。

 ようやく落ち着いて見れると分かると、蒼衣は1文字1文字を目に焼き付けるよう、食い入るように紙を見つめる。


『まちびとこず さわりあり』『にしに きっちょうあり』『しんかんに てきす』


「やった…!!」

「ん〜?何かいいこと書いてあったかな??親友にもその喜びを分かち合いたまえよ」

「だから駄目だってば。内緒だよ」

「どうせ神官に向いてる、とか書いてあったんでしょうけど」

「うぐ」

「相変わらず神様大好きで、分かりやすいなぁ。そこが蒼衣の可愛いところなんだけど」

「とてつもなく馬鹿にされてる気がする」

「愛情表現だよ〜。怒るな怒るな」

「そういう黄美歌はなんて書いてあったの?」


「『あらそいごと、ひかえよ』『ねがいごと、ひとのたすけあれば、かなうことあり』」


「あれ?進路は?」

「神様、忘れちゃったんじゃない?2つ目の御言葉長かったし」

「神様が忘れるなんてこと…」

「それか、私が優秀すぎて、何にでもなれるから書く必要なかったとか?」

「ほんと調子いいなぁ。でも今日の御言葉『争い事、控えよ』なんだから、気をつけなよ。痛い目に遭っても知らないんだから」

「いつも通りにしとけばいいんでしょ〜」


「今日の朝礼は以上です。今日はホームルームの時間があるので、5限終わった後も残っておくように。最後に、黒崎夜さんは職員室にきてくださいね」


葉月翠が全生徒に封筒を配り、連絡事項を一通り伝え、いつも通りの朝礼が終わる。


「…ほんと知らないんだから」

 

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