◎第25話・方針会議

◎第25話・方針会議


 臨時収入を得た。

「いやあ、儲かるなあ」

「カイル君、これはちょっと無茶しすぎじゃない?」

 レナスが異議を差し挟む。

「それに、勇者一党が可哀想になってきたよ。今回の騒動で、またミレディさんは人望を失うだろうし、お金も取られて……勇者が悪の道に走らないかホント心配だよ」

「あいや、レナス殿」

 カイルが反論しようとしたところ、先にアヤメが発言した。

「こたびはそもそも、勇者ミレディが『バリスタの星光』をタダで奪おうとしたことから始まったもの。道理を外れたことをしようとしたのは勇者側ですぞ。戦闘の際にカイル殿がおっしゃった通り、これは正当な抵抗というほかありませぬでしょうぞ」

 その話にセシリアも同意する。

「その通り、今回の一件は勇者の横暴にほかならない。四大魔道具を先に得たのは我らであり、またカイル殿の言葉の通り、それを勇者に差し出さなければならない理由もない」

「そうかなあ。いや、そうだけどさ、戦って賠償金をせしめるのはやりすぎじゃない?」

「武力行使を先に宣言したのは相手のほうだよ。賠償金はほら、金策だよ金策。お金は多いに越したことはないからね」

「金策……」

「それに、司法院で訴えを提起すれば、もっと多額の請求が通るところだったんだ。それをいつもの値段で妥協したのは、僕たちのほうなんだよ」

 カイルは熱弁する。

「でも、司法院を通さずにお金を要求するのって、まずくない?」

「示談だよ示談。それに僕たちの言い分も決して無茶じゃない。これはきわめて、全面的に、正当な示談というものだよ」

「そうかなあ……いや、そうだね。一度したことを何度も振り返っても仕方がないよね。そう考えることにする」

 レナスは異議をあきらめたようだった。

「念のために聞くけど、他に異議のある人は?」

「ありませぬな」

「異議なし」

「よろしい。物の整理も終わったことだし、明日はギルドの貸し会議室でこれからの方策を考えよう。今日のまとめはこれで終了、みんな休むといいよ」

 カイルはそう言って、「ああ疲れた」と伸びをした。


 翌日、冒険者ギルドの貸し会議室にて。

「これからの方針を話し合おう」

 カイルがそう言うと、パーティ内からは素朴な疑問の声。

「方針って、残りの四大魔道具の獲得じゃないの?」

 レナス。

「いや、確かにそうなんだけど、要するに力をどう割り振るか、力点をどこに置くかっていうことだね」

 カイルは口を開く。

 先日、カイルのパーティは「バリスタの星光」を手に入れた。しかしこの魔道具は、「バリスタの月光」と組でないと作用しない。要するにいまは、バリスタの星光は強力な効果を発揮することなく、ただ死蔵されているだけなのだ。

 そこで、まずはバリスタの月光を探すのに注力するか、その辺にはこだわらず、広く四大魔道具の情報を収集するか、おおまかにこの二つの方針のどちらかを選ばなければならない。

 しかし。

「僕の考えだと、もうちょっと工夫ができると思うんだよね」

「工夫?」

 セシリアが首をかしげる。

「つまり。基本的にはバリスタの月光に限らず、四大魔道具一般について広く情報を集めて、その中でバリスタの月光について有力な手がかりを手に入れたときは、そっちに集中的に移行するということだね」

 カイルは「どう思う?」と尋ねた。

 会議といいつつ、実際は彼の構想が少なくとも叩き台、納得させられればある種一方的な指示に近いものになる様相だが、それはやむをえないことであろう。

「噂集めの成果次第で、方針を柔軟に変えるということですな」

「そうなるね。あまり『柔軟』でも場当たり的で良くないとは思うけど、これぐらいなら、まあ、納得してもらえるんじゃないかな、と思ったり」

 繰り返すが、いま死蔵になっているバリスタの星光は、対の魔道具がそろえば、強力な効果を発揮できるものである。

 単独で使えるほかの魔道具を探すのも決して悪くはない手だが、死蔵はなるべく減らしたいというのがカイルの考えだった。

「なるほど。それがしは異議がありません」

 真っ先にアヤメが賛同の意を表した。

 だが。

「ちょっと話はそれるけど、基本的に四大魔道具は、ギルドに寄贈しない限りお金にならないよね。いまは勇者一党から頂いたお金があるからいいけど、これからは金策の手段も考えないといけない気がする」

 レナスは淡々と言った。

「なるほど、確かに金策は必要だね。一番効率がいい金策は、ギルドへの四大魔道具の寄贈なんだろうけど……」

「冒険の中で使いたい、ということだな」

「そうだね。金策は別の手段で行いたい」

「とはいっても、具体的にどうするかが決まらないと困ると思いますぞ」

 アヤメの反論に、カイルは返す。

「ひとまず当面は、勇者ミレディから巻き上げ……もとい受け取ったお金とか、獣から素材をはぎ取って加工して売った代金とかがあるから、四大魔道具探しに集中できると思う」

「それは、まあ、そうですな」

「ある程度進んで一区切りついたら、まとめて金策を行うことにしよう。それまでは四大魔道具の探索に専念するのはどうかな」

 彼は仲間たちを見回した。

「なんていうか、すごく堅実で面白みのない提案な気がする」

「作戦とか方針ってものは、そうでなくちゃいけないと思うよ。奇抜で面白みにあふれた計画ほど、使えないものはない。例外はあるだろうけどね、堅実にやったら負ける状況とか。……他の人はどう思う?」

 水を向けられたセシリアとアヤメは、深くうなずいた。

「まあまあ、妥当な線ではあるな」

「それがしも同意ですな。……主に勇者が支払ってくれた手間賃や示談金のおかげで、いますぐ金策を行う必要はないのは大きいですな。また『支払い』に来ていただければ、もっと余裕が出ると思いまするが」

「きっとさすがに、もうそんな簡単にはいかないだろうね。お金に余裕があるいまのうちに、四大魔道具の冒険を進めなければ」

「全くもって同意にございまする」

「レナスは、他に何かあるかい?」

 レナスは腕組みしつつ。

「うん、まあ堅実にやるのがいいのは分かるよ。私もこの方針に従う」

「よし、じゃあこの方針でいこう。明日から」

「明日から?」

「うん。最近は狩りをして、山を攻略して、勇者一党と戦って、休む間もなかったからね。今日はまだ日が高いけど、ゆっくり休もう。みんな本当に疲れているのが、はた目にもわかるからね。健康管理は大事」

 彼はそう言うと、ニッと笑った。

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