◎第19話・山登りの作戦会議

◎第19話・山登りの作戦会議


 その後、カイルたちはあらかじめ用意していた、寒冷地で寒さに耐えるための水薬を各人に配り、宿屋の一室で作戦会議に入った。

「事前に聞いたところによると、八又草は一人分しかないらしいね。あと、紫電の山の高度自体はあまり高くないらしい」

「しかし厳しい登山にはなるだろうな。険しく天気が荒く獣が狂暴となれば」

 セシリアが頭をかきながら。

「それがしの【密偵】天性によって、まずは様子見のため途中まで様子を見まするか」

「うん、頼むよ」

 カイルは提案を受け容れた。

「しかし事前調査か。まさかそれが要るまでに難しいとは」

「事前調査といえば、ジェイナスさんが描いた地図があるね」

 ジェイナスが「お役に立てば」としてカイル一党に渡した地図である。

 その地図は、途中までしか明確には記載されていない。あとは予想にすぎない。頂上にたどり着いた人間があまりに少ないためだ。もっとも、山頂に住んでいる存在が人間であれば、その者が登頂を果たした人間ということになるが……。

「途中までだけど、この経路だと、さすがに崖登りが必要になるわけではなさそうだね。……後半はどうか分からないけど」

「分からないというのは怖いものだな」

「仕方がないさ。安全な冒険なんてないからね」

 セシリアの言葉に、彼は返す。

「本番前に調べるとしたら、地図に載っているところまでとなるだろうけど、まあ地図だけじゃ分からないこともあるからね」

 できれば地図の先も把握したいところだが、それをやるとそのまま山頂を目指すことになる。

「あと、登山は数十人で組んで、大規模な野営を張りながら進むのが安全って聞いたことがあるけども……」

「バリスタの星光の取り合いになるよね……」

 レナスがぼそっと。

「その通り。安全策はとれない」

「なかなかつらい話ですな」

 アヤメが腕組みをする。

「仕方がないさ。危険はなるべく摘み取るべきだけど、どうしようもないところは、どうしようもない。僕はこれでも、一党の頭首として、できる範囲で、危険の少ない道を選び続けているつもりだけど」

「致し方ありませぬな」

「カイル君は悪くないよ。悪いのは現実というか、なんというか」

 モゴモゴしながらレナスが励ます。

「というわけで、危険な旅ではあるけど、ついてきてくれるかい?」

 一同は「もちろん!」「御意」「当然だ」などと肯定の意を表した。


 その夜。

 カイルはあまり眠れないので、防寒具を着て外で星を眺めていた。

 ついに四大魔道具に挑戦を始めた。

 厳密には勇者の剣関連で、すでに冒険を始めてはいる。しかしその実質は怪盗との戦いだけで、登山や洞窟踏破など、旅らしい旅はしていない。……勇者パーティ時代にはしていたが、彼はそのとき一構成員にすぎず、頭首として仲間の命を預かる役には就いていなかった。

 緊張をしているのか。彼は自分自身に問う。

 冷たい夜風が吹く。

 ……旅らしい旅。それは自然を相手にした戦いともいえる。逆にいえば、戦いの相手となる自然の環境をよく調べ、入念に対策を練れば、勝てない戦いではないはず。

 とにもかくにも、緊張していて寝られなければ、仕事に差し支えも出よう。

 彼は星々の瞬く空を、しかしちらりと見ただけで、自室へ戻った。


 数日後の夕方、探索をしてきたアヤメから報告を聞いた。

「概ね地図の通りでございました。ただ他にも経路がございまして」

 彼女はいくつか発見した経路を報告したが。

「話を聞く限り、一番安全なのは当初の経路だね。変更はなしってことで」

 結局、当初の計画通りの経路で挑むこととした。

「むう、提案が通らないのは少しばかり悔しゅうございますな」

「仕方がないよ。この経路が一番安全に見えるんだから。頭首としても仲間をなるべく安全に率いたいし」

「それは、そうかもしれませぬが」

「危険な中、偵察に行ってくれたアヤメさんには感謝しているよ。ありがとう」

 言うと、アヤメは少し顔を赤くしながら「まあ、当然のことですゆえ」ともじもじしていた。

 それを見てレナスが一言。

「仲間を口説くのやめなよ」

「エェ……口説いてなんかいないよ」

「なんか腹立つんだよ。私だってこんなに頑張っているのに」

「まあ、狩りの時は血抜きとかはぎ取りとか、色々頑張ってくれたのは確かだ。ありがとう」

「わ、分かればいいけど……」

 レナスももじもじすると、今度はセシリアが。

「カイル殿、戦闘で一番頑張っているのは私ではないかな」

「もちろん、セシリアさんは貴重で重要な戦力の一人だね。怪盗戦ではよく頑張ってくれた。ありがとう。山登りでも獣との戦いはあるだろうから、よろしく頼むよ」

「フヘヘ」

 カイルを除く全員が妙な反応になったところで、彼は活を入れる。

「さあ、明日は登山に挑戦だ。みんな準備をして、しっかり睡眠をとってほしい。下調べがあるとはいえ、奥までは行っていないからね。今日の会議はこれで終わり!」

 彼の合図に、皆が「おう!」と拳を上げた。

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