◎第10話・人脈は身を助ける

◎第10話・人脈は身を助ける


 途中の街で何泊かしつつ、馬車に乗ると、やがてアルトリア帝国の帝都に着いた。

「わあ……大きな街だね」

「来たことないの?」

 レナスの反応に、カイルが問う。

「うん。いままで冒険者としては国内が主な活動場所だったから」

「四大魔道具が国内にあるとは限らないよね」

「う……まあ冒険者の使命は確かに四大魔道具だけど、ほとんどの冒険者は日々のご飯を食べるのにも苦労しているから……」

 そう言って、彼女は頭をかく。

 実際、彼女の言っていることは正しかった。冒険者は定義的に四大魔道具の入手を目指さないといけないが、実際に近づくことができるかといえば、また難しいものであった。

 日々の糧を得るためには、四大魔道具だけを追いかけるわけにもいかない。結果、冒険者は定義を少しばかり離れ、四大ではない魔道具を入手して売り払ったり、雑用や危険なお使いを請け負って日銭を稼いだりせざるをえなかった。

 この辺は、先日まで勇者パーティで、主に魔王討伐を目指していたカイルにとっては、実感を欠く話ではあった。

「まあ追及はしないよ、しても意味がないから。それよりもここが帝都だよ。初めての人はたいがいびっくりするだろうね。僕も最初に来たときは大きさに驚いたものだ」

「これだけ大きいと、甘味とか小物屋さんとかも多いんだろうね!」

 はしゃぐレナス。

「そうだね。この帝都にはいろんなものが集まる。……いま僕たちが目指す国立学校は、全国から生徒を集めていることもあって、ひときわ大きな建物だよ。寄宿舎もあるし、噂によると購買部とかも充実していて、学校の中だけで普通の生活ができるぐらいらしい」

「へえ……! 流行りの言葉でいうなら、学園都市ってやつかな?」

「ちょっと違うけど、似たようなものだね。物流が整っているらしくて、国立学校の中だけでも物には困らないらしい。甘味とか小物とか、必需品でないものも含めて」

「それはすごい! 私も入学したいなあ」

「レナスには無理かな。貴族であるか頭が良くないと。レナスはちょっとおつむが足りない気がする」

「失礼な!」

 ひとしきり説明をしていると、馬車は中央広場で止まった。

「さて、国立学校に行こうか。あそこには知り合いがいるから、まず彼に会おう」

 取り次ぎ。立場的には全くの外部者である彼らが勇者の剣を手に入れるためには、不可欠な手続だった。


 しかし。

「カイルじゃないか。元気か。勇者の剣について話があると聞いた」

 学年主任ネビルは、目をこすりつつ客人を出迎えた。

 その目には隈が浮かんでいる。

「ネビルさん……のほうこそ元気ではないようにみえます。何かあったのですか」

 聞くと、彼はためらいながら。

「むむ、これはどうすべきか。カイルは怪盗側ではないのは確かなんだろうけども」

 ネビルは難しい顔をする。

 やはり怪盗の話は本当だったのだ。

「怪盗……噂によると勇者の剣を盗みに来ると予告状を出したとか」

「耳が早いな。いや、学校側としても、半ば他国の宝を守らなければならなくて、ちょうど厄介に思っていたところだ」

 彼は目頭を揉む。

 確かに困っているのだろう。勇者の剣それ自体は帝国にはほぼ関係のない宝物である。しかし、それが怪盗に盗まれたとなれば、連合王国との関係に亀裂が走ることは明白。

 いうなれば、他国の大事な物品を、危険を冒しつつ無償で保管しているに等しい状態。厄介といえば間違いなく厄介である。

 そこでカイルは思いついた。

「怪盗のたくらみは阻止するつもりなんですよね。僕たちも怪盗の撃退のお手伝いをさせていただけませんか」

「むむ?」

「ただし交換条件です。怪盗の悪行を阻止した暁には、勇者の剣を僕たちに預からせていただきたく」

 カイルは手に多少の汗をかきながら提案する。

「交換条件か」

「もちろん、勇者の剣は僕たちが責任を持って勇者ミレディに引き渡します。その際に多少の駄賃をもらうため交渉する予定ですけども、いずれにしても勇者が無茶を言わない限り引き渡すつもりです」

 ものは言いようである。この言い方なら、マイナスの印象を与えるようなことはないはず。

「交換条件……その前に一つ聞きたい」

「なんでしょう」

「カイル、お前はなぜいま勇者一党にいないんだ?」

 当然の質問。

 しかし彼は誠実に答えた。

「追放……頭首向きの天性か。なるほど、嘘はついていなさそうだな」

「当然です。嘘をつく理由がありません」

「ふむ。……カイルは信用に足りる人物だ。以前、学内に野獣が出没したときも、勇者一党として事に当たってくれたからな。怪盗の息もかかっていないはずだし、思惑はあっても勇者に剣を渡してくれることも信じられる。そもそも勇者以外が勇者の剣を持っていても、そんなに意味はないからな。それに国としても、他国の『預かり物』をいつまでも持っているのは面倒だ。上からそう聞いている」

「そうでしょう」

「……よし分かった。ちょっと上にかけあってみるよ。数日待たせるけれども、待っていてくれないか。宿代は出す」

「ありがとうございます。お心遣い痛み入ります」

 カイルは内心、一面歓喜の嵐だった。

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