◎第06話・三人目の仲間

◎第06話・三人目の仲間


 仲間が二人集まった。しかし。

「もう一人欲しいな」

 カイルは冒険者のたまり場となっている酒場で、そうつぶやいた。

 レナスが反応する。

「もう、カイル君は本当に女好きなんだから。これ以上可愛い女の子が欲しいの?」

「エェ……なんでそうなる」

 彼はげんなりした顔で答えた。

「戦闘要員はセシリアさん、生存関係全般はレナスでいいんだけど……情報収集とか密偵とか、そういうのが足りない」

「情報か……確かに戦の際は大事などと言われるな。しかし冒険者一党に必要なのか?」

 セシリアが問う。

「必要だと思う。僕の勇者一党時代の経験からして」

「ほう。それはどういうこと?」

「勇者ミレディは四大魔道具や『勇者の剣』をいまだ手に入れていない。それはなぜかというと、僕の見立てでは、情報収集を軽視しているからだと思うんだよね」

 勇者の剣とは、四大魔道具と同格の宝物で、勇者の象徴とされる魔道具である。手入れが不要で、常に最善の状態を維持する剣であるとされている。四大魔道具と同じく、魔王が新たに生まれた際はどこかへ移動する。

 もっとも、魔道具として以上に、勇者は慣習上、これを手に入れないと勇者として完全であると認められないものだ。

 この剣は過去に、冒険者が先に入手し、勇者に有償で譲り渡した例があるが、それでも勇者の剣なしで勇者が魔王を倒した先例は、いまだ存在しない。

 ともあれ。

「情報収集を軽視、かあ」

「もちろん、これはやむをえない都合もある。ミレディは【司令】の天性を持っていないから、戦力が底上げできず、必然として一党全体の力が限られる。だから戦闘に大きく資源を割り振らなければならなくて、その割を食ったのが情報収集面だった」

「なるほど……」

 セシリアがうなずく。

「もちろん切り捨てといっても何もしなかったわけじゃない。余裕があるときにみんなで手分けして、諜報にあたった。だけど【密偵】持ちはいなかったから、当然、得られる情報はそんなに多くなかった」

 カイルは腕を組んだ。

「いまの一党の場合、戦闘系の天性を全く持っていなくても、僕の【司令】でそこそこ程度の戦力にはなれるから、自然と、力の余裕が生まれる」

「なるほど」

「それは逆も同じで、【密偵】とかの天性を持っていなくても、そこそこ程度には情報収集が捗るということでもあるね。とはいえ」

 彼はあごをなでた。

「【密偵】持ちは、勇者一党の『失敗』――いや、まだ失敗はしてないけれども、同じ轍を踏まないためにも、一人は欲しいところ」

「なるほど。確かにその通りだな」

 女武芸者はうなずく。

「そういえば、ギルドに出した求人があったな。もう何日も経っているから、続報を聞きに行こうか」

「求人で【密偵】持ちがいればいいね」

 レナスはニコニコしながら、楽観的な物言いをする。

 しかしそれは、確かにその通りではあった。

「もし応募者がいなければ、条件を付けて絞り込もう」

「そうだね」

 カイルはギルドへ足を向けた。


 冒険者ギルドに着くと、受付から先にカイルを呼んだ。

「カイルさん、求人に応募がありましたよ」

「おっ、それはよかった」

「セシリアさんとの仕合を見たって言っていました」

「おお。何人来ました?」

「それは……一人です」

 受付は言いにくそうに答える。

「一人かあ。あれほど派手にやっても、応募は一人……」

 彼は肩を落とす。

「カイル殿、仕方がない、もうそれはそういうものだということにしないか」

「そうだよ。そもそも仕合をしたとはいえ、勇者でもなく、まだ何も功績を挙げていない無名の一党に応募が来ること自体、すごいことだよ」

「そう考えるしかないね。……応募書類は預かっていますか」

「はい。こちらです」

 受付は答え、求人の際に求めた書類をカイルに渡した。


 冒険者ギルドのロビーで、書類を見たカイルが開口一番。

「ちょうどぴったりの人材じゃないか」

 名前はアヤメ。またも女性であるが、それはともかく。

 天性として【密偵】と【鑑定士】を持っている。

「密偵かあ。まさに待っていた人だね」

「それだけではない。【鑑定士】も持っている。敵の分析もできるんだぞ」

 なお、この世界における【鑑定士】は、単に道具の分析、鑑定ができるだけでなく、敵やその特性の分析もできる。鑑定という名の分析全般が得意と思えばだいたい正しい。

「決して上級の天性ではないけど、需要にぴったり合致するのは確かだね」

「それに……戦いの腕にもそこそこ自信があるみたいだよ」

 書類いわく。自分は戦闘系の天性こそ持っていないものの、冒険者パーティにおける戦いの必要性を理解しており、そのために弓術、短剣術を主とした武術を日々鍛錬している。その辺の野生の動物なら苦も無く仕留められる。

「へえ。【弓使い】や【短剣使い】の初級天性ぐらいには相当しそうだね。言っていることが本当なら。しかしなんで戦闘系の天性がないのに鍛えようと思ったんだろう。『冒険者一党における戦いの必要性を理解している』とは書いてあるけど、それだけじゃなさそうな気がする」

「カイル殿、答えはこの書類の中にあるぞ」

 セシリアが一点を指さす。

「この御仁、忍びの里『コウガ』出身だ」

 確かにそう書いてある。

「おお、あのコウガ出身かあ。あそこは確か、非戦闘員にも戦いの技を磨かせているって聞いたな」

「私も聞いたことがある。この御仁は情報収集担当でありつつ、武を重んじるコウガの方針で武術も鍛えていたのではないかな」

「色々推測が立ったな。決めた、アヤメさんと面接をしよう。その上で、可能なら仕合で武術のほどを確かめよう」

「そうだな。それが良いと思う」

「異議なし!」

 カイルはうなずき、連絡役となるギルドの受付に「すみません、この求人応募ですが……」と声をかけた。

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