◎第03話・淑女に優しい正義の味方

◎第03話・淑女に優しい正義の味方


 酔客を見送った後、レナスが頭を下げる。

「カイル君、ありがとう」

「いや、いいよ」

「……あれ、単独行動? カイル君は確か、勇者に随行しているはずでは……それにさっきの指輪……」

「実は――」

 カイルは事のいきさつを話した。

「というわけで、いまは一冒険者、一頭首として、仲間を集めているんだ」

「へえ。まあ確かに、勇者一党の頭首は勇者だよね。カイル君の天性は発揮しようがない。……そうだ、よかったら私を仲間に加えてくれない? 私、いまは単独なんだけど、限界を感じて」

 思い通りの展開である。

「まずはレナスの詳細を知りたいな。天性は確か、【剣客】、【生存技術者初級】、【罠解除師初級】、【料理人初級】だったよね」

「うん。どれもいまいちだけど……カイル君の天性【司令】のもとでなら、役に立てると思うんだ」

 全く異論はない。彼もその目算から勧誘しようと思っていたところだ。

「そうだね。仲間第一号として、よろしくお願いしたいよ」

「やった! ありがとう!」

 レナスは満面の笑顔。

 そのまぶしさに、思わずカイルは一瞬見とれた。

「ふふふ、カイル君と一緒に組めるんだ」

 笑顔のまま、彼女は素直に喜ぶ。

「……どうしたの、なんか呆けているみたいだけど」

「いや、なんでもない。なんでもないんだ」

 彼は気を取り直す。

 いまの彼においては【司令】と【主動頭首】が発動しているのに、その強化された理性を飛び越えて、たかが一人の女性に見とれて呆けるなど、あってはならない。

「……ずっと見とれていてもいいけど」

 小声。カイルには届かない。

「ん? なんだって?」

「なんでもない。まあ時間はあるからね」

 これからよろしく、と彼女は彼と握手した。


 これからどうするか。

 酒場を出たところで、二人は話し合う。

「私としては二人組で冒険でもいいけど……」

「さすがに人が足りないね。僕たちを含めて四人ぐらいが適正だと思うんだけど、どうかな」

「異議なし、なんだけど、あと二人をどうやって集めるの?」

 レナスの言葉に、カイルは求人を思い出す。

「ギルドの求人は出しているけど、あてにならないしね……」

「あてにならないの?」

「僕が無名で、【司令】以外に求人者にとって魅力のある天性もなく、条件も平凡だから、というようなことを受付さんに言われた」

「なるほど」

 彼女はうなずいた。

 あと二人。

「欲を言えば、純粋な戦力が一人と、情報収集役が一人欲しいところだけど。あとは……人ではないけど、魔道具の道具袋か。見た目以上の容量を持つやつだね。僕は勇者一党ではその係ではなかったから、持っていない」

 言うと、レナス。

「私持ってるよ!」

「えっ、本当に?」

「ほら」

 言って、彼女は袋を見せる。

 袋の中をのぞき込むと、確かに魔空間が広がっている。小さな家一つ分ぐらいはありそうだ。

「おお、これはいい」

 容量的に中級の袋といったところか。

「レナス、よく持ってたね」

「単独の冒険者には必須だからね。まあ私は器用貧乏で、あまりいい冒険者ではないけどね……」

「そう言わないでよ。立身出世はこれからだよ」

「立身出世……大きく出たね」

「あとはさっき言った条件に合致する仲間だな。多すぎても困るけど、まあ要らない心配だね」

 ちなみに、なぜ四人という少人数が適切なのかというと。

 主として、人間側が大人数だと、この世界の野獣も人間側を上回る群れで襲ってくるからだ。これは人間を襲う際の本能のようなもので、野生動物がどういうわけか徒党を組んで攻撃してくるのだ。

 他にも分け前と戦力のバランス、つまり冒険者の都合もあるが、いま述べた理由が一番大きい。

 なお、国家が特定地域の野生動物駆除のため、頭数が多くなることを承知で、兵を起こすこともある。その場合、不利な戦いを戦術等で補うこととなる。

 閑話休題。

「とりあえず、街中を見て回ろうか。どこかにこもっていても発見はないし、求人応募をただ待つのでは無策に過ぎるからね。僕の伝手は貧弱だし」

「そうだね。求人の応募が来るまで、見回りでもしよう」

 二人の意見は一致した。


 しかし。

「何もないね……」

「ほんと、何もないよね……」

 成果はなかなか挙がらない。

 武具屋、酒場、魔道具屋、旅道具屋など、冒険者の集まりそうなところに行ってみたが、ソロの冒険者は、運の悪いことに、この時はいなかった。

 いくつかの冒険者グループはいたが、あくまでカイルが頭首でないと、ほとんど意味がない。彼らの一党に加入するという選択肢はないものと思ったほうが良い。最悪、勇者パーティ追放のような悲劇を繰り返すことになる。

 カイルは少々治安の悪い区域まで足を伸ばしたが、ないものはない。

「帰ろうか」

「そうだね……」

 彼らがきびすを返すと。

「おうネエちゃん、この落とし前はどうつけてくれるんだ」

「兄貴の服が汚れてんだぞゴラァ!」

 路地裏で三人の悪漢たちが、鋼鉄の鎧を着た一人の女性を恫喝している。

「あれは……」

「助けに行こうか?」

 レナスが尋ねる。

 しかし。

「あの鎧の女性、何らかの武術系天性を持っているね」

 彼には【鑑定士】天性がないため、厳密な識別はできない。

 しかし【司令】と【主動頭首】により鋭さを増した洞察力が、件の女性はなにがしかの戦闘的な天性を持っていることを捉えた。

「ほっといてもゴロツキ相手に良い勝負はできそうだけども……いや、それでも助太刀してみるか。行こう!」

 言うと、カイルは軽やかな動きで、痛烈な飛び蹴りを悪漢の一人に撃った。

「がはっ!」

「一人の女性を、こうも寄ってたかって責めるのは感心しないね。仮にそのお嬢さんに非があるとしても、だ」

 この上なくさっそうとした登場。彼が内心「我ながら少し格好つけすぎたな」と思ったことは秘密である。

 同時に、レナスが他の悪漢に正拳突きを繰り出す。

「せいっ!」

「ぐえ!」

 あっという間に追い詰められた悪漢。

「な、な、お前らはなんだ!」

「淑女に優しい正義の味方さ」

 優勢の戦闘中で気が大きくなっているせいか、くさすぎる台詞をのたまうカイル。

「ふ、ふざけやがって!」

 男はナイフを取り出して、勢いよくカイルに飛び掛かる。

 しかし。

「よっと」

 避けつつ迎え撃ち、急所に一発浴びせるのは、いまのカイルにとって朝飯前だった。

「ぐぼっ……!」

 最後の悪漢を倒した。

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