7.交響曲

 数日後の夕方。

 グラシオム城の会議室では、定例の会議が行われたいた。

 出席者はいつも通り、アネマスにガイム、エンペリにグイルソン、それにアメノウズメのメンバーと悠斗だ。

「楽譜が出来上がりました」

 そこで夕梨花は、報告した。

「おおっ! そうか!」

 それを聞いたアネマスは、イスから乗り出し喜びの声を上げる。

「さっそく複写して、楽団に配ろう」

「複写?」

 一瞬、コピー機を想像して悠斗は首を傾げた。

「魔法で文字を紙に転写する事ですよ」

 その様子にガイムが囁く。

「ですよねぇ」

 そんな文明の利器がこの世界にあるはずがない。

(きっと、大抵の事は魔法で片づけられるから、科学が発展しないんだな)

 悠斗はぼんやりと思った。

「楽団にも練習が必要だろう」

 周りを見渡しながら、アネマスは言った。

「楽器をムーサに運ぶのは、その後だな」

 それを聞いた全員が頷いた。

「あの……」

 そこで、夕梨花が手を上げた。

「練習を見学したいのですが、よろしいでしょうか?」

「大丈夫……むしろ一緒に参加してもらったほうがいいだろう」

「わかりました」

 アネマスの言葉に、夕梨花は首を縦に振った。

「俺も見学していいですか?」

 悠斗は少し遠慮がちに聞いた。

 単純に、ファンとして、交響曲版のアメノウズメの曲を聴いてみたかったのだ。

「もちろん」

 だが、アネマスは、そんな興味本位な理由なのを知ってか知らずか快諾した。

 それで、今日の会議は終了した。


 それから数日は、城の中でが多種多様な楽器の音が鳴り響いた。

 楽団がパートごとに分かれて、練習をしていたのだ。

 そんな光景を悠斗はまるで放課後の学校のようだと思った。

 そして、全パートが集まり、初めて合わせる日がやって来た。

 城の中の音楽堂にでは、楽団員がそれぞれの楽器を調律していた。

 そこにはアメノウズメのメンバーと悠斗の姿もあった。

 さらには、アリサも侍女を従えて来ている。

「では、歌姫様」

 事前に夕梨花に葵と、指揮者が打ち合わせて曲順を決めてあった。

 木乃実がセンターに立ち、その横に他のメンバーが並ぶ。

 今日はダンスは無いので、並ぶ間隔はそれほど広くない。

 音楽堂そのものがそこまで広くないので、こうなったのだ。

 指揮者が指揮棒を振って、曲が始まる。

(<宿命>だ)

 出だしで、悠斗は直ぐにわかった。

 重低音で響くイントロに、アメノウズメのメンバーは目を見張った。

「♪~今はまだなにも見えないけど」

 そのご機嫌な伴奏に、木乃実は足でリズムを踏みながら歌った。

「♪~叶うと信じて前を向いて走ろう」

 夕梨花に聡子は肩でリズムを刻んでいる。

「♪~いつも感じていたなにがが違うって」

 希美もノリノリで、今にも踊り出しそうだった。

「♪~退屈な日常を壊せるものがあるはずだと」

 一人、葵は各パートが鳴らす音に耳を澄ませてチェックしている。

「これ、この前遺跡で聴いた曲ですわ!」

 交響曲と共に流れるアメノウズメの歌に、アリサは興奮気味だった。

(迫力あるなぁ)

 悠斗も、生交響楽で聞く<宿命>に圧倒されていた。

「♪~この宿命に終止符を打とう」

 曲が終わり、悠斗にアリサ、それに侍女から拍手が起こった。

「凄かったね」

 夕梨花は頬を高揚させて、他のメンバーを見た。

「うん! 迫力あった!」

 センターの木乃実がハイテンションで頷く。

「生のオーケストラだと、こんなにも違うんですね」

 聡子が余韻を噛み締めるように言った。

「早く踊ってみたい!」

 希美も今の感覚を思い出すように、足でリズムを切っている。

「今の出だしなんだけど……」

 一人、葵だけが、指揮者のところに行って、気になった点を指摘していた。

「あと、サビの部分は……」

(アオイさんが、あんなにしゃべってるの初めて見た)

 悠斗は感嘆した。

 ファン歴一年ではあるが、葵が無口である事を知っていたからだ。

 葵の指導が終わり、もう一度、始めから演奏する事になった。

「♪~」

 曲が終わり、指揮者が葵の顔を見る。

「うん、良くなった」

 葵は口元で微笑んだ。

「では、次の曲を」

 それを聞いた木乃実が、センターを夕梨花に譲った。

(ユリさんがセンターって事は、<クラスメイト>かな?)

「♪~いつも見ていたあなただけ」

 悠斗の予想通り、夕梨花の独奏から曲が始まった。

「♪~いつか届けこの想い」

 そのタイミングで指揮者が指揮棒を振るう。

「♪~なにげない優しさに引かれてた」

 アメノウズメのハーモニーと交響楽団の演奏が加わり、音が奏でられる。

 その圧倒的な迫力は、いつものギター、ベース、ドラム、それにキーボードで演奏されている曲とはもはや別物だった。

「♪~」

 曲が終わりと、葵が気になった点を指摘する。

 その繰り返しで、次から次へと曲を演奏していった。

(ライブの定番曲が全部入ってるなぁ)

 そんな事を思いつつ、悠斗は歌と演奏を堪能した。

 最後の曲が終わり、アメノウズメのメンバーと悠斗、それにアリサと侍女達が拍手喝采した。

「これなら、もういけるんじゃない?」

「うん、いけそうですね」

 希美の言葉に聡子が頷く。

「今日にでも国王陛下に話して、楽器をムーサに運んでもらいましょうか」

 夕梨花も同意見で、そうね、と頷いた。

 そこで悠斗は、フッと思い出した。

「楽器にマイクは必要ですか?」

 そして、葵に聞く。

「いらないと思う」

 愛は簡潔に答えた。

(作ったマイクは、無駄になったな)

 心の中で悠斗は思った。

「じゃあ、戻りましょうか」

「あたしはもうちょっと」

 夕梨花の言葉に、葵は首を横に振った。

「そう? じゃあ、あたし達だけ」

 そして、指揮者や楽団員と熱心に話す葵を残して、夕梨花達、他のアメノウズメのメンバーと悠斗、それにアリサと侍女達は王宮音楽堂を後にした。


 その翌日。

 昨日の会議で、楽器をムーサに運ぶ事になった。

 楽団員は専用の馬車に楽器を詰め込み、自分達も馬車で移動した。

 それにアメノウズメのメンバーと悠斗の乗る馬車が続く。

 さらに、アリサと侍女を乗せた馬車が続いた。

 馬車の群れが町中を走る光景に、行き交う人々が何事かと足を止める。

 ムーサに着くと、悠斗は先に降りて、中央管制室に向かった。

 フロートウインドウを開き、エナジー残がまだある事を確認してから、ムーサに命じた。

「搬入口を開いて」

『了解』

 指示に従って、大きな搬入口の扉が開かれる。

 既に馬車を降りていた楽団員が、楽器を持ってムーサの中へと入る。

 アメノウズメのメンバーは別の馬車で運ばれてきた木製の折りたたみ式のイスをムーサへと運ぶ。

「わたくしも手伝いますわ」

 アリサもそれに倣って、イスを運ぼうとした。

「お止めください、姫様!」

 それを見た侍女達が悲鳴を上げる。

 なので、アリサは渋々、手伝うのをやめた。

 代わりに、ムーサに詰めていた宮廷技師達がイスを運ぶ。

 そうしているうちに、悠斗が急ぎ足で中央官制室から戻ってきた。

「巨神、今、動かしますね」

 ステージはかなり広いが、さすがに真ん中に巨神が頓挫してるのは障害以外何物でも無かった。

 なので、予め置き場を変える事になっていたのだ。

 はしごを駆け上がり、悠斗はコクピットへと着く。

「起動」

『了解』

 巨神のサイドパネルと壁のスクリーンに灯が灯った。

「エナジー残」

『了解』

 フロートウインドウが開いて、現在のエナジーが表示される。

 エナジーはだいたい赤の半分ぐらいまで埋まっていた。

(これなら、少しぐらいなら動かせるか?)

 悠斗は巨神を立たせると、ステージの奥――巨神が元々立っていた場所まで歩かせる。

 それを確認してから、アメノウズメのメンバーと宮廷技師達がステージにイスを並べ始める。

 中央はアメノウズメがパフォーマンスする為、開けて、その周りを囲むようにイスが並べられていく。

「さて……どうやって降りようか……?」

 スクリーン越しにそれを見ながら悠斗は思案した。

 事前の打ち合わせでも、それは棚上げになっていたのだ。

「また浮遊魔法で下ろしてもらうのが、いいんだろうけど……」

 だが、巨神は今後、この場所に固定になるだろう。

 そうなると、乗り降りするたびに宮廷魔導技師の力を借りなければならなくなる。

 それは避けたかった。

 そこまで考えて、悠斗はフッと思った。

(ここが巨神の発着場なら、何かしらの手段があるはずだよな)

 試しに、レイに聞いてみた。

「ここから降りる方法はあるのか?」

『昇降機があります』

「えっ!?」

 平然と答えるレイに、悠斗は驚いた。

「どこに?」

「機体右側です」

 と、フロートウインドウが開き、巨神の右横の地下に収納された昇降機の立体図が表示される。

「こんな設備があったのか」

 ムーサの事は毎日のように調べていたが、気付かなかった。

「昇降機を出してくれ」

『了解』

 同時に、巨神の右横の床がせり上がり、昇降機が姿を現す。

「なに?」

 それを見たアメノウズメのメンバーや楽団員、宮廷技師達が手を止めた。

 昇降機はちょうど巨神の胸当たりまで浮上して停止した。

 途端、ムーサの灯りが落ちた。

「なんだ!?」

「どうした!?」

 ステージ上の人々がざわめく。

『ごめん……ムーサのエナジーが切れたみたい』

 巨神の中から悠斗が申し訳なさそうに言った。

『歌ってくれない?』

 それには木乃実が元気よく手を上げた。

「じゃあ、このみ、歌う!」

 そして、アカペラで<宿命>を歌い始める。

「♪~今はまだなにも見えないけど」

「ムーサのエナジーを表示する事は可能?」

 歌声を聞きながら、悠斗はレイに聞いた。

『可能です』

 直ぐにフロートウインドウが開いて、ムーサのエナジーゲージが表示される。

 以前、予想した通り、巨神とムーサはネットワークで繋がっているのだ。

「♪~叶うと信じて前を向いて走ろう」

 ムーサのエナジーがゆっくりと上昇していく。

「♪~いつも感じていたなにがが違うって」

 エナジーがある程、度溜まるのを待って悠斗はコクピットから出ると昇降機に乗り移った。

 昇降機にはタッチパネルが付いていて、三角の上矢印と下矢印が表示されていた。

「♪~退屈な日常を壊せるものがあるはずだと」

 悠斗は下矢印を押した。

「♪~手にした力が描く未来は希望? それとも絶望?」

 すると、昇降機が下へと下がり始めた。

「♪~もしも君と一緒に歩んでいけるなら」

 そして、ステージまで降りて止まる。

「こんな仕掛けがあったんだ」

 昇降機を降りた悠斗に夕梨花が近づいて話しかけた。

「俺も、さっき気が付きました」

 悠斗は苦笑いしてから、木乃実に声を掛けた。

「もう歌止めても大丈夫だよ」

「うん!」

 木乃実は元気よく頷いた。

 それから、イスを搬入する作業を再開する。

 悠斗も加わって、イスはドンドンステージに並べられていった。

 しばらくその作業が続き、総勢数十個のイスが並べられた。

 さらにその後、木製の譜面台を運び込む。

 そこまで終わって、ようやく楽団員が楽器と共にステージに上がった。

 それぞれの席に着いた楽団員は、さっそく音を出して調律を始める。

 それを聞きながら、アメノウズメのメンバーは、ステージ中央でストレッチを始めた。

「今日も踊るんですか?」

「せっかくだからね」

 悠斗の問いに、夕梨花は笑顔で答えた。

 と、その時、ガイムとグイルソンが慌てた様子で、空いたままの搬入口からムーサに入ってきた。

「大変だ!」

 グイルソンの叫びに、アメノウズメのメンバーや悠斗、それにアリサや侍女、そして宮廷技師や楽団員が、何事かと二人を見た。

「魔物の群れが、ギズミに侵攻してきている」

「えっ!?」

 その言葉に全員が驚きの声を上げた。

「これです」

 近付いて来たアメノウズメのメンバーと悠斗に、ガイムは魔水晶を見せた。

 そこには、巨大なトカゲが六体と、巨神よりも一回り大きく豚のような顔をして、鎧にヘルメットを装備し両手剣を持った巨人が二体映っていた。

(サラマンダーと……巨人はトロールか?)

「ギナソガザゾームとミガグワッシャです」

 悠斗は思ったが、ガイムは別の名を口にする。

「直ぐに出撃してくれないか?」

 グイルソンの要請に、悠斗は頷いた。

 昇降機へと走り、飛び乗る。

 素早くタッチパネルを操作すると、ゆっくりと上昇を始めた。

「ぶっつけ本番みたいになっちゃうけど……」

 集まってきた指揮者と楽団員に夕梨花は済まなそうに言った。

「大丈夫です、歌姫様」

 指揮者の言葉に、楽団員も頷いた。

 それから夕梨花と指揮者で曲目について相談する。

 ガイムとグイルソン、それにアリサや侍女、宮廷技師はステージを降りて、客席へと座った。

 昇降機が胸元まで上がり、悠斗がコクピットに着く。

 夕梨花が打ち合わせを終えると、アメノウズメのメンバーはステージへと散る。

 センターは、聡子だった。

「<NEW WORLD>か?」

 その予想通り、楽団によって軽快なイントロが流れ始めた。

「♪~きっかけはなんだっていい」

 聡子の声を中心にハーモニーが奏でられる。

「エナジーの溜まり方がいつもより早い」

 フロートウインドウに表示されたエナジーゲージを見ながら、悠斗は唸った。

「伴奏の効果か……?」

 そうしてる間にエナジーが飛行可能なレベルまで溜まる。

「レイ、出撃準備」

『了解』

 上部ハッチを閉じた悠斗は、レイに命じた。

『昇降機収納、ハッチ開放します』

 その声と共に、昇降機が地下に沈みながら、同時にムーサの天井が左右に割れる。

『出撃準備完了』

「出撃!」

『了解』

 悠斗の掛け声に、巨人は背中のスラスターから光を放ち、上昇していった。

 ある程度、高度を取ってから水平飛行に移る。

 悠斗はフロートウインドウを開いて、地図を表示させた。

 だが、ギズミに行くのも既に三回目だ。

 地形だけで、なんとなく方向はわかった。

 しばらく飛行していると、ギズミの町が見えてくる。

 そこをフライパスして、悠斗は北へと向かった。

「敵はどこだ?」

 顔を左右に振って目標を探す。

『警告』

 すると、レイが報告した。

『左舷、敵軍を発見』

 左側にフロートウインドウが開き、魔物の群れが拡大される。

 悠斗は、進路を左に取った。


 魔物の群れより離れた場所で、魔導大隊は陣営を設置していた。

 魔導兵が前線から魔水晶に映像を送って、それを見ながら魔物を操っているのだ。

「来ましたか」

 魔水晶に映った巨神を見て、マガゲスは薄笑いを浮かべた。

「総員戦闘配置!」

 大隊長の命令で、魔導兵が配置につく。

 今日は位の高い魔物を操っているので、使役者も大隊きっての者達だった。

 選ばれた六人の魔導兵が、呪文を詠唱して血のように赤い魔法陣を展開させる。

 ギナソガザゾームが赤い目を開き、術者の意に従って、横一列に隊列を組む。

「一斉掃射!」

 マガゲスの声で、ギナソガザゾームは巨神に向けて一斉に炎を放った。

「!」

 魔物の先制攻撃に悠斗は焦った。

 直ぐに巨神に回避行動を取らせる。

 おかげで寸前で炎をかわす事が出来た。

「危なかったぁ」

 悠斗は額の汗を拭った。

 炎の火力がどれぐらいかわからない以上、喰らうのは得策では無い。

 ギナソガザゾームは立て続けに炎を放ってきた。

 悠斗はそれを慎重に見極めながら、上に下に、右に左にかわしながら接近していく。

 ギナソガザゾームが間近に迫ったところで、悠斗は巨神の剣を抜いた。

 そして、空中から剣を振るう。

 それを回避しようとして、隊列が乱れる。

「隊列を乱すな!」

 マガゲスの声が飛ぶ。

 しかし、混乱した魔導兵は、個々に攻撃を始める。

「今だ!」

 それを各個撃破のチャンスと見た悠斗は、巨神を着地させると一匹ずつ攻撃していく。 炎をかわしながら、ギナソガザゾームの首をはねる。

 緑色の血を吹き出しながら、首が宙を舞う。

 それを横目で見つつ、悠斗は次の目標に迫った。

「ぐはっ!」

 切られたギナソガザゾームの使役者の魔法陣が砕け、口から血を吐きながら倒れる。

 それで他の魔導兵達は我に返った。

「円陣を組むのです!」

 そのタイミングで、マガゲスは魔導兵に命じた。

 隊長の命令に従って、魔導兵達は巨神を周りを囲むようにギナソガザゾームを移動させた。

 ギナソガザゾームが巨神めがけて一斉に炎を放つ。

「!?」

 悠斗は一瞬、焦った。

 だが、直ぐに上に回避すればいい事に気付く。

「空です!」

 しかし、マガゲスはそれを読んでいた。

 炎を連射され、悠斗は避けきれない。

 巨神の腰と足に炎がヒットする。

「損傷は!?」

 強い衝撃でそれを察知した悠斗が焦って聞く。

『腰部、小破』

 レイが無機質な声でダメージを報告する。

 同時にフロートウインドウは開いて、損傷部分を映し出す。

「ちっ!」

 悠斗は舌打ちをした。

 いくら巨神の装甲でも、さすがに高熱の炎までは防ぎきれないのだ。

 続けて、レイが報告した。

『これより自動修復に入ります』

「えっ?」

 驚いて悠斗が見ると、損傷部分が光の粒子に包まれる。

 途端、エナジーゲージが急激に減り始めた。

「ストップ! ストップ!」

 慌てて悠斗は、自動修復を止めた。

『自動修復を中止します』

「修復は、指示があった時だけにしてくれ」

『了解』

 そうしてる間にもギナソガザゾームの猛攻は続いていた。

 それをかわしながら、悠斗はなんとか接近を試みた。

 炎が左スラスターを掠める。

『左スラスター、損傷軽微』

 お構いなしで、空中から突進した。

 ズザッ! と鈍い音がして、ギナソガザゾームの背中に剣が刺さる。

『警告』

 レイが無機質な声で報告する。

『後方より、高熱源体接近』

 剣を抜きながら、後ろから迫る炎を飛んでかわす。

 そのまま腰を捻って、攻撃してきたギナソガザゾームを横から切り裂く。

「これで、あと三体」

 それでもギナソガザゾームは、円陣を崩そうとせず、三方から攻撃をしてくる。

 悠斗はエナジー残を気にしながらも、スラスターを積極的に使って炎をかわしながらヒット&アウェイで剣を打ち込んでいく。

「ぐはっ!」

 また一体、ギナソガザゾームが倒され、使役していた魔導兵が倒れる。

「ギナソガザゾームを下がらせてください」

 残り二体となったところで、マガゲスは決断した。

「あとは、ミガグワッシャでやります」

 呪文を詠唱して、マガゲスはミガグワッシャを使役した。

 もう一人の魔導兵も同じく魔法陣を展開してミガグワッシャと繋がる。

「後退した……?」

 ギナソガザゾームが撤退していった事に、悠斗は訝しげな顔をした。

 だが、理由は直ぐにわかった。

 後方に控えていた鎧の巨人、ミガグワッシャが前進してきたからだ。

 悠斗は巨神を着地させて、剣を構えさせた。

 巨神とミガグワッシャが、対峙する。

 先に仕掛けたのは魔導兵のミガグワッシャだった。

 両手剣を振り上げ、上段から切り込む。

 悠斗はそれを剣で受けた。

「くっ!」

 剣と剣がぶつかり、その勢いで巨神が後ろに下がる。

 その隙を突いて、マガゲスのミガグワッシャが、腹を狙って剣を振るう。

 カキン! と金属と金属が当たる音がして、両手剣が巨神の腹部装甲に当たる。

 その勢いで巨神は姿勢を崩しそうなった。

 それを悠斗は、スラスターを吹かしてバックステップしながら体制を立て直す。

「損傷は!?」

 それからレイに聞いた。

『軽微です』

 開かれたフロートウインドウに映る腹部は、傷つきヘコんでいた。

「なんとか耐えられそうか」

 悠斗はホッとした。

 攻撃力だけなら、ギナソガザゾームの方が上だ。

 だが、防衛力は巨神が上回っていた。

「これなら」

 心置きなく剣が振れる。

 悠斗は、スラスターを吹かすと巨神をミガグワッシャに突っ込ませた。

 それを両手剣で受けた魔導兵のミガグワッシャは、そのまま受け流そうとする。

 だが、その前に巨神は剣を引くと、横から腹めがけて剣を打ち込む。

 カキン! とまたもや金属音が響いたが、今度はさっきとは違った。

 巨神の剣は、ミガグワッシャの鎧を切り裂き、横っ腹に食い込む。

「グゥアァアアッ!」

 ミガグワッシャが雄叫びに近い悲鳴を上げる。

「いけーっ!」

 悠斗は雄叫びを上げて、剣でさらに切り裂く。

 鋼の鎧を物ともしないズゼネガの剣は、そのまま腹の真ん中までミガグワッシャを切り裂いた。

 緑色の血しぶきが噴き出し、ミガグワッシャの目から光が失われた。

「あと、一体」

 悠斗は戦闘の緊張から息を乱しながら、呟いた。

 残ったミガグワッシャは、この前のミナギャインと同じく、強いオーラを放っているように見えた。

「指揮官機、か」

 だが、悠斗も前轍を踏まなかった。

「フォトン・マシンガン!」

 悠斗の命令で、巨神は腕からフォトン弾の雨を降り注がせる。

 ミガグワッシャの鎧に無数の穴が空く。

 しかし、

「利いてない!?」

 ミガグワッシャは立ったままだった。

 フォトン弾は、鎧こそ貫通したが、ミガグワッシャに致命傷は与えられなかったのだ。

「どうする?」

 悠斗は思考した。

 フォトン・マシンガンが利かない以上、剣でけりを付けるしか無い。

 だが、さっきの攻撃で剣の刃はかなりこぼれていた。

 もう一度、鎧が切り裂けるかどうか怪しかった。

「だとすれば……」

 鎧が無いところを狙うしか無い。

 そこは正面の首だった。

「首だけをピンポイントに狙う事は可能か?」

 悠斗はレイに聞いた。

『可能です』

 フロートウインドウが開いて、首回りがアップになる。

「やるしかないか」

 気合いを入れた悠斗は、改めて巨神に剣を構えさえた。

 巨神とミガグワッシャが対峙する。

 フロントスクリーンに映るミガグワッシャとの距離を表す数字を見ながら、悠斗は間合いを計った。

「いけーっ!」

 悠斗の叫びと共に、巨神が剣を上段から切り込む。

「甘いですよ」

 それをマガゲスのミガグワッシャは、剣で受けると力任せに受け流す。

 巨神のバランスが崩れ、横に倒れそうになる。

 その隙を突いて、マガゲスは剣を振り上げて追撃しようとした。

「ここっ!」

 しかし、それは悠斗の計算だった。

 巨神のスラスターと吹かして体制を整える。

 そのまま、剣先をがら空きの首元へと突き刺した。

「グワッ!」

 ミガグワッシャが轟くような声を上げて、首から緑色の血が噴き出す。

 返り血を浴びるのも構わず、悠斗は剣を奥へと突っ立てた。

 そして、ミガグワッシャは轟音と共に地面に倒れた。

「ふーっ」

 首元から剣を抜きながら、悠斗は安堵の溜息を漏らした。

「なんとかなった」


 ミガグワッシャが倒れると同時に、マガゲスの目の前に展開していた魔法陣が砕け散った。

「ぐほっ!」

 マガゲスは血を吐いて、地面に両膝を突いた。

「衛生兵!」

 それを見たゴゾスグが叫ぶ。

 前回は自力で立てたマガゲスも、今回はそのまま呻く事しか出来なかった。

 魔導衛生兵が直ぐに駆けつけ、回復魔法を掛ける。

 しばらくそれが続いてから、マガゲスはようやくしゃべれるようになった。

「巨神……次こそは……」

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