1.遺跡の巨神

 気が付くと、アメノウズメのメンバーと悠斗は、床の上に座り込んでいた。

「痛い……!」

 聡子の声に悠斗は足首を強く握りしめていたことを思い出した。

 慌てて、手を離す。

「ごめん」

 それから小さく謝る。

「ううん」

 そんな悠斗に聡子は首を横に振った。

「ここはいったい……」

 悠斗は周りを見渡した。

 すると、直ぐ目の前に男性が立っていることに気付いた。

 年の頃なら、二十代後半。

 銀色の髪を背中まで伸ばして、優しそうな目に眼鏡を掛けた温厚な印象を受ける美男子イケメンだった。

「ジズガズナ」

「ガギラッ!」

 美男子イケメンが静かに言うと、その後ろに立っていた男女から歓声が上がる。

「これって、いったいどういうこと……?」

「ここはどこなの?」

「多分……異世界に召喚されたと思う」

 戸惑う夕梨花と希美に、悠斗は自分の予想を言ってみた。

「異世界?」

 だが、それは夕梨花を始めとするアメノウズメのメンバーをますます困惑させることにしかならなかった。

「ゲラ・グレ・ザラソル・ギヲ・ノドミソ・ソア」

 すると、美男子イケメンがソッと語りかけた。

 だが、アメノウズメのメンバーはポカンとするしかなかった。

 聞いたこともない言葉だったからだ。

 その反応リアクション美男子イケメンは困り顔になった。

「言葉が通じないのが何よりの証拠です」

「……」

 悠斗の指摘に夕梨花は考え込んだ。

「えっ? 本当に異世界なの?」

「なにそれ? あたし達、どうなっちゃうの?」

 そのやりとりに聡子と希美は不安がった。

 葵は黙ったままで、木乃実はなんだかわからない顔をしている。

 美男子イケメンは後ろに立つ男女となにやら協議しているようだった。

 知らない言葉でのやりとりがしばらく続く。

(なにを話してるんだ……?)

 悠斗はその様子を訝しげに見ていた。

 そうしているうちに話し合いは終わったらしく、美男子イケメンがこちらを向いた。

 目を閉じ、口を開く。

「ゲラ・グフェ・ガガ・ザラソル・エフェ・グラセウム」

(呪文?)

 悠斗の予想は正しく、それは魔法の詠唱だった。

 途端、悠斗とアメノウズメの頭上に緑色の魔法陣が展開され、それはゆっくりと下へ降りていった。

 六人は魔法陣を潜るような形になった。

「なに?」

「なんなの!?」

 慌てる夕梨花と希美だっが、悠斗は自分の手の平に残る緑の光の粒を見つめていた。

 輝きは地面まで下がり、弾けるように消滅する。

 そこで、美男子イケメンは改めて口を開いた。

「私の言葉がわかりますか?」

 その問いに、アメノウズメのメンバーと悠斗は顔を見合わせた。

「わかります」

 代表して、夕梨花が答える。

「デタシオへようこそ、異世界の歌姫様よ」

 美男子イケメンは深々と頭を下げながら言った。

「私はグラシオム王国宮廷魔導師、ガイム・ストアハッテです」

「異世界?」

「本当なの?」

 アメノウズメのメンバーは口々に疑問を呈した。

にグラシオム王国なんて存在しない)

 だが、悠斗は確信した。

(それに今、宮廷って言った)

 自分達が本当に異世界に来たことを。

「ここはどこなんですか?」

 メンバーの不安を代表するように、夕梨花はガイムに尋ねた。

「王都の南にある遺跡です」

「遺跡……ね…………」

 ガイムの答えに夕梨花は周りを見回した。

 そこは広いホールのような場所で、全体的に風化が進みサビが浮いて朽ち果てていた。

「異世界って、どういうこと!?」

 と、不意に希美がヒステリックに叫んだ。

「ライブはどうなっちゃたの!?」

「歌姫様は演奏会の最中だったんですね」

 ガイムは動じずに、静かに応えた。

「それは済まないことをしました」

 そして、頭を下げる。

「あたし達を元の世界に返してください」

 そんなガイムに夕梨花は冷静さを装って、キッパリと言った。

「役目を果たせば、元の世界に帰れよう」

 すると、それまで事の治り行きを見守っていた男性が、口を挟んだ。

 年の頃なら、四十代半ば。

 長い栗毛色の髪を一本にまとめ、厳つい顔と鋭い眼光を持った中年男性だ。

「誰ですか?」

「多分、国王」

 夕梨花の問いに、悠斗が耳打ちをした。他の者とは違う豪華そうな身なりで判断したのだ。

「その通り」

 男性は改めて名乗った。

「世はグラハム王国国王、アマネス・グラハムだ」

「役目とは?」

 威厳に満ちた振る舞いに多少の横暴さを感じた夕梨花は、語尾を強めて聞いた。

「巨神を復活させることだ」

 そう言ったアネマスは、遺跡の奥に立つ象を見た。

 象は大きさなら十メートルぐらい。

 人型をしていて、遺跡と同じく風化して朽ち果てていた。

「巨神?」

 それを見た夕梨花は怪訝そうな顔をした。

(巨神、だって?)

 しかし、悠斗は別の意味で怪訝そうに巨神像を見た。

(まさか……ねぇ)

 他のメンバーも巨神像を見てから、不安そうに夕梨花を見た。

「あたし達にそんな力はありません」

 その視線を充分感じ取ってるから、夕梨花は対峙するようにアネマスを見つめた。

「だから、すぐに元の世界に返してください」

 そんなリーダの様子を聡子と希美は固唾を呑んで見守っている。

 いつもクールな葵も不安のオーラーを身体から発していた。

 一人、木乃実だけが話しについて行けずに惚けている。

「この世界に伝わる伝説があるのさ」

 そこで、アネマスの後ろに控えた女性が話に割り込んだ。

 燃えるような赤髪を背中まで伸ばし、切れ長の目にハッキリとした顔立ちの美女だ。

「あなたは?」

「エンペリ・ディオース」

 夕梨花の問いにエンペリは一歩前に出た。

「宮廷技師をやっている」

 そして、身分を名乗った。

「エンペリは、古代文明の研究者でもあるんですよ」

 それをガイムが補足する。

「言い伝えには、こうある」

 エンペリは、唱えるように言った。

「空曇り、大地割れ、海荒れる時、歌響き、蘇り巨神、国を救う、と」

「その伝承では別に異世界から歌姫を召喚する必要はないのでは?」

 直ぐに悠斗がツッコミを入れる。

「あたし達もそう思って、吟遊詩人に頼んで歌を奉納してもらった」

 エンペリは肩をすくめた。

「だが、巨神は目覚めなかった」

「なので、神託に頼ることにしたのです」

 その言葉を引き継いで、ガイムが続けた。

「異世界より来たる歌姫、巨神を目覚めさせ、人々を救う」

「それが神託の答えですか?」

 夕梨花の問いに、ガイムは頷いた。

(神託かよ……)

 そんなやりとりに、悠斗は胡散臭さを感じていた。

「……」

 夕梨花はしばらく考え込んだ。

 フッと顔を仰げると、アネマスに聞いた。

「この世界は今、ピンチなのですか?」

「世界では無く、この国が、だ」

 アネマスは、苦渋の表情を浮かべた。

「我が国は、一年程前から隣国のナルーガ魔導帝国と戦争状態にあるのだ」

(戦争?)

 その単語に悠斗は反応した。帝国というのは、そんなに強大な力を持っているのだろうか?

 その予想は当たっていた。

「禁忌の魔法である魔物使役の魔法を使う帝国との戦いは劣勢で、既にいくつもの村や町が奪われている」

(魔物もいるのか……)

 これもある程度予想していたことだったが、ファンタジー物の物語やゲームと同じく、魔物が存在するらしい。

 しかも、帝国はそれをとして使っているのだという。

「このままでは、王国はやがて帝国に滅ぼされるだろう」

 懸念の表情でアネマスは改めて、アメノウズメのメンバーを見た。

「だから、どうか力を貸して頂きたい」

 そして、深々と頭を下げる。

「陛下!」

 その行動にガイムやエンペリが慌てた。

 いくら国を救ってくれるかも知れない者に対してとはいえ、一国の王がやっていいことではない。

「…………」

 アメノウズメのメンバーは顔を見合わせた。

 その表情はまだ困惑していたが、さっきまでの不安は無くなっていた。

 それを見た夕梨花が頷くと、他のメンバーもうん、と頷いた。

「わかりました」

 夕梨花はおもむろに口を開いた。

「あたしたちの歌でこの国が救えるなら協力します」

「誠か!?」

 それを聞いたアネマスは、喜びで顔をほころばせた。

「礼を言うぞ……えっと…………」

「須藤夕梨花です」

 名乗りながら夕梨花は立ち上がった。

「た、高宮聡子です……!」

 それを見て慌てて聡子も立ち上がる。

「……新崎葵」

 同じように立ち上がった葵が、ボソリと言った。

「谷口希美!」

 希美も切れ気味に答えながら、立ち上がる。

「渡木乃実だよ」

 四人に合わせて、木乃実も元気よく立ち上がった。

「あたし達五人で、アメノウズメです」

「うむっ……」

 アメノウズメの自己紹介に頷いてから、アネマスは悠斗を見た。

「そちは?」

「朝霧悠斗です」

 アメノウズメに合わせて立ち上がると、悠斗は名乗った。

「アメノウズメを助けようとして召喚に巻き込まれました」

「それは悪いことをしました」

 予想外の事だったらしく、ガイムが本当に済まなそうに頭を下げた。

「いえ……」

 悠斗は首を横に振った。

 確かにいきなり異世界に連れてこられたことは、青天の霹靂だった。

 だが、横浜アリーナあそこでただアメノウズメの消えるのを傍観しているよりは何十倍もマシだった。

「それで……どこで歌えばいいんですか?」

 夕梨花は誰とは無しに聞いた。

「ここで歌って欲しい」

 それにはエンペリが答えた。

 その言葉にアメノウズメのメンバーと悠斗は、改めて遺跡を見回した。

「ここって……」

音楽堂コンサートホール?」

 夕梨花の呟きを受けて、悠斗は半信半疑で言った。

 今、立っている場所はステージで、一段下がって観客席みたいなものがある。天井もあり、ドーム型のコンサートホールのようだった。

「じゃあ……」

「なに歌う?」

「伴奏がないから、アカペラで始まる歌にしようか」

 希美の問いに、夕梨花は答えた。

(ってことは、<クラスメイト>か)

 悠斗は思った。

 夕梨花がセンターに立ち、他のメンバーがステージに散らばる。

「いきます」

 少し緊張した面持ちで、夕梨花は宣言した。

「♪~いつも見ていたあなただけ」

 夕梨花の歌声が遺跡に響く。

「♪~いつか届けこの想い」

 すると、遺跡全体が輝き始めた。

「おおっ!」

 アネマスは思わず驚嘆の声を上げた。

 ガイムとエンペリも驚きで目を見開いている。

「巨神像も輝き始めた」

 悠斗の指摘通り、巨神像も光に包まれていた。

「♪~なにげない優しさに引かれてた」

 アメノウズメのメンバーも驚きながらも、夕梨花の声にハーモニーを合わせる。

 ダンスはしていない。

 レコーデングのようにただ立って歌っている。

「♪~気がつくとあなたを目で追っていた」

 輝きは歌声と共に徐々に強くなっていく。

「♪~あどけない笑顔向けてくれるのはなぜ?」

 チカチカと眩しい光を放つ。

「♪~私だけ特別じゃないかって期待しちゃう」

 遺跡全体がまるでイルミネーションのように光輝く。

「♪~いつも見ていたあなただけ」

 それは幻想的な風景だった。

「♪~いつか届けこの想い」

 さらに輝きは強くなり、

「♪~今はまだただのクラスメイトだけど」

 それが最高潮に達した時、

「♪~きっと叶えてみせるこの恋」

 光が弾け、遺跡が真新しく変わった。

 巨神像も、同じように変化していた。

「やっぱり、ロボット機動兵器か……」

 それを見た悠斗は、冷や汗笑いをするしか無かった。

「表面が新品に変わったのは、ナノスキンみたいなものか……?」

 それから独りごちる。

「凄い……」

 歌を止めた夕梨花は、遺跡を見回して目を丸くした。

「本当に目覚めちゃった!?」

「遺跡ができたてみたいに……」

「巨神もだよ!」

「……」

 希美、聡子、木乃実、葵も驚きながら周りを見渡す。

「巨神よ!」

 アネマスも興奮を隠しきれずに、巨神の前に立った。

「我が声に応えよ!」

 そして、話しかける。

 しかし、巨神は微動だにしなかった。

 困惑したアネマスは、ガイムを見た。

「魔法を試してみましょうか?」

 ガイムは進言した。

「いや……多分、無駄でしょう」

 だが、その言葉を悠斗が否定する。

「なに?」

 アネマスは悠斗を見た。

「そなたには巨神の目ざめさせかたがわかると言うのか?」

 そして、問う。

「多分」

 言葉は曖昧だったが、悠斗には確信があった。

「魔法で巨神の胸元辺りまで浮遊することは可能ですか?」

 ガイムに向かって悠斗は聞いた。

「可能です」

 ガイムは静かに頷いた。

「誰か、一緒に来てもらえますか?」

「自分が行こう」

 悠斗の言葉に、それまでアネマスの後ろに控えていた男性が名乗り出た。

 茶色の髪を角刈りにして、厳つい顔と鋭い目をした中年男性だ。

「あなたは?」

「王国騎士団長のグイルソン・ギガスだ」

「では、一緒に」

 二人は、並んで巨神の横に立った。

 悠斗が視線で促すと、ガイムが呪文を詠唱し始める。

 悠斗とグイルソンの足下に、空色の魔法陣が展開された。

 そして二人は、宙へと浮かび上がった。

「凄い!」

「浮いてる!」

 それを見た希美と木乃実が、驚嘆の声を上げる。

「本当に異世界に来たんだ……」

 目の前に繰り広げられた風景に、夕梨花は改めて実感した。

 胸元辺りまで浮いた悠斗は、巨神の胸回りをよく見た。

(多分、この辺りに……)

 すると、小さなタッチパネルを見つけた。

「これか」

 迷わずパネルをタッチする。

 すると、巨神の胸が上に開いてコクピットが姿を現した。

「おおっ!」

 その光景にアネマス達は歓声を上げる。

「座ってみてください」

 悠斗に即され、グイルソンはコクピットのシートに着いた。

 コクピットの中はシートとその左右にタッチパネルが付いていた。

「左右のパネルに手を乗せてみてください」

 悠斗の指示通り、グイルソンはパネルに手を置いた。

 しかし……、

「なにも起きないが?」

 グイルソンは困惑した。

 一方、悠斗は眉間に皺を寄せて考え込んだ。

(現世の歌で目覚めたのなら……)

 その考えに至って、悠斗は身震いした。

「席を替わってもらえませんか?」

 悠斗の申し出にグイルソンは席を立つと、空色の魔法陣の上に乗った。

 代わりに、今度は悠斗がコクピットに着く。

 それから左右のパネルに手を置いた。

 すると、ヒューンと機械音と共にパネルに灯が灯った。

 コクピットの外壁に外の景色が映し出される。

 同時に巨神の目が輝いた。

「おおっ!」

「光った!」

 アネマス達とアメノウズメのメンバーが、一斉に声を上げる。

『Selecting language……』

 コクピットにメッセージが流れる。

(英語?)

 悠斗が訝しげに思っていると、直ぐに次のメッセージが流れた。

『言語を日本語に設定』

 流暢な日本語だった。

『ようこそクリュメネへ』

 声は男性とも女性とも取れる声色トーンだった。

『まず私の名前を設定してください』

 その質問に悠斗は少しだけ考えたて、この機体がAIナビゲーションを搭載しているなら、この名前しかないよな、と名を告げた。

「レイ」

『確認しました』

 目の前にフロートウインドウが開き、今言った名前がで表示される。

『私の名前はレイです』

「この巨神の操作方法は?」

 次に悠斗は一番気になることを聞いた。

『思考制御です』

「やっぱりな……」

 タッチパネル以外にレバー類が一切無いこと、AIナビゲーションを採用していることから予想は付いていたので、悠斗は頷いた。

『警告』

 すると、レイが新たなメッセージを発した。

『エナジーの残りが十パーセントを切りました』

 同時に別のフロートウインドウが開き、円グラフが表示される。

『即座の補給を提案します』

 円グラフには、エナジーが赤く表示されていて、全体の十分の一を切っていた。

 悠斗は思案した。

「歌か……」

 だが、直ぐに結論にたどり着く。

 悠斗は巨神を見上げている夕梨花を見た。

 それに合わせて巨神の首も動く。

「また歌ってもらえませんか?」

 巨神に見詰められた夕梨花は他のメンバーと目配せした。

「じゃあ、続きから」

 スーッと気をすって深呼吸してから、夕梨花は歌い始めた。

「♪~ソッと手を差し伸べてくるねいつも」

 すると、エナジーゲージが徐々に溜まり始める。

「♪~そんなところが大好きなの」

「やっぱりね……」

 予想は当たってた。

「どういうことかね?」

 それまで事態を見持っていたアネマスが、しびれを切らすように聞いた。

「この巨神は歌の力で動くようです」

「♪~さりげない優しさは誰のものなの?」

「あと、異世界人じゃないと動かせないみたいです」

「♪~私だけに向けて欲しいのはわがままかな?」

「ふむっ……」

 アネマスは考え込んだ。

 と、そこへ、

「国王陛下!!」

 衛兵が飛び込んできた。

「何事か?」

 衛兵は慌てた様子だったが、アネマスは威厳を示すように落ち着いた態度で聞いた。

「ギズミが帝国軍の侵攻を受けてます!」

「なんだと!?」

 さすがにその言葉には動ぜざるを得なかった。

「ギズミって?」

 悠斗はコクピット隣に浮くグイルソンに尋ねた。

「王国北の帝国との国境線上にある城塞都市だ」

「ギズミの城壁が破られたのか!?」

 にわかに信じがたい表情でアネマスは呻いた。

「帝国軍は、ミガヒストンを投入した可能性があります」

 戸惑うアネマスに、グイルソンは冷静に応えた。

(ミガヒスト?)

 悠斗は首を傾げた。

 そんな名前の魔物は知らない。

 だが、直ぐに、ここが言葉の違う異世界であることを思い出した。

 アネマスは思案した。

 アメノウズメのメンバーも歌を止めて、その様子をジッと見ている。

 しばらく考え込んでから、アネマスは巨神を見上げた。

「済まぬが、巨神の力でギズミを救ってはもらえぬか?」

 そして、頭を下げる。

「陛下!」

 アネマスの行動にまたもガイム達が慌てる。

「俺は構わないですけど……」

 言いながら悠斗はアメノウズメのメンバーを見た。

 巨神の視線に、メンバー全員が顔を見合わせる。

「町が襲われてるのを」

「ほっとくのも」

「ね……」

 それを受けて夕梨花は、アネマスを見た。

「わかりました」

 そして、宣言する。

「協力します」

「誠か!?」

 アネマスは、感謝の顔で夕梨花を見返した。

「ここからギズミまでの距離はどれぐらいですか?」

「馬で四週ほどだ」

 悠斗の質問にグイルソンが的確に答える。

「遠いな……」

 この世界の馬がどれぐらいで走るのかわからないし、四週が自分達の世界と同じとは限らない。

 それでも、かなり距離があることは想像できた。

(そういえば……)

 そこで悠斗は、巨神の背中に翼らしきものがあることを思い出した。

「この機体は、空を飛べるか?」

『可能です』

 直ぐにレイは答えた。

(それなら……)

 飛行速度にもよるが、駆けつけられるかも知れない。

「この国の地図はありますか?」

 悠斗はグイルソンに尋ねた。

「直ぐに用意させよう」

 そう言ってからグイルソンは視線でガイムに促した。

 魔法陣が降下し、ステージに降りる。

 そして、今、報告に来た衛兵に地図を用意するように命令した。

「その間に、歌ってもらえますか?」

 エネンジーゲージを気にしながら、悠斗は夕梨花に聞いた。

「わかった」

 頷いた夕梨花と他のメンバ-は、再び歌い始めた。

「♪~いつも見ていたあなただけ」

 エナジーゲージがゆっくりと赤で埋まっていく。

「♪~いつか届けこの想い」

 衛兵は本当に直ぐに地図を持って戻ってきた。

「♪~なにげない優しさに引かれてた」

 地図は紙製で、それを床に広げる。

「♪~気がつくとあなたを目で追っていた」

「地図を拡大出来るか?」

 足下のスクリーンに小さく映る地図を見て、悠斗は聞いた。

『可能です』

「なら、拡大してくれ」

『了解』

 また別のフロートウインドウが開いて、拡大した地図が表示される。

「ここが遺跡で、ここがギズミだ」

 それを待っていたように、グイルソンが地図を指さす。

 遺跡は地図の最南端にあり、ギズミは最北端にあった。

「地図のスキャンは?」

『可能です』

「じゃあ、スキャンしてくれ」

『了解』

 フロートウインドウに横の赤線が入り、ゆっくりと上から下へと下がっていく。

『完了』

 その報告に悠斗は地図を確認した。

 フロートウインドウにタッチして、遺跡とギズミをマークする。

「♪~今はまだただのクラスメイトだけど」

 その間もアメノウズメは歌い続けていた。

 エナジーゲージはちょうど赤が全部埋まるところだった。

「よし……出撃を……」

 と、言いかけて悠斗は言葉を止めた。

(どこから出るんだ?)

『発進シークエンスに入ります』

 その思考を読み取ったレイが報告する。

『ゲートを開放します』

 すると、ゆっくりと遺跡の天井が左右に割れ始めた。

「おおっ!」

 アネマス達が歓声を上げる。

「♪~きっと叶えてみせるこの恋」

 アメノウズメも歌は止めなかったが、驚きで目を見開いていた。

『ゲート解放完了』

「それなら出撃だ」

『了解』

 巨神の背中の翼が跳ね上がり、そこから光の粒子が放出される。

 翼がスラスターになっているのだ。

 そして、巨神はゆっくり上昇すると、青い空へと飛び立っていった。

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