アイドルの異世界召喚に巻き込まれた俺は、巨神の担い手となって戦場を無双する

碗古田わん

プロローグ 横浜アリーナ

 歌声が、会場全体に響き渡っていた。

 ステージの上では、五人の少女達が歌い踊っていた。

 腕を振り回しながら、右へ左へ前へ後ろへとステップを踏む。

 満員の観客では色鮮やかなサイリウムが振られていた。

 少女達の名は、天鈿女アメノウズメ

 今年でデビュー三年目のアイドルユニットだ。

 今、センターで歌っている茶色の髪をショートボブにして、たんせいな顔立ちに肉厚のある唇が印象的な美少女は、須藤すどう夕梨花ゆりか

 アメノウズメのリーダーだ。

 その右隣で歌っている黒っぽく見える青色のストレートの髪を背中まで伸ばして、切れ長の目にほっそりとした顔をした和風美少女は、新崎にいざきあおいだ。

 身体が左右に揺れるたびに、汗と綺麗な髪が宙を舞う。

 夕梨花の左隣で歌い踊っているのは、高宮たかみや聡子さとこ

 肩ぐらいまで伸ばしやストレートの髪を両サイドだけ後ろでくくり、垂れた目とポッチャリ頬をした美少女だ。

 肉付きのいい身体をしていて、上下にステップを振るたびにFカップの胸が揺れる。

 葵の横で切れのあるダンスを踊っているのは、谷口たにぐち希美のぞみで、赤毛をツインテールにして、つり目で気の強そうな印象を受ける。

 聡子の隣で、楽しそうに歌っている濃い赤褐色の髪をサイドテールにして、大きな目に幼さの残る顔立ちをした美少女は、わたり木乃実このみ

 メンバー最年少の中学一年生、十二歳だ。

 曲が終わり、観客席からわーっと歓声が上がる。

「みなさん、こんにちは!」

 それが止んでから、夕梨花が一歩前に出て語りかけた。

「アメノウズメです」

 わーっ、と再び歓声が上がる。

「今日はわたしたちの初めてのアリーナライブに来て頂いてありがとうございます」

 夕梨花の言葉に、メンバー全員が頭を下げる。

 デビューは三年前だが、ブレークしたのはこの一年で、小さな劇場でのライブは何回もあったが、横浜アリーナのような大きな舞台はこでライブするのは今日が初めてなのだ。

「ここまで来られたのも、ファンのみなさんの声援のおかげです」

 おーっ、と三度歓声が沸く。

「しかし、感慨深いですな」

 観客席でサイリウムを振りながら、小太りの青年がポツンと漏らした。

 ファンの間では吉Pと呼ばれる古参だ。

「そうですね」

 その隣で同じくサイリウムを振りながら、朝霧あさぎり悠斗ゆうとが応える。

 クセのある黒髪をショートヘアにして、ほっそりとした輪郭に三白眼、やや冷たそうな印象を受ける顔立ちをしている少年だった。

 歳は十五歳、今年の春に――約一ヶ月前――に高校生になったばかりだ。

 悠斗とアメノウズメの出会いは一年前。

 それまでバリバリのオタクだった悠斗は、二次元ラブで三次元などに興味は無かった。

 しかし、深夜アニメの主題歌を歌ったことでアメノウズメの存在を知り、そこから別の曲も聴くようになり、気が付くとすっかりいたのだ。

 受験生であるに関わらず、オタク特有のコレクター魂でグッズを集めまくり、劇場ライブにも足を運び、おかげで志望高校に落ちそうになりながらもなんとか合格して、こうして初のアリーナライブにも足を運べることとなったのだ。

 同じようにその曲、<宿命>でアメノウズメのファンになった人は多く、ブレイクのきっかけにもなった。

 ファンの間では、深夜アニメのタイトルから、イレーザー組と呼ばれていた。

「それでは、次の曲です」

 MCが終わり、夕梨花は告げた。

「<宿命>」

 わーっと、またもや歓声を上げる。

 それまで端に控えていた木乃実がセンターに立ち、フォーメーションを組む。

 自分をアメノウズメの曲。

 悠斗のテンションはいやが上にも上がった。

「♪~」

 アメノウズメのメンバーの衣装は、グループ名に合わせて、巫女装束を思わせるトップは白のノースリープの着物で腕には振り袖を巻いき、アンダーは赤の腰には大きめの結び目がある短めのフレアスカートで、履いているニーソックスとの間に出来る絶対領域が眩しい。

 それを応援する観客は全員、この日のために用意されたアリーナライブの記念Tシャツを着ている。

 そこから次々と曲が歌われていった。

 どれもDL販売で買って、今や空でも歌える曲ばかり。

 サイリウムを一生懸命振りながら、悠斗は声援を送った。

 そして、悠斗にとってお待ちかねの時間がやってきた。

 メンバー全員がトロッコに乗り、観客席の中を回るのだ。

 このためにわざわざ通路側の席を取った悠斗のテンションは最高潮に達していた。

 劇場では間近に見る機会もあったが、記念すべきアリーナライブを目の前で見るのはまた違った興奮があった。

 アメノウズメを乗せたトロッコが徐々に近付き、悠斗の方へとやってくる。

 ちょうど目の前に来た時、

「!?」

 アリーナの天井が赤く輝いた。

 最初はなにかの演出かと思った悠斗だったが、直ぐに違うと気付いた。

 トロッコの上のアメノウズメのメンバーも、驚いた様子で天井を見上げていたからだ。

 そうしてる間のも赤い輝きは円状に広がり、複雑な幾何学模様が映し出される。

「魔法陣?」

 それを見た悠斗は、とっさにそんなことを口走った。

 明らかに、マンガやアニメでよくある魔法陣そのものだ。

 輝きはアメノウズメを照らして、

「えっ?」

「なに!?」

「嫌っ!」

「なんなの!?」

「……!?」

 メンバー全員の身体がフワッと宙に浮かんだ。

(吸い込まれる!)

 とっさに悠斗は席の前のフェンスを跳び越えると、トロッコに飛び乗った。

 そして、浮いた聡子の足首を掴む。

「!?」

 すると、悠斗の身体も宙に浮かんだ。

(マズイ!)

 慌てて、足の先をトロッコの手すりに引っかけようとする。

 しかし、すんでの所でつま先は空を切った。

「いったい、なにが……?」

 絶句する吉Pを置いて、アメノウズメと悠斗は魔法陣の中に吸い込まれていった。

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