第13話 完璧美少女と昼休み
結局、俺は昼休みになってようやく質問攻めから解放された。
とはいっても、教室から逃げ出して食堂に避難してきているだけだが。
「お疲れさまだな」
宏太朗はいつも通り隣に腰掛ける。
(遠くからニヤニヤ眺めてたくせに)
「見てたなら助けてくれよ」
「いや~二人のイチャイチャを邪魔したくなかったからねえ」
宏太朗は面白かったと言わんばかりに笑顔だ。
まあ俺が本当に困っていたら助けてくれただろうし、宏太朗には俺が不快に思っているようには見えなかったのだろう。
「で、ほんとのところどうなの?
付き合ってんの?」
「…」
(やはり気づかれてたか)
かれこれ十年来の付き合いだ。
しかも宏太朗はこういうときいつもやけに鋭い。
今回もお見通しというわけだ。
「はあ…ほんとお人好しなことで」
宏太朗は呆れたように肩をすくめる。
「うるせえ」
まあこういうとき深く聞いてこないのもこいつの良い所だ。
「あ~あ、俺も彼女ほしいなあ」
「作ろうと思ったら作れるだろ。
このイケメンが」
実際しょっちゅう告られてるし。
まあ作られたらうちの妹がメンタルブレイクしそうだから絶対やめてほしいけど。
「いや~同じクラスに望月さんがいるとな~」
「おい、やめろ」
宏太朗は冗談めいて言っているが、まあ気持ちもわからんもない。
望月さんはそれほどまでに圧倒的な雰囲気を誇っていた。
「で、そんな望月さんのこと好きになっちゃったり~?」
「……ない」
(しまった…)
とっさに否定するが、少し間が空いてしまった。
「…へえ、まじか」
宏太朗は驚いたような顔をする。
(ぜっったい勘違いされたじゃねえか~)
そんな話題の中心にいるお姫様はいつもタイミングが悪いもので、
「あっ村田君やっと見つけました~」
と今回もなかなかに最悪のタイミングで現れた。
「村田君探したんですよ~
すぐどこかへ行ってしまうんですから。
私だけ置いて行ってしまうなんてずるいです。
仮のとはいえ彼女なんですからご飯くらい一緒に食べましょうよ」
黙って食堂に来たのがよほど不満だったのか、いつになくよく喋る。
ってか”仮の”って堂々と言っちゃってるし、どうやら宏太朗のことは視界に入っていないらしい。
「ごめんごめん、宏太朗と食べてたから」
「こう、たろう?」
「…覚えてないの?」
いや、確かに友達いらないとか言ってたけどまさかクラスメイトの名前すら把握していないとは。
「…あ」
望月さんはようやく隣のクラスメイトに気付いたようで、
「よ、よろしくお願いします…」
先ほどまでのテンションが嘘だったかのように縮こまってしまった。
「あ、ああ、よろしく」
宏太朗は呆然として答える。
まあ俺もここまで饒舌な望月さんは見たことなかったし、当然の反応だろう。
宏太朗の存在に気づいてからの望月さんはいつもの望月さんだったけど。
もしかしたら明るいほうが望月さんの素なのかな。
人見知りは自分もなのでそこに対しては親近感がわくものである。
まあ俺は素も暗いけど…。
「…じゃあ、お二人でごゆっくり~」
明るいいつもの様子に戻った宏太朗は、少し目に困惑の色を浮かべながらも去っていった。
「…座ったら?」
「…はい」
望月さんは俺の向かいに座ると、弁当を広げる。
「へえ、弁当なんだな」
「はい」
「…」
ある程度打ち解けた気はしていたが、そうはいってもおとなしい望月さんと陰キャの俺で会話が弾むわけもなく黙って黙々と食べつづけることになってしまう。
「…おいしそうだな」
望月さんの食べる姿を見て、素直に思ったことが口に出る。
「…食べますか?」
望月さんは卵焼きを箸で持ち上げて差し出してくる。
「えっ」
(どういう行動なんだこれは)
俺の頭はとっさにフル回転する。
普通の思考ならこれは口で受け止める、いわゆる”あーん”という行為だろう。でも天然で様々なことをしてきた望月さんのことだ。他の狙いがあるのかもしれない。箸で受け取る、橋渡しなんて行儀の悪いことを望月さんはしないはず。それなら俺の皿にのせようとしている? でも箸は空中で静止しているし。望月さんのこの恥ずかしそうな顔からしてもやはり”あーん”なのか?
明確な結論は出ないまま、口を開けようとすると
「じ、時間切れです…」
と卵焼きは望月さんの口に運ばれた。
時間切れってことは…やはり、やはりだったのだろう。
その望月さんの勇気を踏みにじってしまった。
「…ごめん」
最低だ。
どういう意図があったのか分からないが、というか望月さんのことだから友達としての行動であったような気もするが、そんなことは関係なく、勇気を出してやってくれたことを無視してしまった…。
そう後悔していると、
「…そ、その、唐揚げおいしそうですね」
と望月さんは目をつむって口を開ける。
(まじか…)
一瞬戸惑うが、同じミスを繰り返すわけにはいかない。
なんか見てはいけないものを見てしまったような気がして、目をそらしながら唐揚げを無防備に開けられた口の中に入れる。
「…お、おいしいです」
望月さんは顔を赤らめ恥ずかしそうに言う。
「…そ、そうか」
本物のカップルっぽいことをしてしまった…
恥ずかしくて仕方がない。
とその時、
⦅キーンコーンカーンコーン⦆
授業開始5分前の予鈴が鳴る。
ゆっくりと食べているうちに随分時間がたってしまっていたようだ。
俺は、間接キスだということを気にする余裕もなく急いで残りのご飯を搔き込む。
まあ五限の授業中に気づいて静かに悶えることになるのだが。
この後、急いで教室に戻ったが結局間に合わず、俺たちはニヤニヤしているクラスメイトたちに迎え入れられた。
教師にそこまで怒られなかったことについては、俺と望月さんの普段の成績に感謝である。
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