第12話 完璧美少女とクラスメイト

 「やっぱりそうなんだ〜」

 「羨ましいー」

 「赤くなってる望月さん可愛い~」


 手を繋いだまま教室に入ると、わっと教室が騒がしくなりクラスメイトが集まってくる。


 (…疲れた)


 なんとか教室の雰囲気は改善できたようだ。

一つ目の目標が達成されたことに安堵しつつ手を離そうとするが、


 (離れねえ…)


 望月さんはがっちりと絡められた指を離してくれない。

それどころか、


 「村田君のどこが好きなのー?」

 「ひ、秘密です…」


 と恥ずかしそうにしながら腕に抱き着いてきたりする。


 (やりすぎだって…もういいだろ~)



 「え~じゃあ村田君は?

望月さんのどこが好きなの~?」


 「…へ?」


 まさか俺に振られるとは思っていなかった。


 女子に囲まれてるだけでも倒れそうなのに勘弁してくれ。

なんか隣から期待の視線を感じるし…


 「え、えっと…笑顔、とか?」


 「きゃあ〜」

 「素敵〜」


 (うお〜はっず…)


 なんかめっちゃ恥ずかしい答え言った気がする。

…まあ隣の望月さんは満足げに笑ってるしいいか。


 「へえ、そんな笑い方するんだね」

 「確かにめっちゃかわいい」

 「彼氏にしか見せない一面って素敵~」


 なんかまた変な想像されてそう…

女子というものは何とも妄想が好きなものである。



 「何してんの?早く席についてよー」


 担任の先生が教室に入ってくる。騒いでいたので気がつかなかったがもうチャイムが鳴ったらしい。


 この先生は優しい女の先生で、良く言うと生徒に懐かれている。

 悪く言うと…なめられている。


 「…ねえねえ」


 早くも私語を始めた生徒がいるようだ。

高校生というものは、一度教師を怒られないと判断したらとことんさぼるものである。

この先生も気の毒だものだ。


 「…ねえ村田君ってば」


 (ん?)


 まさかの話しかけられているのは俺だった。

こんなこと今まではなかったので驚きである。


 「なに?」


 話しかけていたのは後ろの席の清田さん、さっき俺たちに質問してきていたうちの一人だ。


 「望月さんといつくらいから仲良くなったの?」


 (…おい)


 せっかく解放されたと思ったのに、まだ続くのかよ。


 「ま、まあ、一年生の時とかも週番とかで一緒だったし」


 あいまいな返答をする。後で望月さんと食い違ったらまずい。

 

 (…なんかアリバイ工作みたいだな)


 

 「ふ~ん、じゃあさじゃあさー」


 (もう勘弁してくれ~)


 質問攻めはもうこりごりだ。

それに…


 (すっごい睨んでるから!)


 楽しそうに話す清田さんの遥か後ろで望月さんがものすごい形相になっている。



 「ん?…ああ~」


 俺の視線に気づいた清田さんは後ろを振り向くと納得したように頷いて


 「…ごめんね~」


 と謝ってくれた。


 陽キャなんて空気読めない自己中だと思っていたが、少し見直した。

おかげで何とか望月さんに怒られずに済みそうである。


 


 「…ねえ、何話してたんですか」


 前言撤回。やっぱり怒ってます。


 前も思ったけど怒ったように見せるときに頬を膨らませるのマジでかわいい。言ったらもっと怒られるから絶対言わないけど。


 「いや、質問の続きされてただけだよ」


 「…ほんとですか?」


 望月さんは疑うような目で見つめてくる。

どうしたら納得してもらえるものだろうか。


 すると、ニコニコとこのやり取りを見ていた清田さんが助け舟を出してくれた。


 「大丈夫だよ。村田君は取らないから」


 「…」


 お、おい、警戒心丸出しじゃねえか。

 これじゃあ友達作ろう作戦が…


 「ははは、警戒されてるなあ~

二人のラブラブは邪魔しないから心配しないでよ」


 「らぶらっ…うぅ…」


 …流石はコミュ力お化けだ。

望月さんの警戒をお構いなしとは。


 「それより私は望月さんと友達になりたいな」


 おお、まさか清田さんのほうから言ってくれるとは。

顔の広い清田さんと仲良くなれば他に友達も増えるだろう。

  

 「ともだち…」


 望月さんは嬉しそうにしながらもこちらの様子を伺ってちらちらとみてくる。

…友達を許可制とでも思っているのだろうか。


 「良かったな、仲良くなったみたいで」


 と言ってやると


 「はい!」


 と屈託のない笑みで返してきた。


 (まあ少し言葉を交わしただけで仲良くなったって言えるのかわからないけど…) 


 それでもこれが第一歩だろう。

何事もきっかけというのは難しいものだ。


 「じゃあ連絡先交換しよっか!

QRコード出せる?」


 「QRコード…村田君、やってください…」


 そういえばこの前も俺がやったんだったな。


 こうやって俺に助けを求めてくることがなくなる日もそう遠くないかもしれない。

完璧美少女の望月さんならばすぐに溶け込めるだろう。


 (その時は…)


 そうなった時俺は隣にいられるだろうか。


 (ああ、いやだなあ)


 隣にいる人がいなくなってしまう痛みはもう二度と味わいたくない。


 「はい、できたぞ」


 「ありがとうございます!」


 そう言って笑う君から目をそらしてしまう。


 これ以上距離が縮まってしまうのが怖い。



 人生には出会いもあれば別れもある。


 その別れを避けるために今まで振る舞ってきたのだということを今、思い出す。

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