アプリドール

@ramia294

第1話

 気が付くと、三十歳をとうに過ぎていた。

 独り身を責められる毎日。

 僕の職場では、同じような人がたくさんいる。

 お気の毒である。

 

 一人暮らしの生活は、快適だ。不自由があるとすれば、周囲の視線だけか。


 

 親や親戚が、結婚をしろと口煩く連絡してくる。  

 恋知らずの同僚たちも同様。

 その事で、我が身の置かれた立場に気がついた彼らは、恋の話に夢中だ。

 出会い方に、こだわるらしい。


 コイニオチル。


 恋とは落ちるものと聞く。

 落ちるからには、穴の中だろう。

 今、歩んでいる道をあえて踏み外し、落ちることもないだろう。

 そう思い、生きてきた。

 

 しかし…。

 もちろん、興味はある。

 どんなことにも、興味を持つ。

 心の健康の証明。

 

 しかし…。

 仕事で出会うことも期待できず、他の方法と言っても…。


 マッチングアプリをスマホに呼び出してみた。

 恋知らずの同僚たちもマッチングサイトの話を随分熱心にしていた。

 出会い方のこだわりは、あっさり捨てた様だ。

 結局、恋に見放された人たちの駆け込む先は、同じ所ということだ。


 夕食後のひと時、

 スマホを見ながらウトウトしてしまう。

 気が付けばマッチングサイトの画面は、次へ次へとページを進めていた。

 

『アプリドール』


 おかしな名前のマッチングサービスだ。

 少し調べてみる。


 人形の写真しかなかった。

 とても、美しい顔をした人形。

 

『人形を愛してください。人形にあなたの愛が届けば、幸せがあなたに訪れます』


 見た目は、いわゆるフランス人形だ。


 ボクノユビハ、スマホニフレタ。

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