第19話

裕作はこれほど長い時間を経ても変わらずそこにおじさんが存在することに驚いた、と言いたいところだが、実は驚きは先月済ませてあった。

友人とこの辺りで飲む約束をしていたが、予定より早く着いてしまった裕作は、時間を潰そうと懐かしのスーパーマーケット入った。

そしてサービスカウンターの前を通る時にあのおじさんの姿を見つけて驚愕したのだった。

そういうわけで、今日もおじさんがサービスカウンターにいるであろうことは予測はできていたものの、実際に存在が確認できて裕作はほっと胸をなでおろした。

サービスカウンターのおじさん以外にもこれまでに縁切りした人達の顔は何人も思い浮かんだけれど、直接会う約束を取り付けるための言い訳をあれやこれやと考えるのは面倒だった。



さて、おじさんの縁の切れ端を確認したいのだけど、それならやっぱりあの時と同じ手だよなあ。

裕作は買い物かごを手に取ると、さすがに前回のようにお菓子の山をレジに持って行ったら不審な目で見られるだろうな、と苦笑いしながら店内の商品を端から見て回った。

一応お店を一周してみたものの、普段料理なんてしない裕作が足を止めたのは惣菜コーナーとお酒売り場だけだった。

一人分にしては少し多めの惣菜と一人分にしては多すぎるお酒を買い物かごに入れ、レジで会計してサッカー台に向かう。



緩慢な動きで商品を袋詰めしながら、横目にサービスカウンターを見る。

おじさんから無数の縁が伸びているのが見えた。

あの時父が切った切れ端はどこだろうか。

見つけやすくするために他の縁を手繰り寄せてひとまとめにする。

切れ端は——。



やっぱり見つからない。

裕作は無意識のうちに袋詰めする手を止め、思いっきりサービスカウンターの方を向いておっさんを舐めるように見ている自分に気がついて、慌てて残りの商品を袋に入れると逃げるようにその場を立ち去った。

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