第22話 ~Happy Halloween Night~ 2/3

 そんな訳なので、泰史がこんな事を言いだした時は、美七海は一瞬躊躇ちゅうちょした。


「今年のハロウィンはさ、姉ちゃんたちも呼んで俺の部屋でやろう!ちゃんと仮装もして!」


 そもそも、ハロウィンというのは古代ケルト人のお祭りで、夏と冬が曖昧になる境目となる10月31日に死者の魂が戻ってくると考えられていて、その死者の魂が妖精や悪魔などの姿をしているため、悪い霊に攫われてしまわないように、生きている人間も不気味な仮装をするようになった、というのが発祥と言われているもの。


(お姉さまたちは、『悪い霊』ではないけれども……なんだかややこしくなってくるわねぇ)


 前年のハロウィンには、どうしてもという泰史にせがまれて、美七海はしぶしぶ猫耳のカチューシャをした。

 泰史はノリノリでフランケンシュタインのごとく、頭にネジを付けて頬には大きな傷跡を書いていた。

 そして二人で仲良く、カボチャのお料理とケーキを食べた。

 今年、泰史の二人の姉もそこへ加わるとなると、どのようなハロウィンになるのだろうか。

 美七海には想像もつかなかったが、


「ね、美七海ちゃん。いいいよね⁉ちゃんと、全身仮装するんだよ⁉」


 グイグイと泰史に押され、思わず頷いていた。


「……俺だって、姉ちゃんたちがずっとこのままでいいとは思っていないけど、せっかくだから今のうちに楽しんで貰いたいんだ」


 泰史の呟きが、妙に耳に残った。



「お邪魔しま……ぎゃっ!」


 ハロウィン当日。

 泰史の家を訪ねた美七海の口から、カエルの鳴き声のような声が漏れ出てしまったのは、お化け屋敷顔負けのゾンビナースの仮装をした亜美が出迎えたからだ。


「美七海っち、いらっしゃい!やっくん、美七海っち来たよー!」


 ひんやりとした亜美の手が、美七海の腕を掴んで部屋の中へと引き入れる。


「いらっしゃい、美七海さん。ほら、やっくん。準備にいつまでかかっているの?早くしないと美七海さんが仮装できなくなってしまうでしょう?」


 それならそれで構わないんです、という言葉を口にしかけて、美七海はまたも喉の奥から出てきそうになった悲鳴を飲み込んだ。

 部屋の中にいた麻美の口が裂けたようなフェイスペイントがあまりにもリアルだったのだ。

 ただ、今日は手にハサミは持っていないようだった。

 美七海の視線に気づいたのだろう、麻美は耳まで裂けた(ように見える)口の端を釣り上げて、笑った。


「ハロウィンは、さすがに人が多すぎるでしょう?糸が多すぎて、切る糸を間違ってしまいそうだから」

「あら~、一応選んで切ってたのね?手当たり次第に切ってるのかと思ってたけど」


 美七海の胸に浮かんだ言葉を読み取ったかのように、ゾンビナースの亜美が気味の悪い笑顔を麻美へと向ける。

 良く見れば、その胸元はパツパツで谷間が丸見え、スカートもかなり攻撃的な短さで、お色気爆発な衣装だ。


「そんなわけ、ないでしょう?切れた方がいい糸や遠からず切れる糸を選別していたのよ?」


 対して、麻美の衣装はシンプルな白い着物に、血が飛び散ったように見える模様。シンプルなだけに、鮮やかな血の色が際立って見える。


「やっくんと美七海っちの糸も、切ってたわよねぇ?」

「それは、試しただけよ。ホンモノかどうかを、ね。ホンモノだったら切ってもまた繋がるはずだと思って」

「繋がらなかったらどうするつもりだったのよ?」

「あなたは、喜んだでしょうね?」

「まぁね……って、あんただって喜んだでしょ、麻美!」

「どうかしら?」


 ゾンビナース vs 口裂け女。


(この勝負、引き分け、ってところかしらね?)


「できたっ!いらっしゃい、美七海ちゃん!」


 そこへ満を持して登場したのは、黒いマントを翻し、ヴァンパイアの衣装を身に着けた泰史だった。

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