第21話 ~Happy Halloween Night~ 1/3

 始めて泰史と海に旅行に行った日。

 美七海は、泰史の双子の姉について衝撃の事実を聞かされた。

 衝撃的過ぎて、にわかには信じられないくらいだった。正直、丸ごと信じた訳ではなかった。


 泰史が美七海を驚かせるために冗談を言っているのかもしれない。


 そうも考えたものの、当の泰史は至って真剣そのもの。

 その日から少しずつ、泰史が話してくれた内容に、美七海もようやく信じざるを得なくなっていたのだった。


『俺もね、小さい頃に海で溺れたんだよ。どっちだったかな、姉ちゃんの被ってた麦わら帽子が風で海に飛ばされて、俺、親の静止を振り切って追いかけちゃったんだ。そうしたら深みにはまっちゃってさ』


『俺は、ライフセーバーのお兄さんに助けて貰って大丈夫だったんだけど、気づいたら病院にいて、そこには亜美姉も麻美姉もいなくて』


『後から聞いたら、亜美姉も麻美姉も俺を助けようとして海に入って、俺のことをなんとか二人で引き上げてくれたらしくて、でもそのまま……』


 ふたりの姉の話をしている間、泰史は絶えず苦しそうな表情を浮かべていた。

 だがその表情は、ある時を境にスッと変わる。


『姉ちゃんたちがいっぺんに居なくなって、うち、毎日お通夜みたいに暗かったんだ。まず、俺が毎日泣いてたし。だって俺のせいで姉ちゃんたちが死んじゃった訳だから。たぶん、そんな俺の事を見ていられなくなったんだろうな。ある時学校から帰ったら、家に姉ちゃんたちがいたんだ。俺、嬉しくってさ。泣いて喜んだんだよ』


『父さんにも母さんにも、姉ちゃんたち帰ってきた!って言ったのに、二人とも、俺の事見て泣き出しちゃってさ。父さんと母さんには見えてないみたいなんだ、姉ちゃんたちが。今でもね。姉ちゃんたちも、父さんと母さんにはもう言うなって言うし。だから俺、今まで誰にも言えなかった。でも、姉ちゃんたちが居てくれるって思っただけで嬉しくて、ようやく元気を取り戻すことができて。そうしたら、父さんも母さんも元気になってくれて、さ』


『姉ちゃんたち、いつも俺のこと守ってくれたんだ。それはもう、過保護な親みたいに守ってくれてた。困ったのは、彼女ができた時かな。もう、すぐ別れさせようとするからさぁ……わざわざ相手に姿見えるように調整までして。なんでも、幽霊の歴が長いとそんなこともできるようになるみたいなんだよね。エイプリルフールに美七海ちゃんに生霊ごっこしたでしょ?あれ、きっと前にも本当にしたんだと思う。高校の時だったかな、一時期、『俺と付き合う女は呪われる』って噂になって、俺、ほんとに困ったんだよね。意味が分からなくて』


『でも、姉ちゃんたち、美七海ちゃんの事はきっと気に入ってくれたんだと思う。麻美姉が『人と人を結びつける糸が見える』っていうのは本当の話でね。悪縁とか良縁とか、そういうの本当に見えてるみたいなんだ。きっと、美七海ちゃんと俺は良縁なんだと思う。しかも、切っても切っても切れないっていう、麻美姉のお墨付きもあるしさ』


『ねぇ、美七海ちゃん。亜美姉のことも麻美姉の事も、怖がらないで。俺の事も。二人ともいたずらはしても、本当に悪い事はしないから。もしするようなことがあったら、何をしてでも俺が止めるから。だから、俺と別れるとか、言わないで……』


 泣きそうな顔でそう言う泰史の頭を、美七海は両腕で胸に抱きしめた。


「大丈夫だよ、泰史。そんなこと言わない。だって私、泰史のことも、お姉さまたちの事も、大好きだから」

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