第17話 買い物
「ねぇねぇ、麻美、見て見て!この破廉恥な水着!こんなの着る人、いるのぉ~?!」
「四六時中、下着姿で家の中をウロウロしているあなたにだけは、『破廉恥』なんて言われたくは無いんじゃないかしら?」
「なんでよ~?いいじゃない、外に行く時はちゃんと服着てるんだから」
「当たり前でしょう」
少し離れた所にいる泰史と美七海から目を離さないようにしながら、適度な距離感を保ちつつ水着選びを楽しんでいるのは、泰史の双子の姉、亜美と麻美。
亜美が手に取った水着は、大胆なデザインのビキニの水着。
「美七海っちがこんなの着たら、やっくん、鼻血出しちゃうね、きっと」
「そうかしら?やっくんは美七海さんのもっと大胆な姿も目にしているのだから、それくらいで鼻血は出さないと思うけれど」
「分かってないなぁ、麻美は。丸見えよりも少~し隠されている方が、エロく見えるのよ、男には」
「やっくんがそんな男だとは私は思わないわ。それに、あなたじゃないのだから、美七海さんはこんな水着は選ばないわよ」
「……確かに」
遠目で見ていても、美七海が手にとる水着は、大人し目なデザインのワンピースの水着ばかり。
一緒にいる泰史は、何度も首を横に振っている。
「あーっ、じれったい!私が美七海っちの水着選んであげたいっ!」
「亜美。今日は二人には近づかないって決めたでしょ」
「うっ……そうだけど」
「私たちは私たちの水着を選びましょう?」
「……分かった」
チラチラと遠くの泰史と美七海を見ながらも、亜美と麻美は自分たちの水着を選び始める。
「なんかさ、久しぶりじゃない?水着選ぶのなんて」
「そうね、やっくん、海に行く時に私たちが付いて行くの、嫌がったし」
「ま、今回も納得している訳じゃなさそうだけど」
「今回は大丈夫よ。美七海さんがいるから」
「そうね」
迷いに迷ったあげく、亜美も麻美も気に入った水着を手に取る。
亜美は結局、自ら『破廉恥』と表現した、布面積少な目のビキニの水着。色は、ショッキングピンク。
麻美は、お腹のあたりに切れ込みデザインの入った、ワンピースの水着。色は、黒に近いグレイ。
「やっぱりソレにしたのね、亜美」
「まぁね~。いつまでこんなことしてられるか、分からないし。だったらできる時に好きな格好くらい、してもいいじゃない?」
「確かに」
そういう麻美がいつの間にか手にしていたのは、鈍い銀色の光を放つ小さなハサミ。
「麻美、あんたまさか海でもソレ……」
「ふふふっ、海って『なんちゃってカップル』がたくさんいるでしょう?今からワクワクしてしまうわ」
「……こっわ~、この人……」
亜美が麻美を見てブルッと体を震わせた頃、美七海もようやく水着を選び終わったらしく、満面の笑みを浮かべる泰史が困惑顔の美七海を押しのけて会計を行っている。
「あ。美七海っちの選んだ水着、見逃したっ!」
「来週一緒に海に行くのだから、その時に見られるでしょう」
「そうだけど。美七海っち、どんな水着買ったのかね?」
「そうねぇ……やっくんが満足そうな顔しているから、控えめな露出のある水着でしょうね。あまりに露出度が高いものは、美七海さんの好みではないでしょうし、やっくんだってそんな水着を美七海さんに着て欲しくないと思っているでしょうし」
「確かに!まぁ、海って出会いの場でもあるから、美七海っちが露出度高い水着着て他の男とくっついて、やっくんと別れてくれれば尚良しではあるんだけど。ねぇ、麻美。なんか楽しみだね、来週」
「ふふっ、そうね」
パチパチとハサミの刃の開閉音を響かせながら、麻美はニッコリと微笑む。
「あんた、一番楽しみなのソレでしょ」
「いやねぇ、そんなことは……ふふふっ」
「……今年の海は荒れそうだわねぇ」
麻美の手に握られた小さなハサミを見ながら、亜美はドン引きの表情でため息を吐いたのだった。
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