『めんどくさがりなきみのための文章教室』

『めんどくさがりなきみのための文章教室』

 著者 はやみねかおる

 飛鳥新社 本体一二〇〇円(税別)


 小学校教師をしながら、本嫌いの子供に本をすすめるうちに自分でも書き始め、『怪盗道化師』で第三十回講談社児童文学新人賞に入選し、デビュー。 『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズや、『怪盗クイーン』シリーズ、『都会のトム&ソーヤ』シリーズなど、著者累計五百十万部以上の人気児童書作家である。

 また、『名探偵夢水清志郎事件ノートシリーズ』は、二〇〇四年にドラマ化とコミカライズ、『都会のトム&ソーヤ』は二〇二一年に実写映画化、劇場アニメ『怪盗クイーンはサーカスがお好き』は二〇二二年に公開されている。

 また、定年退職の六十五歳に引退すると発言。 引退理由は、何かの事情で書き終えないまま引退、または急死してしまうと、読者は結末が気になりモヤモヤしてしまうから。引退を決めることですべて完結させる、と決めている。


 著者が小学校教師から児童文学作家になっただけあって、作文や読書感想文が嫌いな子どもにもわかりやすく面白く、小説仕立てで書かれている。

 作文が書けないめんどくさがりやの中学二年の文岡健にアドバイスをする条件で、児童文学作家の元で飼われていた猫、マ・ダナイを飼うことになる。毎日二百字日記を書くようにいわれ、日記とは人に見せず自由に書くもの、日記の材料を探そうと視野が広くなり、気づくことも増える。作文同様、文体を揃えるなどの基本的な事を守って五感を使って文章を書いていく。次第に文字を書くのが苦ではなくなり、どんどん上手になりながら、少説を書きはじめていく文章教室が本著である。

 前半は作文について書かれている。「文章は見た目が九割」「伝わる、わかりやすい、心に残る、短い文こそ名文」「『難しい文章』を読めるようになると、伝える力も上がる」など大切なことが書かれている。また、デジタル機器を用いることのメリットデメリット、気を付けたいことも触れられている。

 作文の宿題を乗り切りたい人、うまい文章を書きたい人、小説を書きたい人、に分かれて解説されているので、読者が求めている度合いによって選択できる。

 後半は、小説の書き方。小説を書く上で最も大切なことは、体の中から吹き上がるマグマのような感動を超える熱い気持ちを分かってもらいたい、何が何でも書きたいと突き動かされると、どんどん書けるようになる、とある。


 文法や原稿用紙の使い方、五感を使って書くこと。困ったらテンプレートを使っていい。ひらがなとカタカナの使い分けについて。書き出しに個性を出したいなら、会話文からはじめる、景色などの情景から書き始める、タイトルと反対のことを書く。

 文字数が足りない時の対処法としては、事実や出来事を付け足す。

 文章力をアップさせるには、たくさん本を読む。毎日二百字以上、いつどこで書くのか決める。五感を使って書く。直喩が思いつかないときは連想ゲームをして考える。赤いポストからリンゴを連想したなら、リンゴのような赤いポストと表現。

 読書がうまくなるには、「どうしてこのような行動をとったのか、なぜそんなことを言ったのか」について、登場人物の行動やセリフ、心の動きに注目する。一番盛り上がった場面や記憶に残った場面に注目する。なぜ記憶に残ったのかその理由に注目する。

 自分を登場人物に置き換える。作者はどんな人なのか考える。

 気持ちは記号にすると伝わる。

 あのときの気持ちを思い出し、その時の体の動きはどうだったのかを書く。

 改行にはルールはないが、会話文が終わった後、リズムのいいところ、話題を変えたいとき、一つの段落が長くなってきたら行う。などなど。


 読み物としても面白い。ただ、横書きで書かれているので、慣れていないと読みにくい。

 ほんとうにめんどくさがりで作文や読書感想文、読書嫌いな子供には、ハードルが高いかもしれない。なぜなら、本書は二百五十ページくらいあるから。国語嫌いや読書しない子には、最後まで読み切るのは難しい。表紙も、それこそ児童文庫によせたファンシーなものにすれば手に取りやすくなるのに、と邪推する。それでも、白紙の原稿用紙を前にして何を書いていいかわからないときの助けにはなってくれる、そんな実用書だ。

 なので、中学生以上なら十分読めるだろう。ただし、はやみねかおるの小説が好きな人ならば、小学生でも楽しんで読めるはず。とにかく、はやみねかおる作品に慣れ親しんでいる「あなた」にお勧めしたい一冊である。


 ただし、本著を読んだだけでは面白い作品はできない。自分自身で書こうと思い、完結させなくてはいけない。そのことを改めて教えてくれる。

 子供だましではなく、大人にも役に立つ。これまで文章を書いてきた人が読むと、「そういえばそうだよね」と思い出すかもしれない。自分を見直す復習のためにも、一読を勧めたい。 

 自分に必要か否か、実際に書店や図書館で手に取り、中身を確かめてもらってから購読を検討してほしい。


 試し読みができるので、参考までに。

https://ddnavi.com/serial/bunshoukyousitu/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る