第25話 石の道具を作る

かき集めた泥は整形してジュガテインさんの洞窟に持っていった。

今度はできれば数日はしっかり乾燥させたい。

というのも、前回はジュガテインさん達が普段いる一番温度の高い場所に置かせてもらった。

しかし、結果として半数以上がひび割れたり崩れたりして形にならなかった。

急激に乾燥させすぎたのかもしれないし、拙い手作りなので厚みなどが均等にできていないことで崩れてしまった可能性がある。

手作り感はよほど熟練しないと改善は難しいけど、温度や乾燥させる場所の条件は幸いなことに変えやすい環境にいる。


だから今回は、光るコウモリさん達のいる少し低めの温度の場所で乾燥させることにした。

それから、20個近く作ってみたので、数個をジュガテインさんの洞窟の入口付近にも置いてみた。

外の温度変化とほとんど変わらないが、ジュガテインさんのおかげで洞窟内の空気が乾いている。

温度は外の温度で、湿度だけ低いところ、という条件でも試してみたかった。


土器候補が乾燥するのはまだまだ先なので、別の作業に取り掛かる。

まずは材料集めと何か新しい食材になりそうなものを探す。

今日は岩場に沿って探索をしながら、手頃な石をたくさんひろいたい。

昨日一日、石に枝を括り付けてツタを回収するのに振るっていたけれど、あれはあまり力が入らない。

ツタよりも固いものを切り出すのには向かない。

薪集めをもっと簡単にするには、倒木などの枝を切ったり、倒木そのものを切って加工できれば嬉しい。


斧やナタ、アーミーナイフなどを使った薪割りは、小中学生女子にはかなりハードルが高い。

怪我をする危険性も高い。

しかし、実は十分な重みのある丈夫なものと、尖った土台さえあれば、薪割りができる。

今日でも女性が薪割りをするご家庭は世界中にたくさんある。

男性がいなかったり、病気や怪我で動けない場合もある。

だからといってライフラインの薪割りが滞るのは見過ごせない事態でもある。

そんな時に使う手法が、尖った土台に割りたい木の部分をくい込ませて、上からハンマーや重りなどで叩くというものだ。

これなら、ちょっと重いものを持ち上げることさえできれば、小中学生や女性であろうとも薪割りができる。

ちょうどいい事に、新居の岩屋は地面が鋭角に突き出ているところがたくさんある。

薪を叩くための土台には全く困らない。

後は重みのしっかりとした丈夫な重りを作るだけだ。


拾い集めた石はどれもゴツゴツとしている。

河原の石のように丸い石は、この近辺では中々お目にかかれない。

なるべく重ければ持ち上げた時の石の自重で割るための力はそれほどいらない。

ハンマーという形にとらわれずに、重くて丈夫なものなら何だっていい。

ブッシュクラフターの中には、その辺の石に割りたい木片を刺して、薪の上から袋に重いものを詰め込んで叩きつける!という究極に道具に頼らず、何でも工夫でやり過ごしてしまうすごい人もいる。


私が拾ってこられる石の一つ一つはそれほどの重みは無いけれど、丈夫なツタで複数の石をまとめると、それなりの重さにはなる。

ツタはたくさんあるので、念には念を入れてなるべく隙間なく編み込んでいく。

石も沢山集めて、多分小さめのお米5kgくらいの重みを目指した。

そうしてできたツタ編みの石袋。

ためにし拾ってきた少し長めの枝を、尖った岩屋の地面に突き刺した。


「えい!」


その枝の上から石袋で打ち付けてみる。


バキッ


枝は真っ二つ、とまでは行かないけれど、二つに引き裂かれた上で、石袋の重みで途中で割れた。

大きすぎる木片を割るためなので、十分な成果としてみていいと思う。


石だけで作るハンマーも取り回しの良さがあるので探索時の携帯用にほしいけれど、石のハンマーは脆い。

すぐに欠けたり割れたりで、必ず時間経過でその道具としての役目を果たせなくなる。

その点、石袋の場合はツタに守られているので、中の石の磨耗は少ないはず。

より長く重さを保っていられる。

ツタが摩耗すればこの森ならいくらでも手に入るけれど、石はそうもいかない。

これを持って狩りや戦いに赴くわけではないので、日々の生活をより良くするための道具の1つとして必要十分。

ハンマーを作るのは、今回は他にも作りたいものがあるので次の機会にする。


集めてきた石で、もっと石の道具を作りたい。

1つはツタを切り出したり枝を切り落とすための石の斧。

そしてもう1つはチビカピさんの骨の代わりになる石のナイフだ。


斧やナイフに使う石は初めから石袋にはいれずにおいた。

自然に鋭角に尖った手頃な石はここでは貴重品になる。

旧石器時代、人類はチャートや黒曜石などの上手く石同士を打ち付けると、尖った断面ができる種類の石を使って石器を作っていた。

矢じりや調理用のナイフ、槍先などに使われた黒曜石などは日本でも縄文時代前期頃の遺跡から出土している。


重要なのは石の種類と性質で、チャートや黒曜石は柔らかく簡単に割ることができる。

しかし、この森の周辺の岩場で拾える石の中に、それと似たような性質のものは、残念ながら見つからなかった。

なので、すでに尖っている石はどれも貴重なものとして、大事に使っていきたい。



いちばん大きくて尖った石を使って、石斧を作ってみよう。

太くて丈夫な木の枝を切ったり掘ったりといった木材加工の技術は今のところまだ難しいので、何本かの細い枝を束ねて強度をだすことにする。

大きな石を尖っている方向以外を10本近くの枝で挟み込む。

細いツタを挟んだ枝の両端にぎゅうぎゅうに巻き付けていく。

両端をまとめられたら、柄の部分になる枝の束にさらにツタを巻き付けていく。

ここで巻き付けが弱いと、石はすぐに外れてしまったり、挟んだ枝がバラけてしまう。

強く、そして巻き付ける長さが長ければ長いほど丈夫な斧になる。


石斧が一応完成し、使えるかどうかはまだ分からないけれど、石のナイフ作りに移る。

こっちは石斧よりも単純な作りになる。

平たくて尖った石に手で持つための柄をつける。

石が小さいので柄も斧ほど大仰なものじゃなく、少し太めの小枝の先端を割って、石を挟んで、挟んだ枝にツタでぐるぐる巻きにして完成。

それだけでもいいけれど、少しだけ手を加える。


石ナイフの尖った面、刃の部分の下半分ほどに、小石をこすり付けて数箇所のギザギザを作る。

このギザギザは、ノコギリなどのように柔らかいものや、繊維質なものを切るのに適したセレーションと呼ばれる仕様を取り入れたもの。

小石で削っただけなので、どれほど有効かは分からないけれど、私がよく切るものといえば、ツタなので繊維質なものになる。

しかも、表面が少しツルツルしているので、今頑張って切り出している石では太いツタは上手く切れずに諦めることもある。

このギザギザ部分が引っかかってくれれば、太いツタももっと切り出してきやすい。


切っ先部分から半分はセレーションを施さずに残したのには、もう1つのよく切るものが関係している。

魚や木の実などを切る時に使うことになる。

セレーション部分で切ると、どうしても繊維を解すように引っかかって切り込んでしまうので、魚の身や木の実がボロボロになってしまう。

セレーションなしの切っ先部分で切るようにすれば、探索にも調理にも使える万能ナイフとして使える。


可能であれば、調理用と材料集めや探索用のナイフは分けたいけれど、今日ひろった石の中で平たく尖った石はこれだけ。

少ない資源を有効に活用するにはこうする他ない苦肉の策ともいえる。

けれど、ブッシュクラフターは荷物を少なくするために、こういったハーフセレーションナイフを常用する人も多い。

使える物があるだけで満足としておかなければ、贅沢を言っていられる状況ではない。

今後の探索で良い石が拾えた時は、全て直刃にするかフルセレーションのノコギリにするかを悩めばいい。

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