第23話 睡眠の質を改善したい
「よし!
今から快適な睡眠への第1歩を踏み出すよ」
そう言って疲れた体に喝を入れる。
ベッドが欲しい。
昨夜から今朝にかけて、何度も何度も起きてしまった。
洞窟や岩の窪みの地面は湾曲しているのが原因の一つ。
夜間の寒さを凌ぐために、焚き火を絶やさずにいるのだけれど、その近くで寝ようとするとどうしても地形上、焚き火の上方に位置するところで眠る必要がある。
焚き火が割れたり崩れたりで、下方の火の近くにいると火傷や服が燃えるなどの、被害が出てしまう危険があるかもしれない。
それを避けるには上方に位置取る必要がある。
火の位置を変えるということも考えた。
でも、正直この新居の地面で火が置ける場所も限られる。
自然にできた岩のくぼみなので、周りは岩だらけ。
岩や石全般に言えることとして、耐火や耐熱なものは少ない。
火山性の岩石ならある程度の耐火性や耐熱性はあるが、それ以外の岩石を熱した場合、熱された場所と熱されていない場所の熱膨張率の違いで、割れてしまったり、崩れたりする。
壁際で火を使うのは避けなければならない。
天井が低いところもダメ。
火が置ける場所は限られている。
それに、どこに火を置こうと、結局地面が硬いのは変わらない。
火の位置は変える手間と効果を考えると割に合わない。
薪も余計に使ってしまう。
では、今ある焚き火の上方に寝ようとすると、この新居の地面は少しゴツゴツしていて、鋭角の突起があるところ多い。
面積としては、私くらいの背格好の人が100人くらい雑魚寝しても十分な広さがあるものの。
様々な条件を考慮すると、私が横になれる場所はかなり限定的で、寝返りをうつたびに鋭角の突起に当たりそうになる。
ジュガテインさんの洞窟で寝た時は、まず洞窟全体がほんのり暖かく、焚き火から離れていても問題なかった。
寝る場所は選び放題というわけで、寝た時になるべく私の寝る姿勢にフィットするようなツルンとした岩での上で寝た。
硬さはあったけど、形がフィットしてたのと、ジュガテインさんの所に行ったり池に入ったりで、サウナ的な効果もあって、眠り始めはよく眠れていた。
この新居ではそうもいかない。
少しでも心身が休まる睡眠が出来なければ耐えられないという直感がある。
睡眠の質が悪いことが続くと、脳への影響が懸念され、思考力が下がり、集中力もなくなり、記憶力も良くなくなる。
怪我をしても睡眠不足だと治りにくい。
内臓にも皮膚や筋肉にも十分な休息がなければ、日々のダメージが嵩んで不健康まっしぐらだ。
見た目にも大きな影響を及ぼすので、見過ごせない問題だ。
百害あって一利なし。
寝床は大事だと身に染みてわかる。
だから今日は何かしらの工夫をしないといけないと、朝から張り切って色々なものをかき集めてきた。
ツタを大量に切り出したり、自分の体長よりも長くてできるだけ丈夫そうな枝をわざわざ引きずってきたのもそのためだ。
材料は下手をしない限り十分だと思う。
丈夫な枝を2本、平行に並べて、上端と下端に自分の体の横幅より少し長い目の枝を括り付けて、長方形の土台を作る。
その土台の片方の枝に取ってきたツタを結んで、反対側の枝に橋のように掛けて結ぶことをひたすら繰り返す。
なるべくツタの感覚が狭い方が、もし切れてしまったり、結び目が
特筆することが無くなったので、ひたすらツタのハシゴをかける作業に没頭すること数時間。
空もすっかり暗くなり、焚き火の明かりを頼りにツタを結びつけ続ける。
暗いので完成してもよく見えないけど、我ながらに頑張った方だと思う。
こういう無限にも思える作業も、コツコツと続けていけば終わりは自ずとやってくるもので、何とか最後のツタを結び終えた。
100本近くかそれ以上は結びつけたので、もし足りなければ明日追加するとしても、1晩くらいなら壊れることは無いと思う。
土台の枠に使った長枝の下に石や小枝を挟み込み、傾斜のある地面の落差を埋めることで、安定した寝床にすることができた。
イメージとしてはキャンプ用のコット。
実際は木とツタで作った無骨な感じの担架?
でも、これさえあれば、ゴツゴツした岩の上に直接接しなくてもいい。
睡眠改善の第1歩にして最大の1歩を成し遂げたと思う。
苦労した甲斐は後ほど確かめるとして、魚が炭になってしまう前に晩ご飯にしよう。
今日のご飯も池の魚と木の実。
焼き魚は寝床作りの間にずっと焚き火で炙っていたので、パリパリに焼けていた。
これはこれで味が凝縮されたようで、前に食べた焼き魚よりも美味しい。
木の実は水と一緒に蒸すことでモチモチ感がでてきて、お芋や米などのでんぷん質の食べ物によくある性質だ。
蒸した方が少し甘く感じることがわかったので、毎日そうして食べることにしている。
この実を
砂糖がないので味は物足りなくなってしまうかもしれないけど、固めの殻が口の中に入ってくるのは防げるので食べやすいかもしれない。
土器ができたら木の実をもっと保存もできそうなので、粉にする方法も探してみるのはありかもしれない。
シュガルインも今日は火の番をずっとしていてくれた。
この子からみたら、私が枝やツタで一生懸命何かを作っていたのはどんな風に見えていたんだろう?
小さな小枝に焚き火の火を引火させて、シュガルインの前に置くと、その火をパクパクと食べている。
この世界にいる不思議な生き物。
他にも光るコウモリやクリーム色の小さなカピバラにホバリングする小鳥。
生き物がたくさんいるので、あまり人の手が入っているようには見えない。
だけど、ルブランのように私のことを認識して話しかけてくるような生命体もどこかにいる。
人?なのかはわからない。
声だけなので何とも判断がつかない。
でも、最初に私に気があるようなことを言っていたから、とりあえず守備範囲に私のような人間が入っていると考えられる。
シュガルインのお父さん、ジュガテインさんは昔は人間に飼われていたと言っていた。
この世界に人がいるなら、私は異世界遭難しているので、誰かが助けに来てくれたら嬉しいんだけれど。
シュガルインと一緒にご飯を食べながら、この世界に人がいるのかを考えていた。
やっぱりもっと美味しいものがたくさんあることを知っているので、この世界のご飯は味にそれほど大きな不満はないものの、もっと色んな種類の料理をしたり食べたりしたい。
せっかく新居に越して来たのだから、できるだけ色んなものを集めて、もっと料理の幅を広げていきたいと思う。
生活面でも、睡眠や暖をとったり、もっともっと快適な暮らしも追求していきたい。
そのためには、石の道具や木の道具、土器などの土の道具など、可能なら金属とかもあれば、使えるものや種類は多い方がいい。
明日からもやることがたくさんある。
この世界では一日一日の密度がすごく濃いというか、常に人手不足感がある。
もっと楽に生活できるようにすることも、考えていかなければならない。
考えているとウトウトしてきた。
「シュガルイン、私はもう寝るね。
おやすみなさい」
シュガルインも食べ終えたようなので、今日はもう寝よう。
水をたっぷりと吸わせたコケを大きめの葉に包んで持ってきた。
コケを絞って、手を洗ったり口の中をゆすぐ。
歯ブラシがないので、できる限り指で口の中を掃除する。
コケの持つ抗菌作用も万能ではないので、虫歯になってしまうかもしれない。
早いところ歯ブラシを入手したい。
先程完成した寝床を試す時が来た。
ぐらついたり、転倒すれば下手をしたら焚き火の中に突っ込んでしまう。
何度も手で押したり、軽く体重を乗せて確かめた上で、慎重に恐る恐る乗ってみる。
丈夫なツタのおかげで、想定よりもかなり沈まない、スプリングの硬いベッドになったけど、肝心の強度とか痛くならないかなどはクリアしている。
焚き火からの距離が少し遠くなってしまったので、少し寒いかもしれないけど、昨日よりも大幅に眠りやすそう。
その効果はテキメンで、ほどなくして私はツタのベッドの上で意識を手放した。
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