4日目

第20話 引越し場所探し

「硬い。痛い」


寝起きの言葉はダイレクトに今の心情が出てしまう。

洞窟の床はやはり硬い。

昨日までの草の上が、まだまだマシだったことがハッキリした。

しかし雨だったのでしょうかない。

今も少し降ってはいるが、だいぶと小雨になっている。

もしかしたらもう少しで降り止むかもしれない。


焚き火に薪をくべ、朝食に日陰干ししてみた魚の身を割いて火で炙ってみた。

魚はしっかりと乾燥しており、非常に噛みごたえのあるジャーキーのような状態になっていて、炙ると香ばしさが食欲を刺激する。

お湯で煮出せば出汁をとれるかもしれない。

生のまま焼いた時のような泥臭さも、ほとんど気にならなくなっていて味も濃縮されている。

大きな葉に雨水を溜めて飲み、木の実も蒸してモチモチの状態でいただいた。

朝からタンパク質を摂取したのは、今日はやることが沢山あるからだ。


シュガルインも火を少し食べて満足したらしい。

昨日ジュガテインさんに聞いたところによると、1度火を食べて満腹になれば、次に食べるまでは結構時間を空けた方が良いようだ。

雨の時はどうしてもシュガルインは火の番しかすることがない。

フレイムリザードもお散歩とかに行くのかな?

気分転換になるなら連れて行ってあげたいけど、カメレオンやイグアナなどを飼育する時は、ほとんど触れない方がいいと動画のお兄さんは言っていた。


一先ず、昨夜ジュガテインさんのいる所に置かせてもらった土器の乾燥具合を見にいこう。


「みなさん、おはようございます。

雨はだいぶ小雨になってきましたよ」


シュガルインのお兄さん達も起きていた。

舌をシュルシュルとしているから何かお話ししているのかもしれない。


「雨は小ぶりか、ここからは分かりにくい。

見に行く手間が省けて助かった。

礼を言う。


シュガルインは元気かと、兄たちが聞いている」


「いえいえ、こちらはあなたのお住いにご厄介になっている身ですから、これくらいお易い御用ですよ。


シュガルインは元気です。

さっきも少し火を食べました」


「うむ。

順調なようだな」


「……あ、割れてる」


「ん?

ああ、やはりその状態は良くないということであったか。


一応言っておくが、我らは触れておらぬぞ?」


「いえ大丈夫よ。

ジュガテインさん達はお気になさらず。


なにぶん私も手探りで、もう少し工夫が必要なだけだと思います。


また何度か試させてもらいに来ると思いますが、本当に気にしないでくださいね」


「ああ、それはかまわぬぞ」


「ありがとうございます」


土器にしようとしていた土塊の半分は乾燥段階で割れてしまっていた。

割れたものは水を加えて練り直せば別のものに再利用できる。

日陰とはいえ、温度が高すぎたのかも?

急激に乾燥すると、中と外の湿度の違いとかで割れてしまう。

ひび割れ対策や適温の場所探しが必要かもしれない。


とにかく残った半数は焚き火に持ち帰って焼いてみよう。

これで形にならなければ、他のをどうにか乾燥させても、結果としては同じことになる。

割れてないものを持った感じもけっこう怪しい。


表面がポロポロと崩れてしまうものもある。

慣れない私の手先では、土器の厚みが不均等になったり、表面が滑らかに出来ていないところが目立つ。

形を作る段階でもっとできることがありそうだ。

昨日の夜短時間で仕上げたものなのでこんなところなのかもしれない。

もっと余裕をもって時間をかけて作り方を見直さなくてはならないようね。


それとも、この泥だけでは形を保てないのかな?

もう少し粒の荒い砂利を入れたり、わらきこんだりすることで土の竈を作ったりしている動画は見た事がある。

だけど、手元に砂利も藁もないので試しに泥だけでやってみたが、どうにも土器としては安定しそうにない。

おそらく、純粋な粘土ではない事も影響している。

粒子の細かい赤土からなる純粋な粘土であれば、小学生の時に図工の授業で1度焼き物を作ったことがある。

あれならしっかり捏ねればひび割れも少なく、そのまま乾燥させてから焼くと小学生でも焼き物が作れた。

もっとも、指導されていた先生方が炉や火の管理をしていたので、焼き方が良かったのかもしれないということはなくもない。


無事に焼けるかは全くの未知数だけど、薪をたくさん入れて焚き火の火を強くして、何とか生き残った土塊を火のそばに置いた。

持ってくる過程でまた更に割れて数が減ってしまい。

結局3つしか残らなかった。

プレートが1つと水汲みなどの器にできそうなのが2つ。

多分失敗する。

そんな感触。

成功すれば儲けもの、くらいに思って次のことに取り掛かる。


焚き火の火を気にしながら、小雨の中を探索しようと思う。

時間を無駄にしていては生き残れない。

昨日の雨で道しるべの印つきの枝が倒れたり流されたりしている。

池までの道のりは何度も行き来したお陰で、ほぼ迷うことなく行けるので、そこは良いとして。

雨が止んだら、あの洞窟の入口からは退居しないとジュガテインさんが火を集めに出ていけない。

別の横穴が無いか探るため、岩肌に沿って歩く。

常に右手に岩肌があるので、帰り道は左手を岩肌に沿って戻ればいい。


探索を初めて、早速収穫があった。

岩肌の壁沿いには自然に剥がれ落ちてきたのか石や岩が転がっている。

手頃な石をいくつか拾うことができた。

この森にはほとんど石がなかったので、石器も作れなかったが、これを拾って帰れば石の斧やナイフや小槌が作れるかもしれない。

木を削るノミやカンナも作れたらもっといい。


元いた洞窟から、だいたい15分ほどは歩いたかもしれない。

ジュガテインさんの洞窟よりは確実に小さいけれど、私とシュガルインが暮らすには十分な広さと奥行きの窪みを見つけた。

何かの動物の住処にもなっていなさそうなので、雨が降り止んだらここに移動してこよう。

辺りを見渡したり石を拾いながら手探りに歩いてきたから、正味のところは10分もかからずに来れると思う。

木の実の火種があれば焚き火も移動ができそうね。

目印も兼ねて、拾った石はここに置いておこう。

そろそろ一旦戻って、薪を追加してあげないと。


洞窟へ戻る途中、森の中で光るキノコを見て思い出した。


「あのコウモリさんたちにあげてみようかしら」


岩場の近くでとれる光るキノコを数本採取して持ち帰ることにした。

雨で濡れてしまっているけれど、ジュガテインさんの熱があれば乾いてくれると思う。

もうすぐ洞窟に着く。


「シュガルイン、ただいま」


チロチロと舌を出して返事をしてくれているみたい。

たくさんの薪をくべて出たのだけれど、焚き火の火が弱くなってきている。

まだまだ土器は焼けていないようなので、薪を増やしてからキノコを洞窟の奥へと持っていこう。


「ちょっとこのキノコをコウモリさんたちにあげてくるね」


外は明るかったので目が慣れるまで注意が必要なところだが、手に持ったキノコがぼんやりと光っているのでライト代わりに照らすことができた。


「このキノコ、コウモリさんたちが食べられるといいのだけれど、どうかしら?」


光るキノコのにおいがわかったのか、コウモリさんたちがキーキー騒ぎ出す。

洞窟の床にキノコを置く前に、光の波に包まれた。

目の前に光の流れができて、私の手からキノコを攫っていく。

私には一切触れることなくキノコだけを攫って行った。

改めて、コウモリさんたちのエコーロケーションの正確さと、キノコを好きなことがよくわかった。

この数のコウモリさんたちなら、今回のでは全然足りないだろうから、また今度持ってきてあげよう。


コウモリさんたちの住処から、シュガルインの待つ焚き火へと戻ってきた。

空を見渡すと、少し晴れ間が見えてきた。

土器は焼けるかな?


薪をたくさん燃やして小枝で土器の位置をズラしながら均等に火を入れる。

全体が焼けてきたら、仕上げに燃えている枝をたくさん土器の上に盛って、薪を更にくべる。

表面を強く焼くために直接火が当たるようにするので、割れるリスクが結構ある工程になる。

ヒビが入らないことを祈りながらひたすら薪を足す。

これが焼きあがったらよく冷まして、水につけても壊れないか水没試験をする予定。

土器を作るのも意外と工程が沢山あって、作り方を知っていないと多分無理なんだと思う。


薪が残り少ない。

もうそろそろ土器が焼きあがってもいいはず。

3つの土塊は最後まで形を保っていてくれた。

火を入れたのでかなり丈夫にはなっていると思うけど、完全に冷ましてからじゃないと急激な温度差で割れてしまっては困る。

大事をとるなら数時間は冷ましておきたいところ。

火から少し離して、雨が止んだのでジュガテインさんが通れるように焚き火も脇にずらす。

洞窟の奥で乾かしていた予備の薪を取りに行くついでに、ジュガテインさんへ雨が止んだことを伝えに行く。


真っ赤な巨体が森へと出かけていくのを見送りながら、私は今朝見つけた岩場の窪みへの引越し準備を進める。

よく乾燥した木の実に火をつけて吹き消して燻らせておく。

その木の実の火種と薪を持って岩場を右手にある事8、9分。

見つけた窪みが見えてきた。

置いてきた石も置いてあるので間違いなくここだ。


この窪みで焚き火が着いたらシュガルインもお引越しさせよう。

お父さんと少し離れてしまうけど会いに来れない距離ではない。

引っ越す前に一度お兄さん達やジュガテインさんに挨拶と引越し場所を伝えておこう。

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