第18話 異世界にきて初めての料理 サバイバルめし

土砂降りの中、魚を獲って洞窟に戻ってきた。


「ただいま、シュガ……」


しー、静かに……。

シュガルインはお昼寝中みたい。

小さい上に食べて寝て、まるで赤ちゃんのようだ。

動物の寝顔とはなんて癒されるんだろう。

つい手を伸ばしたくなるが、ずぶ濡れの体なので遠巻きに眺めることしかできない。


獲ってきた魚が悪くならないうちに調理してしまおう。

チビカピさんの骨で魚の腹に切込みを入れて、内蔵はやはり怖いので全て取り除く。

ウロコもできる限りはぎ取る。

残っていた血やウロコなどを外の雨でまたずぶ濡れになりつつ洗い流す。

キレイに洗い流したら、まだ食べたことの無い種類の魚と昨日食べた種類の魚の内1匹、それらに採ってきた苔を細かくちぎって、バジル的な感じで魚にまぶしてみる。

昨日の夜は何もつけずに焼いただけだった。

食べ始めは空腹のせいかそれほど感じていなかったが、後半はさすがに泥臭さというか独特の苦味があることに気がついていた。

この苔を少しだけ齧って食べてみたら、刺激があり、ハーブっぽい感じだったので、あの泥臭さや苦味が少しでも和らいでくれればいいと思う。


苔をまぶした魚を、大きな葉に包み、それをなんと!

ジュガテインさんの熱が来る洞窟の中で蒸し焼きにします!

焚き火の火よりも高温なのと、周りが岩なので、天然のかまどやオーブンのようなもので、熱がほとんど一定だから、ムラなくしっかり中に熱を通せるはずよ!


それから、残しておいた最後の1匹は、ジュガテインさんから遠めの洞窟の壁際に、小枝で組んだ干し台を置いて、それにのせて乾燥させてみる。

日陰干しで乾燥魚が作れれば、生のままよりも保存がきく。

乾燥による臭み取りなども可能なのか調べたい。

干したものはスープなどの出汁のでかたが、生のものとは違うというし、何より他のことに忙しくて食糧を取りに行くのが難しい時や、体力的、体調的につらい時などにも、タンパク質を摂取できるようになる。


我ながらすごくいいアイデアだと思う。

フレイムリザード様様ね。


蒸し焼きに熱が通るまでの間、私は夜の分の薪や材料集めをしながら、時おり様子を見にいった。


━━


数十分後、私の目の前には、美味しそうな湯気がたつ料理があった。


『2種の池魚 苔蒸し焼き』である。


この世界に来て初めての料理らしいものだ。

素材をそのまま味わうのも悪いわけじゃないけど、少しでも工夫ができるなら、より美味しいものを食べたい。

ついでに木の実がなる木の場所にも行ってきて、運良く苔の上に落ちていた木の実を数個拾うことができた。


何度も水浸しになり、体力的にもきつかったが、すでに食べられるものが確保できていることは、がんばれる心のゆとりに繋がった。

生まれてこの19年間は、ご飯があるって当たり前だったけど、この世界に来た初日のように、必死に探しても何も食べられない一日を経験すると、ご飯のありがたみはこれまでの比じゃないくらい跳ね上がっていた。

今の私には、花より団子の方が魅力的で、美味しすぎる団子をくれる男子にはついて行ってしまうかもしれない。


「(小声)いただきます(小声)」


シュガルインが寝ているので、あまり大きな声では言わないが、お魚さんの生命をいただくので手を合わせて感謝をする。


そうそう。

今日はお箸も用意した。

と言っても、木を簡単に削れるような高度のナイフは持ち合わせていないので、岩肌に真っ直ぐで長さの合った小枝を2本擦り付けて、木の皮を剥いで乾燥させたものだ。

乾燥には例のごとくジュガテインさんの熱洞窟を利用させてもらった。


蒸し魚を突いてみる。

魚の身がジューシーでホロホロと崩れる。

十分に熱が通っているみたい。

お箸を用意しておいてよかった。

器の葉ごと熱しているので、温かさが持続して湯気がでている。

何度も冷えた体に温かい食事は本当に嬉しい。

思わず歓喜の声が漏れそうになるも、シュガルインを起こさぬように口に手を当てて堪えた。

昨日も食べた種類の方から口に入れると、昨日感じた泥臭さはなく、苔の清涼感がほんのりとあり、胡椒のような辛味も少しだけ加わって非常に食べやすくなっている。

魚自体の味の濃さは昨日の焼いた方があったが、これくらい食べやすい方が良いかもしれない。

苔の量を減らしたり増やしたりで印象が変わってくるかもしれない。


今日初めて獲れた種類の方は、魚自体の味はあまりしなかったが、身がふっくらとしていて食べごたえがある。

フライなのどでソースや醤油、タルタルなんかをかけて食べたいかもしれない。


木の実は濡れてしまったので、乾燥させるためにも焚き火の近くで温めてみた。

温めた木の実を食べてみると、明らかに生のそのまま食べるよりも木の実の弾力が増した。

水分と熱を加えると変化するのは、お米や小麦などの麺類やパスタのようで興味深い。

食感は不思議な感じだけれど、味は大きくは変わっていない。

すり潰して粉にして上手く調理すれば、料理の幅も広がるかもしれない。



今日のご飯は色々と発見があった。

新しくできるようになった調理方法、料理の可能性や不足している調味料的な問題点。

森で手に入るものでより美味しい食事ができそうな事は喜ばしいことで、探索の楽しみの1つになる。

すでに体力はかなり消耗していたが、食べ物のおかげで気力はまだ萎えていない。

外は分厚い雲が覆っており暗くなりつつあるけれど、まだ完全には日が落ちていないと思う。

今日はできる限り、薪や材料集めをしよう。

昨日集めた分はほとんど流されてしまったので、それほど余裕がないのを何とかしないと。



チビカピさんの前歯の骨を持ってきた。

前に弦式の火起こし器を作る時に使った茶色いツタを切り出したい。

このツタは体重をかけて引っ張っても切れにくく、丈夫なので、これで作りたいものがある。

しかし困ったことに、チビカピさんの前歯と言えど、このツタを切り出すのは至難な様子。

何度も表面を削るも、繊維が詰まっていてやっと1本切り出すのに数十分かかってしまった。

おかげで辺りは暗くなってきて、雨が激しいせいかこの3日間で1番森が暗い。

あきらめて拾える枝や小枝、大きな葉、丈夫な茎の草をかり集めて洞窟へと引き返す。



拾ってきたものはもれなくずぶ濡れなので、ジュガテインさんの熱洞窟で乾燥させている。

シュガルインの食べる分などが分からないので、火を作るのにいくらあっても足りない。

できるかぎり、動ける時に蓄えておこうと思う。


何度も行き来する私のことをもう光るコウモリさん達も気にしなくなってきた。

あの子たちのおかげで、洞窟に窓がなく光が届かなくても、置いたものの場所がぼんやりと把握できている。

もしあの子たちの好物がわかったら、今度差し入れしてあげたい。

試しに光るキノコでもあげてみようかな、何となく光り方が似た色合いな気がする。


洞窟の奥から入口の方にある焚き火まで戻ってきた。


「シュガルイン、お目覚めですか?」


小さな赤い子は舌をチロチロして私を見つめる。

可愛いなぁもう。


「お腹はすいてるかしら?」


蛇やカエルなどの爬虫類は、1度十分な食べ物を食べると3、4日〜1週間は何も食べない種類もいる。

この子がどのくらい食べたり食べなかったりするのかをしっかりと見きわめる必要がある。

チロチロ舌を出すけど、こちらを見ていない。

もしかすると今日はもういらないのかな?

試しに細い小枝に小さな火をつけてシュガルインの届くところに置いてみたけど、食べようとしない。


「やっぱりお腹は空いていないようね」


チロチロしている。

うん。

わからないけど、わかったわ。

とりあえず、今はいらないってことを。

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