第8話 黄土色のウネウネとブッシュでのクラフト

ルブランへの感謝の気持ちを忘れずに、もし次があれば失礼な態度を改めて接しなければと胸に刻む。


たくさんの木の実を服の裾に集めて焚き火まで戻ってきた。

これだけあれば数日間の糖質と脂質には十分ある。

タンパク質探しと薪拾いに精を出すために、先にルブランから貰ったものをいくつか食べておこう。


小枝を目印に立てていた場所の木の実を掘り起こす。


「ひあっ!?」


ウネウネとしいて黄土色のミミズみたいなものが出てきて、一瞬ギョッとして叫んでしまった。

しかも……


「うそでしょっ!?」


私が焚き火から離れていたのは、ほんの1、2時間程度だった。

それなのに、掘り起こした木の実のいくつかには穴が空いていた。

貫通していた。

さっきのウネウネした黄土色のミミズっぽいやつが、木の実の中を抉りながら何度も直進したのだろうか。


「ぅう……きもちわるぅ……」


ミミズが通ったと思うと、ちょっと触りたくない。

でも、貴重な食糧がどうなっているのかは、確かめなければならない。

乾いた喉に飲み込む唾はほとんどなかったが、ゴクリと喉をから鳴らししてしまった。


「これも……これも…………これも……」


全滅ではなかったがほとんどの木の実にいくつかの穴が空いていた。

虫食いになった木の実は食べない方がいい。

自然界には人間にとって有害な菌やウイルスやバクテリア、毒性の物質を持つ種類の動植物がたくさんいる。

この穴を開けたウネウネのやつが無毒である保証もなく、バクテリアの類にやられていたら食べてはいけない。

だけど、ルブランからもらったものが食べられなくなってしまったのは、少し悲しい。


「まだ1つしか食べてなかったのに……」


せっかく気づけた彼のご好意を無駄にしてしまったやるせなさが胸をしめつける。


「……ごめんなさい」


このまま落ち込んでいても状況は良くならない。

私は今拾ってきた木の実をいくつか口にして、残りの木の実をどうやって保管しようか考える。

地面に埋めるのは危険だとかわかった。

穴の空いた木の実は、とりあえず小枝のラックの枝先に、空いてしまった穴を通して引っ掛けておいた。

今は使い道がないけど、ルブランのくれたものを捨ててしまう気にはどうしてもなれなかった。

せめて生きるために有効活用できるならそうしたい。


ひとつ思いついたことがある。

動画で見ていた1人が苔について色々と言っていた。

たしか、苔は種類によってハーブなどに匹敵するほどの抗炎症作用や消毒効果を発揮するものがある。

水分を給水したりすることも得意で、昔は乾燥させた苔を食料の乾燥剤として使用していたこともあったらしい。

さらには、傷口に塗っておくと湿布の代わりになったり、止血にも役立つ。

つまり、苔の近くに置いておけば乾燥させられて、抗菌、防虫効果もあるのかもしれない。

この森なら苔は至る所にあり事欠かない。


善は急げ。

私はチビカピさんの前歯の骨を持って、池の近くの森の中で見つけた大きな葉を数枚刈り取ってきた。

この大きな葉は茎がしっかりとしていて手で引き抜くことはできなかったので諦めていたが、色々なことに使えそうだ。

チビカピさんの前歯があれば収穫できるし、実際この葉をチビカピさんが食べている姿も目撃していた。

チビカピさんが食べられるくらいだから、食糧保管にも少しは安心だろう。

この大きな葉の上に苔を敷いて、木の実を巻きくるんでおくのだ。


苔のおかげで乾燥していて消毒効果があり、バクテリアや虫なども防止してくれるので、腐らせる心配も減ると思う。

実際、苔の多いこの森で、地面を這っている虫はほとんど見かけない。

虫たちも地面や幹が苔だらけだと、休める場所がないのかもしれない。

その代わり、無視などに食べられることのない落ち葉やキノコによってたっぷりと養分を蓄えた土の中には、ウネウネのような土中で暮らす生物が沢山いるのかもしれない。

大きな葉と苔で作った簡易保管が、離れてもウネウネにやられないことを確かめつつ、今日明日の薪や枯れ葉や使えそうなものを拾い集めた。

これで木の実などの食糧の備蓄はある程度この方法で可能になった。


それから、地面を小枝で掘ると、至る所にあの黄土色のウネウネがいることがわかった。

試しに、穴がたくさん空きすぎている木の実を掘った所に置くと、ウネウネが寄ってくることもわかった。

このウネウネで、動物性のタンパク質を確保することはできるかもしれない。

見た目は黄土色で気持ち悪いので、これを食べるのは遠慮したい。

おそるおそる触ってみると、どうやら触っても痛くなったり痒くなったりはしていない。

動きや見た目が嫌だけど、生きるためにウネウネを集めて、大きな葉の中に包んで逃げられないようにした。


今や大抵のMMORPGで実装されている釣り。

釣りには餌を使うし、このウネウネはミミズみたいなものだろうから、魚か甲殻類のようなものがこの池に居れば、これでおびき寄せて晩ご飯にできるかもしれない。

いくつもみてきたサバイバル系の動画では、ゲームのように釣竿で釣る様子はあまり見たことがない。

たいていは自然のもので作れる罠や人体に無毒な自然の毒を使った罠漁や、銛で突いたり、弓矢や吹き矢を利用した狩猟が一般的みたいだった。

釣りは効率よりも、それ自体を娯楽として遊びやレジャー感覚でするものなのかもしれない。


今の私にとって、どちらが適しているのかは、言うまでもない。

明日までに何かしらのタンパク質を摂取しないと命に関わる状況なのだ。

当然、罠や漁の方で効率を重視することがここでの最善手だと思う。


すでに日が高いところから下りにさしかかっている。

木の実で糖質と脂質を補給しているからギリギリ動き回ることができているけれど。

今日で丸2日タンパク質をとっていない。

さすがにこの過酷な環境で生き続けるには、酷使して壊れた筋肉を修復したり、内蔵や神経の新陳代謝を正常に行うためのタンパク質の補給が必須。

なんとしても、今日の夜は何かタンパク源をとらなければ。

でないと、壊れた筋肉が修復されずに、激痛に苦しんで体を動かすことができなくなってしまうこともある。

そして、筋肉が修復できないと、いくら火のそばにいたとしても、体の内側の温度は保てない。

低体温症で死に至ることになる。

早くとりかからなきゃ。


早速池に仕掛けるための罠を作り始める。

森に囲まれてこれだけ緑豊かなら、材料はいくらでもある。

材料をとるための刃物(チビカピさんの前歯)も手に入れた。

薪をとってくる際に、細長くて丈夫そうな植物の茎も目星をつけていた。

チビカピさんの前歯でそこそこの量を刈り取ってきた。

とってきた茎を輪っか状にしたものを色んな大きさで作る。

その輪っか状のものを真っ直ぐな茎で繋ぐように編んで、そこの尖った花瓶のようなシルエットになるように編む。

それを、大きめで長いのと、小さめで少し短いのの2つ作る。

大きめのものに、漏斗を付けるようにして小さめの方をはめ込むと完成だ。

魚や魚介類は狭いと角で向きを変えるので、角に通ることのできる穴がなければ出られない。

その生態を逆手にとった罠ができあがった。


初めて作ったけど、たくさんのサバイバル動画で似たものを作っているのを見ていたので、特に苦戦することも無くつくることができた。

罠の網目は少し広めで、小さすぎる魚などは隙間から逃げる事が出来るけど、隙間より大きな魚などは逃げ場が無くなる。

さっき集めておいたウネウネ黄土色ミミズを、可哀想だけど、細い枝に刺して逃げられないようにして、この罠の大きめの方の奥側に括り付けた。

ウネウネたちは刺されても元気に動き続けていて、正直ゾッとしてしまった。

血も出ないし、どうやら刺しても死なないらしい。

つくづくミミズに近い生態みたいだ。

魚とか甲殻類も元いた世界と同じような生態ならミミズを食べるはず。

そうだといいんだけど、そして、この仕掛けにかかってくれて、良質なタンパク質も豊富ならもっと嬉しい。


しかし、罠の設置についてのいくつかの問題があることに気づいた。


どうやって仕掛けよう。

この池に入るの、すごく勇気がいる。

チビカピさんたちが普通に飲んで、普通に入って行く姿を見た。

だから、たぶんだけど、無害なんだろうし、そうであってくれなきゃ困る。

どのくらいの深さなのかわからない。

もしかしたら底なし池だったらどうしよう。

上手く泳げるか心配だ。

何しろ水泳教室などには通ってなかったし、海やプールとかは足の着くところにしか行ったことがない。

もし有毒だったり底なしで抜けられなくなったら、私の人生はそこで終わる。

危険な蛇とかワニとか食人魚とか、毒を持った動植物に接触したりしても終わってしまう。

これまでの1日半、そして元の世界の19年の経験から言っても最高の危険度だと思う。


そして、どこに仕掛けるのかも重要なポイントになる。

私がいる焚き火の近くに設置してしまうと、さすがに人の気配とか動物の気配とかで魚とかも寄り付かないし。

だから、なるべく岸から遠くか、それか近くても深い場所や暗い場所ならそれほど警戒されないはず。

魚とかが全く来ないところにしかけても意味がない。

今日必要な食糧が手に入らなければ、今以上に厳しい状況しか待っていない。


そういうことももちろん問題だと思ったけれど、真っ先に思ったことは……。

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