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 紙というのは何色にも変化する。

 教授に任命された時には金銀財宝のように眩く、生殖機能の終りを告げる時は泥のように醜いものだった。

 上質紙が高級品になったからではない。

 不純物の多さでなく内容で決まるのだ。


「それでラストイヤーには卒業生も講義に参加権を通達することになりまして。教卓に立っての数十年で何千人と関わってきた教授には、膨大すぎる内容になりますね」

「言葉遊びの時間つぶしに貴重な大学生活を圧迫された奴らだ。今更またゴミ箱に来たいとは思わんだろ」

「年度末アンケートでは常にトップクラスの人気ですよ」

「寝ようが欠席しようが単位をやる教授ほどモテるんだよ」

「とにかく、講義室も広いとこに変更になりますので、キーボードに踏ませて放置せずに、目を通してください」

 圧を伴ったリクエストは苦手だ。

 こちらに委ねるようでいて結末は決まっている。

 今のやり取りの中に光るフレーズがあった気がするが、脳が耳に確認するのにもう少しカフェインがいる。

 珈琲を三口ほど流してから、大脳アラームが鳴った。

「卒業生だと」

「やっと反応しましたか」

「勿論参加するで」

「貴様じゃない」

 八原はムッと唇を突き出してパソコンに向かった。

 リストを整理して新たに出欠表を作らねばならない。

 教授には決して伝わらない難儀な作業だ。

「それは二年前よりももっと前の」

「ええ。来ますよ彼も。先だって招待済みです」

「誰のことかわかっている口ぶりだな」

 撫で付けた髪をかき上げて、三芳はヒクリと歪んで笑った。

 何をたわ言を、と。

 決して表には出さぬ暴言が聞こえる笑みだ。

「忘れたようですが、教授は紅茶派だった時期もあるんですよ」

 いつの話だ。

 上書き保存をした痴れ者は、黒い液体を啜っているというのか。

「週明けには過去が押し寄せますよ。八原君と準備を進めます」

 うんざりした声で相槌を打ち、八原は机に指を滑らせる。

 電子サックを付けた人差し指が次々リストを更新する。

 容器と違ってキーボードは素材を特定しない。

 そこに平面があれば機能するのだ。

「やば。准教授だけで十四人もおるん」

「助教授を含めると二十一人ですよ」

「逃げ出したやつもカウントして水増しするのは悪趣味だ」

 壁にかかったカレンダーの「21」を見上げる。

 望んだ答えがその数字の中にある気がした。

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保存されたファイルはありません 片桐瑠衣 @katagiri

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