第41話 理不尽


伏見城


秀吉の秀次謀叛の疑いは、妄想から確信に変わり秀次を切腹させたが、それだけでは収まらず秀次の家老や重臣達はもちろん、女衆とその子供達にも及んだ。


秀吉

「秀次の女達と子供は斬首だ…重臣は全員切腹、応じなければ斬首しろ」


石田三成

「…御意」


 石田三成は、冤罪なのに秀次の首脳陣が切腹と言う狂った裁量に当然、異論はあったが秀吉はもう何を言っても聞き入れないはず…正義感を出して物を言えば、あらぬ疑いを掛けられるのが落ちだと、命令の伝達だけをする事にした…


 だが、せめて残された家臣だけでもと考えたのか、受け入れ先の大名を捜し自らも多くの秀次遺臣を受け入れる事になる。






文録四年

 八月二日 三条河原



三条河原で、秀次の女衆と子供達の処刑が始まろうとしている。


 河原には3メートルの台に秀次の首を乗せ首が見下ろす辺りに大きな穴が掘られ、近くに篭に入れられた女衆と子供達…その廻りに役人、それらを40メートル四方の柵が囲い、柵の外には千人以上の見物人が押し寄せていた…



最初に処刑されたのは子供達だ、いくら戦国時代でも子供達の処刑は罵声悲鳴が渦巻いた…


泣き叫ぶ子供達、殺された子供は次々と穴に投げ込まれる…半狂乱の母達…見物人の罵声や悲鳴が鳴り響く…



子供達の処刑が終ると見物人達は謀反人とは言え、果たして反逆者が本当に悪いのか…悪いのは太閤では無いのか、と言う疑問を持ち出す…


 女衆は次が自分達の番だが恐怖心は見えず、むしろ早く子供の元へ送ってくれと願っているようだ…


女衆の処刑は子供達の時とは打って変わって静寂の中で行われた…

 斬首された女衆は無造作に子供達が捨てられた穴に投げ込まれる…


見物人達がざわめき出した。





  お前らぁ!鬼だ!


そうだぁー!酷すぎるぞぉー!


   もうやめてくれぇー!!


 呪われろー!


    そうだぁー!


   呪われて死ねぇー!!




千人以上いた見物人は居たたまれず帰る者が殆どで残ったのは百人に満たない…

 最後の女衆が殺され穴が埋められると、その上に秀次の首塚が作られその石塔には秀次悪逆と掘られていた。




 秀吉による、関白豊臣秀次粛清は家臣女子供合わせて百人以上が切腹や斬首で殺される悲劇になった。





        【高い壁】


慶長二年

 二月二十二日 伏見城


秀吉

「この朱印状を、九州 四国の大名に送れ」


朱印状には、朝鮮半島の全羅道、忠清道を征服しろと書かれている…


豊臣家重臣

「朝鮮は明が入り込んでますが、明もろとも成敗すれば…いよいよ太閤様が大陸の王ですね」



… 大陸の王……

これでやっと信長を越えられる…待ち遠しい限りだ …




秀吉の野望の根源は、自らが陥れ殺した信長を越える事だ…


秀吉は信長を尊敬し憧れていた…


 信長のように教養を身に付け舞踊を舞い少しでも近づこうとしたが…どんなに知識を学んでも、どんなに上手く踊っても、信長の様にはなれない…


二人には圧倒的な差がある…美しい信長と醜い秀吉…


 秀吉が信長を越えるには、信長も驚く位の圧倒的な権力を手にするしかない…


もって生まれた容姿の差を権力で埋める…




秀吉の目標は信長への憧れから始まり…


 憧れに近付けない現実を知り…


  憧れが嫉妬に変わり…


 やがて大きな野望を抱く…



  大・陸・制・覇!!



そうすれば、第六天魔王織田信長を越えられると信じて突き進む…

 秀吉の原動力はやはり信長だった…








慶長二年 三月


いち早く釜山港に到着した小西行長と宗義智は、またしても一番隊で戦果を挙げなければならない…

 明朝廷との交渉失敗の汚名をはらし死罪を免れるため、文字道理の命懸けだ。





釜山港 五月


 釜山港に集まる日本軍は十万を超える大軍になった…その影には黒い霧が蠢き、悪意を撒き散らす…


秀吉を離れた、戦国の悪魔が朝鮮半島の夜に黒い渦を巻く…



小西行長

「何か、明朝鮮に動きはあるか?」


宗義智

「まだ動きは、掴めてませんが…警戒して鳴りを潜めてるのでは…」


小西行長

「脆弱な明朝鮮軍だが、騙し討ちの策略には長けてる…油断はするなよ」


宗義智

「………」


小西行長

「…どうした?」


宗義智

「朝鮮は何故、明に従うのか不思議で…」


小西行長

「たぶん、恐怖… 昔は争っていたはずだ…だが、何度戦っても勝てない、負ければ酷い仕打ちがある…何度も繰り返せば恐怖が骨身に染みる…そんな所だろう」


宗義智

「…我々武士は死を恐れない、負ける筈が無い訳だ」


小西行長

「そうか… だが武士にも死を恐れる者は居るし、朝鮮にも死を恐れぬ者も居る…宋象賢のようにな」


宗義智

「……」


小西行長

「…今日はもう寝るか」







七月になって、朝鮮水軍が釜山港を襲撃したが、日本軍の反撃に朝鮮水軍は壊滅状態になる…



日本軍は朝鮮軍の攻撃を受け、本格的に朝鮮半島侵攻を開始する。



小西行長

「二手に別れ左軍右軍て進軍する」


加藤清正

「右軍の先鋒を任せてもらおう」


小西行長より一つでも手柄を立てようと敵の城が多い右軍ルートを加藤清正が選択する…










秀次切腹事件Wikipedia

慶長の役Wikipedia参照

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