第39話 疑心暗鬼


文録五年 九月


秀吉に明降伏と嘘の報告をした小西行長は、明の使節団を連れて帰国する事になる。使節団は明王朝の書状を持っているが小西は偽の書状を用意していて秀吉と使節団が面会する前に書状をすり替えれば大丈夫とたかをくくっていたが、使節団には書状をすり替える前に秀吉の側近達が厳重な警護を始め出し近付く事すら出来なくなり偽装に失敗する…


明王朝の意向はそのまま秀吉に伝えられ、自分の要求がまるで受け入れられて無い事に秀吉が激怒した!!



秀吉

「貴様らぁー!!!この秀吉を舐めてるのか…あぁー!! とっとと帰って明王朝に伝えろ!全員晒し首にしてやるとな!」


秀吉の発言を通訳が伝えると、明の使者は…〝話が違う、小西行長を呼んでくれ〟そう言って不満を露にするが、秀吉は使者を一喝する。


秀吉

「俺は、明王朝にとっとと伝えろと言ったんだぞ…がたがた言ってると、お前らの首からはね飛ばすぞぉー!!」


明の使者達は我先にと退室して帰国の仕度を始めた。




 明との講和交渉の責任者である小西行長は秀吉から死罪を言い渡される…だが、死ぬ気などサラサラ無い小西行長は言い逃れ出来ぬこの状況下でも打開策を打つ。


小西行長

「まだ打つ手はある…」


宗義智

「ならば、早速行動に移しましょう。私は何をすれば…」


小西行長

「…前田利家殿に連絡してくれ」




小西行長は親交の深い前田利家に助けを求めた…

 事情を知った前田利家は小西行長の求めに応じて、直ぐに秀吉と面会する…





大阪城 天守閣


前田利家

「小西は、太閤(秀吉)の手を煩わす事なく明を攻略するつもりだったそうです…」


秀吉

「はぁ? 小西だと小西行長か…」


前田利家

「そうです…小西は明を欺き交流を続け、明に入り込み征服する計画を立てていたらしい」


秀吉

「なら、なぜ俺に言わない隠す必要があるか」


前田利家

「朝鮮がそうだったが、明も弱い…我らの敵では無いが小西は食糧難や疫病で死ぬ兵士達の事を考えた…」


秀吉

「後付けだ!!信じられんな…」


前田利家

「…太閤と小西はお互いを余り知らない… 小西はこの作戦を話したら弱い明など一気に攻め落とせと反対されると思ったらしい、兵士の無駄死にを無くしたかった…兵士は我が国の力だ、全て日本の為、すなわち太閤の為の嘘だったんだ」


慌てた様子で側近の家臣がやって来た…


秀吉

「今、客が来てるだろ誰も通すな!」


側近

「それが、淀殿が前田様と太閤様と三人で話したいと」


側近達の制止を振り切って淀殿が入って来た…


秀吉

「淀、来客中だ後にしろ」


秀吉側室 淀殿

「前田様から聞いてます御安心を…話は小西様の件ですから」


秀吉

「何で、お前が小西の事を?」


淀殿

「前田様と御一緒によくお会いしてます…聞けば、先のイクサで貢献された小西様に死罪を言い渡したと」


秀吉

「明との講和交渉失敗を隠しだてしていた…」


淀殿

「前田様事情はもう…」


前田利家

「すでに話した」


秀吉

「あぁ~聞いた…しかし、信じられんな」


淀殿

「信じられない……私は、秀吉様のそのお心が心配です…近頃の秀吉様は敵の命は勿論、家臣の命さえないがしろにしています… 昔は倒した敵を家臣にして、無駄な殺生をしなかった」


秀吉

「………」


前田利家

「俺もそうだ、敵だった時もあるが太閤は受け入れてくれた」


淀殿

「秀吉様の家臣達は常に命を賭けてイクサをしてます…その者が何故、信じられないのですか!」


本来、秀吉のイクサは調略メインの戦法だったが、今の秀吉は見せしめや殲滅、強攻策など犠牲者を多く出していた…


変わったのは、信長から戦国の悪魔を奪ってから…いや、戦国の悪魔が信長から秀吉に乗り換えた頃からだ。




秀吉

「…俺が…変わった…」


前田利家

「そこまでは思わないが、あれだけ戦果を出した小西を殺すのは惜しいと言ってるのだ…」


淀殿

「私は、あの頃の秀吉様に戻って頂きたく思います… 昔の秀吉様なら、小西様の意見を受け入れたでしょう…ですが、今の秀吉様では、この作戦は叶わないと小西様は考えたのです」


秀吉

「なるほど、そうかもな……俺は変わった……だが当たり前の事だ、そうだろうがぁー!!!」


秀吉の怒気に押され二人が黙り込む…


秀吉

「あの頃だと…あの頃と今では立場がまるで違う! 今は太閤、日本の頂点だ…しかも小西がダラダラ侵攻してなければ今頃は〝大陸の王〟だった… それがこの有り様、小西が責任を取るのは当たり前の話だ!」


秀吉に押されながらも小西行長の助命を取り付けようと試みる前田利家…


前田利家

「…案ずるな、明は必ず取る!俺が責任を持とう…その為に小西を生かしてくれ! いや最悪、明制圧の後に改めて小西の処罰を検討してくれ無いか…」


淀殿

「〝大陸の王〟になる秀吉様だからこそ、家臣を大事になさるべきです」


秀吉

「まさか小西に、そんなに人望があったとわな…いいだろう、お前達の言う事にも一理ある…小西には引き続き前線で戦果を出して貰う… 利家の言うように後の事はそれから考えよう」





小西行長は、その人脈により助命されたと思われたが、秀吉は小西の戦果を再考して新しいゲームを思いついただけだった…


それは、一つの救われた命が何万の命を奪う事が出来るかと内心でほくそ笑んだ…







        【疑心暗鬼】



秀吉の残虐性は、信長から引き継いだ〝戦国の悪魔〟の影響だとしても、巨大に成り過ぎた自分の権力に不安を抱くのは、秀吉本来の心から来る物だろう…


 この頃から秀吉は、目の届く距離の家臣までも信用出来なくなって来ていた…

 かつて、自分が信長を騙し討ちした様な裏切りに怯え……白昼にさえ悪夢に悩まされ……心は恐怖に蝕まれ……

 まともな判断もままならない状態にあった。



文録四年 六月十日


邪気が漂う不気味な名護屋城で秀吉が小飼の忍を呼んだ…


秀吉

「どうだ、秀次の件は…」


「やはり、昨年に聚楽第で毛利輝元と連判状を交わしてます」


秀吉

「あの、恩知らずがぁ~!」


「引き続き秀次様を調べます」



醜悪な顔を歪めて怒りを露にする秀吉は、豊臣家奉行衆の石田三成を呼び出せと家臣に命じる。




六月十一日

名護屋城 天守閣


秀吉に呼び出された石田三成は、天守閣で秀吉と謁見する…


石田三成

「太閤様、何かお話しがあるとか…」


秀吉

「相変わらず、秀次が朝鮮出兵を拒んでいてな…」


石田三成

「分かりました…私からも、早急に朝鮮出兵へと促して見ましょう」


秀吉

「そうじゃ無い…」


石田三成

「……?」


秀吉

「信じられん事に、秀次は謀叛を計画している」


石田三成

「!!…秀次様が、信じられない…」


秀吉

「最初は、何故朝鮮出兵しないのか疑問はあったが、秀次なりの考えがあるのだろう位に思っていた、しかし秀次は裏で毛利輝元と連判状を交わしていた…」


石田三成

「連判状?……」


秀吉

「そうだ」


石田三成

「…他にも何か謀叛の証拠の様な物はあるのですか…」


石田三成は、秀次が二代目関白に成った事で大名達と連判状を交わし豊臣家の忠誠を誓う事に疑問がなかった…その事で謀叛を疑うには根拠が乏しいと思い、他にも謀叛の証拠があるか尋ねた…


秀吉

「秀次が朝鮮に行かないのが何よりの証拠だ……俺が出兵するのを待っている…俺や主力の大名が朝鮮に出兵してる時を狙って謀叛を起こす計画だろう…奴と毛利が組めば俺の留守中に日本を落とすのは容易い」


石田三成

「………」


秀吉

「我が子の様に接していたが、それが災いしたか…」


石田三成

「しかし、それだけでは真意は分かりません…一度本人に確認してみては…」


秀吉

「確認…お前は秀次に逆心は無いと思うのか…」


石田三成

「そうあって欲しいと… ですが、謀叛が事実なら大軍と武器が必要です、それも相当の…そうなると必ず謀叛準備の決定的証拠を掴めるはず、その証拠を突き付けて、諭して見ては…大事な豊臣家の親族です」


秀吉

「俺には子が居ないからな…」


石田三成

「とんでもない、秀頼様と言う立派な後継者が居ります」


秀吉

「俺に子は居ない… 秀頼も誰の子か分かりゃしない… どうやら魔王は子供が嫌いなようだ」


石田三成

「…どうされました、しっかりして下さい」


… 何を言っている?魔王? 秀頼が誰の子かは、確かに分からんが……だが、秀次様を本気で疑っているのは間違いないか …


秀吉

「案ずるな、心配無い…俺は守られてるからな」


石田三成

「…とにかく、私も秀次様を調べてみます…何かあれば直ぐ報告に上がります」


秀吉

「…いや、お前の言う通り直接話してみよう… 伏見城に出頭する様に伝えてくれ」










小西行長Wikipedia

秀次切腹事件Wikipedia参照

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