第38話 大陸の王


漢城府 日本軍

一月十日


 明軍に平壌城を奪還された日本軍は体制を立て直すため、首都漢城府まで後退して他の部隊と合流…漢城で軍議を開く。


軍議では、籠城戦か前進迎撃戦か揉めていたが小西行長と宗義智は議論の中心から外れて後方で傍観している…


宗義智

「揉めてますね…」


小西行長

「明の兵力はたいした事無いが、明軍の大砲は強力で油断出来ないからな…」


宗義智

「そうですね、それに兵糧の不安もある…」


小西行長

「手柄が欲しい奴等が五月蝿いが、ここは籠城戦が得策だな」


宗義智

「まぁ…私は行長様に従うだけですね」


話し合いの結果、部隊を二分して本隊二万を籠城、後の二万は前進迎撃として明朝鮮連合軍と戦う事になった。






明朝鮮連合軍 一月二十四日



李如松

「日本軍の偵察隊を討ち取ったらしいな…」


 日本軍と明軍は互いに偵察隊を出し相手を探ろうとしたが、偵察隊同士が鉢合わせして戦闘になり明軍が日本軍を撃退した…



朝鮮軍武将高彦伯

「やはり、平壌で日本軍の主力は壊滅したとの噂は事実なのでは…」


明軍副将秋水鏡

「ほぉ…ならば今の日本軍は、弱兵ばかりだと…」


朝鮮軍武将高彦伯

「そう思います」


李如松

「…出撃の用意はどうだ?」


明軍副将秋水鏡

「出来てます」




 圧倒的武力で朝鮮半島を席巻した日本軍だが、明軍の本格的参戦で後手に回りだすと、戦国の悪魔は殺しの螺旋を激しく回し出す…




提督李如松は朝鮮人の日本軍主力壊滅と言う話を信じたのか前回とは違い、大軍になった日本軍に対して何故か二万人程度の騎馬隊を中心にした軍勢を従えて自ら出撃した。




一月二十六日


 日本軍先鋒隊の立花兄弟が、明朝鮮連合軍の先鋒隊明軍二千の軍勢を確認して罠を仕掛ける…



立花 兄

「少ない軍勢を先行させる」


立花 弟

「敵を誘き出すんだな」


立花兄

「そうだ、明軍が仕掛けて来たら後ろから挟み撃ちにしてやる」



 明軍は、まんまと作戦に乗り小隊の正面に仕掛けて日本軍の挟み撃ちに合い壊滅…立花兄弟はその勢いに任せて三千の朝鮮軍に奇襲を仕掛けて撃退、敗走する敵を追撃して、戦果を拡大した…


 更なる戦果を求め深追いしすぎた立花兄弟の前に明軍七千が襲い掛かる。


立花兄

「深追いし過ぎたか!」


戦果のチャンスだと追撃した立花兄弟は、後続の先鋒隊から大分離れてしまい孤立していた…


立花兄

「どうする…退却するか?」


立花弟

「敵に後ろを見せると言うのか」


立花兄

「そう言うと思っていたよ…だが明軍が弱いと言っても多勢に無勢だぞ」


立花弟

「かまわん!明軍など我らだけで充分だ!」



立花兄弟三千の日本軍と、明軍七千の戦闘が始まる。




 明軍に一歩も引かずに戦う立花勢だが、明軍の数に物を言わす攻撃に手こずりながらも果敢に攻め、明軍を敗走させた…

 しかし連続の戦闘で疲弊している兵士達に追撃の体力はなく味方の後続部隊が来るまで待機して、合流してからは疲労を少しでも回復させるために後方で休んだ。




敗走した明軍先鋒隊は、李如松率いる本隊と合流して再度日本軍に攻め混んで来た。



二十六日 正午


日本軍二万と明朝鮮連合軍二万の激突が始まった。


 提督李如松は、左中右の三部隊編成で構えたが不思議と日本軍正面に全軍で仕掛けた…


明朝鮮全軍攻撃の矢面に立つ日本軍の先鋒隊が劣勢になり下がり出すと明朝鮮連合軍は激しく攻め立てる!


この戦局を待っていた日本軍は三部隊から一塊になった敵の右側面を襲撃、これに驚いた明朝鮮連合軍の統率が乱れ体制を崩すと左側面からも日本軍が攻撃を開始!!


 戦闘は一気に日本軍の攻勢になり敵の中央も突破して、後方の李如松を討ち取る寸前まで攻め混んだが李如松親衛隊が体を張って盾となり李如松を逃がした…


明朝鮮連合軍は甚大な被害を出し敗走した…日本軍本隊二万は城を出ず先鋒隊二万だけで勝敗は決した。





海を渡った朝鮮半島でもやはり不可解な力が働いた…


朝鮮人は何の根拠があって明軍に日本軍主力壊滅と報告したのか…


先の戦闘で大型砲が日本軍に有効なのは明白なのに李如松は何故、騎馬隊で出撃したのか…



 朝鮮半島で戦国の悪魔が殺しの螺旋を激しく回す…






大軍同士での戦闘で負けた明軍は日本軍が駐留している漢城府の食料倉庫を燃やし、日本軍の侵攻を阻止する事に成功した。


 かねてから不安のあった食料を失なった日本軍は侵攻を断念、明軍に使者を送り講和交渉を要請した… これは、すでに戦意喪失して武力で撃退する事を諦め始めた明軍の狙い通りの結果となり、講和交渉は朝鮮抜きの日本と明で行われる…






        【大陸の王】



文禄二年 4月某日


講和交渉は小西行長が日本代表で明軍交渉役と協議する…

 小西行長は、しばらく相手の観察をしてから明軍交渉役の懐柔を試みる…


小西行長

「…どうだ?イクサを終らす為に、お互い敵が降伏したと報告するのは、無用な血が流れずにすむ…」


明軍交渉役

「…お互いが?それで、朝鮮から手を引くと?」


小西行長

「…最終的には、明と日本で朝鮮を折半する積もりだが、一度イクサを終わらせたい…」


明軍交渉役

「属国の朝鮮に明王朝は興味が無いと思うが…かといって、日本に明け渡す事も無い…」


小西行長

「だから朝鮮の折半は行く行くはの話だ…今は、今の大事を考えようではないか」


明軍交渉役

「今の大事…それが戦争を終らす事だと?」


小西行長

「そうだ、このままだとお互い消耗するだけだ」


明軍交渉役

「確かに戦争が長引けば、民が傷つき国力が落ちる…」


小西行長

「思った通り、民や国の事を第一に考える立派な志しだ」


明軍交渉役

「…私は個人としてではなく明王朝の代理でここに来たのだ、おだては無用」


小西行長

「いや、おだてたのでは無い…立派な人ほど道を誤る、志しだけでは、何も出来ない…」


明軍交渉役

「…なに‼」


小西行長

「貴殿は今日、日本語ができるのでこの大事な交渉役に選ばれたのでは…」


小西行長の言い回しだと、日本語が話せるだけの無能な交渉役とも聞こえる…


明軍交渉役

「私を愚弄する気か‼」


小西行長

「勘違いするな、貴殿が立派な人だからこそ私と手を組んで出世するべきだと言ってるんだ」


明軍交渉役

「手を組む、敵に寝返る気はない‼」


小西行長

「寝返るとか大層に考えるな、明王朝に忠誠を誓ったところで、現実的には日本軍の中に明王朝は貴殿をよこした… 明王朝はきっと交渉役が殺される事も考えたんじゃないのか…」


… なんなんだこいつは、俺が捨て駒だと言いたいのか… だが、確かにそうかも知れない、だとしても忠誠を示さねば…もし裏切れば一族郎党皆殺しにされる、裏切れる訳もない …



明軍交渉役

「だとしたら、なんだと言うんだ…どうあろうと私の立場は明軍交渉役で代わり無い」


小西行長

「それはそうだが、ワシは貴殿はもっと上の立場になるべき逸材だと言ってるんだ… 武力で日本軍を撃退出来ないのを講和交渉で降伏させたとなれば明王朝での貴殿の評価は確実に上がる…」



明王朝に必要な逸材として出世するのだと、甘い言葉で偽りの報告をさせようとする小西行長…


明軍交渉役

「……」


小西行長

「手を組むと言っても、お互いが秘密を共有するだけ…国を裏切る訳じゃ無い…それで出世して国を豊かにすれば良いだけだ…」


明軍交渉役

「…国を豊かに」


小西行長

「そうだ、嘘も方便それが必要な時もある…国のため、そして自分のためだ」



交渉役を言葉巧みに丸め込んで偽りの講和交渉を成立させた小西行長は明王朝降伏と、またしても嘘の報告を日本に持ち帰る。








小西行長Wikipedia

文禄の役Wikipedia参照

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