第27話 隠蔽


 先頭が倒れたら2列目が先頭に3列目が2列目に、鳳凰の陣形は中央の秀満と部隊長を軸に回転しながら恐ろしい速さで突き進むが次々に倒れる家臣、ひし形は既に最初の半分程の大きさになっている…秀満は家臣達の屍を越えて秀吉の元に進む。


 光秀の無念の為に、死んだ家臣達の為にも、自分の最期の意地を見せる為にも秀吉の首を取る決意で必死に進む…


 秀吉は秀満を見据え動かない、もう秀満は秀吉の近くまで突き進んでいる…



「秀吉様、お下がりください!」


「かまわん、俺は大丈夫だ…たぶん…」


 秀吉は以前の信長の様に、神か悪魔か分からないが、戦国の何かが自分を選んだと考えていた…かつて信長が持っていた不可解な力は、いま自分の物、秀満の決死の攻撃も今の自分には通用しないはず…

 その、不可解な力が宿ったかを試す良い機会だと思い迫る秀満の前から下がらない秀吉…


秀吉

「さすが秀満の精鋭部隊この大軍を突き進むとは…」



 200人も居ない秀満の部隊が、左右に広がっているとは言え5000人以上の秀吉軍の中を大将の秀吉が狙えるまでに突き進んだ…秀満は弓矢で秀吉を狙う、精鋭部隊長は火縄銃で秀吉を狙う…

 秀吉との距離が30メートル程になったが秀満を守る精鋭部隊の兵士は、もう20人ほどしか居ない…秀満と部隊長はこれが最期のチャンスと思い全身全霊で秀吉を狙い撃つ‼



 秀満の放った矢が秀吉目掛けて一直線に飛んでいく…


「行けぇー!!秀吉を殺せぇー‼」


部隊長が火縄銃を撃った!


「この距離で外したことは無い‼

秀吉甘くみた事を後悔して死ねぇー!!」


 二人の放った矢と弾は大勢の兵士の間を抜け秀吉を襲う…


 秀吉を取ったと秀満が確信した時…それは起きた。


 秀吉を殺すはずの弓矢を、精鋭部隊長の秀吉を狙った弾丸が破壊して弾は軌道を変えた…


「バカなぁ…」


「弾丸が…矢に当たってそれただと!!?」


 驚愕する二人を秀吉軍の兵士が四方から槍で襲い貫き切り裂く!


明智秀満

「信じられん…悪運の強さだな…だがこの明智秀満死んで…も貴様を呪い殺して…やる…楽しみにして…ろ…ガッハッ」


 秀満は秀吉を呪いながら絶命した…


 イクサに狂って戦う兵士達が、既に死んでいる秀満に何度も槍を刺し首を切り落とした…

 狂兵士達は、俺の手柄だと言わんばかりに秀満の首を光秀だと思い我先にと取り合う…



秀吉は、地獄の様な光景を満足げに眺め自分の力を確信する。


… 俺はここで見ていただけ、何もしていない…鉄砲の弾が矢を砕き、弾は軌道を変えた…偶然の出来事の様だが不可解な力はいつも偶然を装おう、どうやら手に入れたようだ …









    【隠蔽】




明智軍 本陣


藤田行政

「単独行動で秀満が秀吉を後ろから襲ったが、殺られたようだ…」


明智光忠

「兵数で劣る我らだが、秀満が考えた様に秀吉さえ取れば勝てる‼」


斉藤利三

「いま敵は、左右に広がっている…と言う事は奥行が少ないから、後ろに回りやすい…」


 山崎の地形が大軍での合戦に不向きなのを明智軍が利用して秀吉軍が一気に攻め込め無い状態を維持していた。


伊勢貞興

「私の部隊が、後ろに回り込み秀吉を狙います」


斉藤利三

「機動力のある伊勢隊なら適任…

私が伊勢隊を援護します」


明智光忠

「すぐに始めよう、秀吉が居る後方の部隊が秀満との合戦後で疲れてるうちに…」





 伊勢貞興は、秀吉の後ろに回り込むため敵部隊の居ない場所を目立たないよう進軍していた…

 ところがそれを、長距離移動に疲弊し戦闘を避け休んでいた秀吉隊の兵士に見つかってしまう。



兵士の報告を受け指示を出す秀吉…


「後ろに回り込むつもりだな…

狙いは俺か、その近くに中川隊がいるはずだ攻撃するように伝えろ」


中川隊に伝令が走る。


黒田孝高

「私も、今から行って叩いて来ます」


秀吉

「すまんが、頼む」






 中川清秀は秀吉からの伝令を受け、伊勢隊の先回りをして迎え撃つ。



伊勢隊兵士

「前方に敵の部隊が待ち構えてます」


伊勢貞興

「気付くのが早いな…臆するなぁー!蹴散らせぇー!!」



 伊勢隊を突破させるために援護する斉藤隊の猛攻に中川隊は窮地に立たされた…



中川清秀

「狼狽えるなぁー! じきに援軍が来る持ちこたえろ!」


 大将の檄に、劣勢だが兵数では遥かに上回る事を知っている中川隊兵士達は士気を上げる。



 後詰の出陣をしていた黒田孝高は劣勢の報を受けて他の部隊も引き連れ戦闘に参戦するが、明智側も援軍が出陣して来て戦闘は一気に激化した。




 一進一退の攻防が続く中、秀吉軍池田恒興が動き出す。


明智軍が秀吉軍の後方に回り込もうとして来たが、今度は秀吉軍が明智軍の後方に回り込む。


池田恒興

「全軍で川を渡れ!敵の後ろから攻撃しろ!」



 池田隊が円明寺川を渡って明智軍を攻撃すると、秀吉軍の他の部隊もそれに続くように川を渡り多勢の秀吉軍が、明智軍を挟み撃ちにする。


 明智軍は前後からの攻撃をうけ、劣勢になると臆した傭兵や雑兵が逃げだすなど戦力が激減してしまう…

 数を減らした明智軍は秀吉軍に一方的に攻められ有力武将を数多く失い敗走…

秀吉が勝利した、そして真実は闇に葬られる。



 信長を狙った光秀は信長に逃げられ、光秀を狙った秀吉は光秀を討っていない、だが世の中には…


“明智光秀が織田信長を暗殺”


“豊臣秀吉が明智光秀を討伐”


と言う事になり、すべては秀吉の思い通りになっていた…


 秀吉は信長の弔い合戦に勝利した事で、織田家での立場が他の重臣達よりも優位になる。




 戦国の悪魔は信長に下克上の世を作らせた… そして今度は、下克上の申し子秀吉を使って日本に地獄を描き恐怖を撒き散らす。








山崎の戦いWikipedia

豊臣秀吉Wikipedia参照

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