第26話 速すぎる帰還


 刺客だけで無く、小姓の蘭丸にも信長暗殺を仕向けた秀吉の策略は見事に成功した…後は仕上げの明智軍討伐で秀吉は巨大な織田家の覇権を手にする。





明智軍 安土城


 明智軍は秀満を光秀に仕立てたまま信長の居城である安土城を占拠した。


 誠仁親王は謀叛による混乱を憂いて安土城に使者を送り明智軍に京の治安維持を頼んだ…


誠仁親王の使者

「天皇は見事な謀叛、今後は明智光秀様に京を治めて貰いたいと申しております」


明智光秀(秀満)

「慎んで、お受けします… 誠仁親王には改めて御挨拶に伺うと御伝え下さい」






 誠仁親王の使者が帰ると、秀満を除いた明智家重臣達の会議が始まる…



藤田行政

「朝廷のお墨付きだ、これでこちらに付く大名が増えるな…」


斉藤利三

「しかし、信長の首が無いのが災いしてる、逃げ延びたなどの情報でみな混乱している…」


明智光忠

「とにかく、与力大名を集結させよう…」


藤田行政

「与力大名には、秀満が光秀様を装っいるとすぐバレるぞ…」


明智光忠

「そうだな……光秀様は怪我で療養中…暗殺を警戒して場所は内密にしている事にすればいいだろう…」


斉藤利三

「秀満は、なるべく表に出さないようにしないとならないな…」


 安土城で信長の財宝を手に入れた明智家重臣達は朝廷や有力寺院に金をばらまいて手なずけ、織田家領土を近江まで平定したが、与力大名のほとんどが明智側に着かず織田側に着いた…


 秀吉の根回しと秀満がやった与力懐柔の差が結果に出た。





 明智家重臣達は、最も当てにしていた細川藤孝が髷を切り喪に服すと明智軍の誘いを拒否した事が伝えられて憤慨する…


藤田行政

「細川が誘いを拒否しただと‼」


斉藤利三

「なんだと…!? 細川の息子の正室は光秀様の娘だぞ…」


明智光忠

「くっ…確かに、細川は誤算だが愚痴を言っても始まらない…今は、柴田軍や豊臣軍が戻る前に近隣の大名を実力行使で従わすまでだ‼」


 武力で近隣の大名を制圧しようと意気込む明智軍だが、明智軍の倍の数で秀吉率いる織田軍が迫っていた。







   【速すぎる帰還】



明智軍 本陣


秀吉の大軍が近くまで来ているとの情報に明智の重臣達が慌てて集まり出す。


斉藤利三

「秀吉が、もう来てるだと…進軍が速すぎる」


藤田行政

「急いで迎え撃つ体制を整え無くては」


 重臣達が軍議をしている所に光秀になった秀満がやって来た…


「秀吉の軍だと…」


一言呟いて、立ち去る秀満……緊急事態の軍義を立ち去る秀満に茫然とする藤田行政を明智光忠がなだめる。


「気にするな…戦闘の準備を始めよう」


「そうだな…もう秀満は期待出来ない」



 秀満は魔物退治が秀吉と光秀の作戦だと言う事を知っている…

 本来なら秀吉は光秀に加勢しなければならない、しかし加勢の連絡がないと言う事は裏切った可能性が高いと考えられるが… 極秘で始めた魔物退治と言う作戦の性質上、秀吉が裏切ったのかどうか現状では判断がしづらい…


秀満は秀吉の腹を確める為に伝令を出した。



「明智光秀から伝令が来てますが、会われますか?」


「光秀だと‼?」


… そうか、秀満が光秀になりきっていたな、光秀の首を持って来て和睦する積もりなら、光秀を名乗らないはず…どう言うつもりか伝令に会って見るか …


「分かった、連れて来い」




しばらくして、秀吉の家臣に挟まれて伝令が連れて来られた…


「お前か、秀満の伝令は…」


秀吉は明智の家臣が光秀の死を認識してるかカマを掛けた…


「いえ、光秀様の伝令です。これを…」


… やはり一般兵は光秀の死を知らないのか …



 光秀からだと言う書状を伝令が秀吉に渡す。秀吉は渡された短い文章を読んだ…



〝私は全て聞いている〟



… どうやら、光秀は秀満に魔物退治を話していたらしいな…まてよ、聞いているとは?光秀から聞いていると言う事になる…自分が秀満だと自覚がある…

 錯乱してると聞いていたが、便宜上光秀を演じてるのか…だが、今さら何を騒ごうが謀叛人の戯れ言で片付けてやる …



 秀吉が思うように秀満は既に冷静さを取り戻していたが、兵の士気を下げない為に光秀を装い続けていた。







明智軍 秀満隊


… 伝令は戻らぬか…邪魔な信長を殺させ光秀様を討ち取る、それが秀吉の筋書き…卑劣な奴め!与力大名が織田に着いた以上勝ち目は薄い…だが、もはや命に未練無し‼ 秀吉だけは、許さん必ず道連れにしてやる …



 秀満は光秀の与力大名達に、秀吉が魔物退治と称し、信長暗殺を企み明智家を動かしたと書状で伝えたが、ほとんどの与力大名は秀満が出した書状をまともに取り合わず破棄していた…

 しかし池田恒興だけは、この書状に興味を示す。




… これは事実に違いない、秀吉め自分で光秀を焚き付けて光秀を殺し、仇討ちの手柄で織田家を牛耳るつもりか…

 だが何故、自分で殺らずに光秀を使って口封じする…なぜそんな回りくどいやり方を …



豊臣軍 本陣



 光秀として秀満が出した書状を持って池田恒興が秀吉の下を訪れた。



「これは、どう言う事ですか…」


恒興が書状を秀吉に渡す、今回の謀叛の仕掛人は豊臣秀吉である有無が記されている。


「…苦し紛れの戯れ言では」


「ならば…光秀が謀叛を働く事を知っていたのは何故ですか…」


恒興は、秀吉が主犯だから光秀の謀叛を知っていたのではと問い詰めるが、秀吉は気にする素振りも無しに自分の情報網の広さをひけらかす。


「…その前に、恒興殿が知らない事を教えよう、光秀は既に死んでいる」


「バカな、ならこの書状は何だと…」


「秀満が光秀に成りすまし出した物、それを見て恒興殿は謀叛を予想していた私を疑った様だか、このように、私は恒興殿が知らない情報を幾つも知っている…

 その中で、光秀の謀叛を予測し、光秀が死んだ事も把握してる…あくまでも、情報によっての予測と行動だ」



… 甲賀の忍を従えてると聞くが、それだけの事はあるな…しかし私は、そんな口先だけの事で納得はしない…あの日、光秀に付くか織田家に付くか聞きに来たのは何か大きな意味があるはず …


「なるほど…さすがですね、しかし秀吉殿…私が、いや摂津衆が明智に付くと言ったらどうします」


「…それは困る」


… 信長はもういない、恒興に全て話して取り込む良い機会か …


「正直、摂津衆が明智に付けば戦闘は長引く…しかし、勝家殿が戻れば一気に方が付く…恒興殿は負けると分かっていて家臣達を死なせるのですか…」


「…それが武士と言うもの」


「そうかな…? 戦国の世で私に敗れた者達はその〝武士と言うもの〟に囚われ過ぎて死んでいった」


「…やはり…明智に付かないように説得するか、勝家殿が戻ってからでは自分の手柄にならない…摂津衆を取り込めば仇討ちの手柄で織田の覇権を握れる…」


「…そうだ、覇権を握れるだろう」


「…!? 潔く謀叛を認めるか」


「だが、それは目的では無い…」


「なにっ‼」


「摂津衆が、いや池田恒興が私には必要だ… だがその目的は〝天下だ〟」


「天下!?」


「…織田家の勢力図は大きく分けて、柴田勝家と摂津衆込みの明智光秀とこの豊臣秀吉の三つに分けられる… と言う事は、摂津衆の居ない明智は相手にならない、その居なくなった摂津衆が私と組んだら…織田家うんぬんではない天下が取れる!」


「…本気か」


「もちろんだ」


「摂津衆と天下…」


「今までは時代が信長様の味方をしていた…」


 秀吉は下克上の戦国時代は信長から始まり、時代が不可解な力で信長を守り戦国の覇者にした事…

 百姓上がりの秀吉がまさに下克上の申し子である事…

 時代が信長より下克上の申し子である秀吉を選んだなどを話し、信長亡き後、共に歩んでほしいと池田恒興の心を動かしその勢力を取り込んだ。




 戦国時代は下克上の申し子豊臣秀吉が天下を取る事で新たな時代に変わろうとしている…








     【執念】




 円明寺川を挟んで対峙する明智軍と秀吉軍…睨み合いは2日続いた、その2日間に秀吉の命を狙う秀満は後方に陣取る秀吉の居場所を突き止めた。



 錯乱して気が触れたと思われた秀満だが、今は立ち直り明智家のために光秀を演じている…

 しかし、私設の精鋭部隊とは秀満として対応していた。



「最後尾に陣取ってるか、予想通りだな」


「はい、秀吉を取り囲む兵も長距離移動の無理が祟って疲弊している者ばかりです…」


「どうだ、精鋭なら少数でも秀吉を取れると思うか?」


「気付かれずに後ろに回り込めれば可能だと…」


「よし、出陣するぞ‼」





 秀吉を囲む部隊は無理な長距離移動で疲弊している、精鋭部隊なら少数で蹴散らせると考えた秀満は単独行動で秀吉軍の後ろに回り込み虚を突く作戦で秀吉の命を狙う。



「やけに兵が少ないな…」


 後方だが、秀吉を守る部隊にしては兵が少なすぎる事に秀満が警戒する…


「秀吉の居場所を探りに来た時はもっと大勢いました…」


「なに? 罠か……回りを探らせろ‼ いったん下がるぞ」


 その時、秀満の部隊を挟み込むように左右から秀吉の部隊が現れた‼


秀吉

「秀満ぅー‼ 残念だったなぁ!

生粋の侍のお前が後ろから襲うとは見直したぞ! だが成り上がりの俺は後ろから襲うのは当たり前…それだけに自分の後ろも警戒してる、お陰でお前の襲撃を察知して罠を張っていたと言う訳だ!」


秀満

「急げぇー‼退却だぁー!」


秀吉

「逃がすなぁー!皆殺しにしろぉー‼」


 前方から降り注ぐ矢に左右から長槍に襲われ、秀満の誇る精鋭部隊420人は劣勢に立たされた。




精鋭部隊長

「秀満様を逃がせぇー‼」


明智秀満

「まてぇ~! 逃がしてもらったところで同じ事だ…ならば、秀吉に明智秀満の最期の意地を見せてやる!!!」


退却を諦めた秀満が、秀吉を狙う事を家臣達に頼む!


「頼む‼私の最期の意地…通させてくれ!」


「…もとより、我々の命は秀満様のもの…秀吉の首取ってやりましょう‼ 秀満様を中央に鳳凰の陣形をとれ!狙うは秀吉の首だぁー!!」


ウオォー!!!!!!


 秀満の精鋭部隊は秀吉隊の攻撃を受け、半数以上が死傷してまともに戦える状態じゃ無いが、中央に秀満を置き菱形の陣形に成り秀吉目掛けて命を捨てた突撃を始めた‼



 先頭が1人、2列目が2人、3列目が3人と中央が太い25列の菱形の陣形で秀吉の首を狙う…









明智光秀Wikipedia

明智秀満Wikipedia参照

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る