第18話 魔物退治


     【決意】




信長包囲網 崩壊



激戦を繰り広げ優勢になっていた反織田勢力だが、病に伏せていた上杉謙信が死んだ…


 突然の当主の死は上杉家で跡目争いに発展して信長討伐の反織田勢力から外れていく…






かねてから、信長に懸念を抱く竹中半兵衛が上杉謙信の病死である決意をした… 半兵衛は主君の秀吉に決意を伝えるため会いに来た。



「以前、秀吉様が言っていた信長様が第六天魔王だと言う事、身に染みました…」



「上杉謙信の死か?」



「そうです…このまま行くと、この国はどうなってしまうのでしょう…」



「俺にも分からん… しかし信長様に逆らう者が死ぬと言う事は分かる」



「私は、信長様が天下人である限りイクサが…いや殺し合いが続くのではと…」



「…何が言いたい」



「このままでは、死ぬまで殺し合いをさせられる…」



「……」



「秀吉様、魔王を止めましょう‼」



「…本気か?」



「私と一緒に戦って下さい‼


今の秀吉様の力は織田を二分するほどの力、秀吉様なら…」



「大袈裟な事を言うな、あくまでも信長様が居ればこその立場だ…」



「しかし…信長様を止められるのは秀吉様しかいません」



「落ち着け、話しは聞く…… だが、今後この話の時は隠語を使う様にしろ…魔物と呼び周りに気を配れ…」



「魔物…そうですね…どこに忍が居るかも分からないのに不用意でした…」



「…気にするな、だが本気で魔物退治をする気なら…相当の覚悟をしとけよ…」



「はっ! 命を惜しまぬ覚悟を決めて来ました……ですが、考え過ぎたせいか疲れました…今日はこれで帰ります」



半兵衛は秀吉を信じて魔物退治のため水面下で動き出すようになるが、秀吉の心の奥では黒い渦が大きくうねりだしていた。






明智光秀 居城



秀吉と半兵衛は魔物退治の計画を話し合い、まだ織田軍で信長の毒気に感染してないだろう武将達を巻き込む事にした。 


 織田軍の有力武将である明智光秀の城にやって来た半兵衛は光秀を魔物退治に引き込むつもりだ。



「我々は今、幕府に成り代わり朝廷を凌ぐ程の力を手に入れました…しかしこれで本当に良いのでしょうか?」



「どう言う事だ… 上杉が弱体化して後は毛利輝元を抑えれば名実ともに日本は我々の物だ」



「…それでこの殺し合いが終わるとでも…」



「それは…そうなるだろう…」



「私は終らないと思います、織田軍はいまや殺戮集団、信長様は死ぬまで人を殺すでしょう… ならば必然的に我々も死ぬまで殺し合いをさせられる…」



半兵衛が何を話に来たか半ば理解した光秀が結論を促す…



「…なら…どうしたい」



「信長様を止めるべきです」



信長を止める… その言葉が意味する物は謀反だ。


さすがの光秀もこれには表情が固くなる。



「秀吉殿はなんと…」



「戸惑ってます…信長様には魔物が取り憑いていると…」



「…魔物?」



「例えば、上杉謙信が本願寺と松永久秀の援軍に来てたら織田軍は敗走していたでしょう、だが謙信は死んだ… それだけじゃない、武田信玄も信長様の喉元に手が届きそうな時に突然の病死…


 下剋上のはじまり桶狭間など偶然で片付けるには信長様に都合が良すぎる事ばかりが起きた…


 秀吉様は信長様が本当に第六天魔王じゃないかと言ってます」



「…なるほど、今の信長様は魔王そして織田軍は魔王の手下の殺戮部隊か」



「このままでは日本は魔物の国になってしまう…私は命懸けでこの国を取り戻す」




「…本気か?」



「私に光秀様の力をお貸し下さい‼」



「…織田軍の虐殺には辟易していたところ…いいだろうお前の力になろう」



明智光秀も無益な殺生をする信長に反感をもっていた…しかし、その反感が半兵衛によって信長討伐に変換された時…光秀の心に野心が芽生える…




竹中半兵衛の魔物退治は水面下ではあるが豊臣秀吉 明智光秀 荒木村重など有力武将を巻き込み信長討伐の謀叛は、国を憂いだ半兵衛の意思とは裏腹にキナ臭い物になって行く。








播磨遠征



上杉謙信の死で有利にイクサを進める織田軍は播磨に侵攻するが、別所長治が毛利輝元に寝返り戦闘が激化する。






明智光秀 居城



豊臣秀吉、明智光秀、荒木村重が真夜中示し合わせ密談する。



「今回の播磨遠征に魔物が来てる事をどう思う…」



秀吉が問い掛けると村重が光秀の顔を見て答える…



「魔物を弱らす状況が整っているのでは…」



問い掛けられた光秀は逆に問い掛ける…



「魔物は一筋縄では行かないと思うが?二人は倒せると言うのか…」



秀吉と村重は光秀に会う前から話し合っていた計画を切り出す。



「村重殿が反織田勢力として決起する…」



光秀の表情が険しくなる…



「魔物退治を開始するのか…?」



「そう言う事だが… 実は村重殿は領土の民に魔物の統治からの離脱を要求されてる」



秀吉が村重と目を合わすと、村重は頷き話し出す…



「この要求が洒落にならなくて下手したら当主を追い落とされかねない状況だ、そこで反織田勢力と組んでの謀叛になる訳だが、二人にはそのまま織田軍に居てもらう…」



後はおれがと秀吉が村重に目配せする…



「何故かと言うと、毛利本願寺が負けた場合、魔物退治に参加してない我々が村重殿の無実を主張する為だ…


村重殿は人質を取られ仕方なく本願寺に味方する振りをしただけだと…」



「…差し迫った事情があるのは分かった、戦うには毛利水軍が海上を制圧してる今が勝機と言う事も分かる…しかし…それなら」



光秀の考えを察した秀吉が口をだす…



「我々も決起するべきだと…?」



「そうだ…そうなれば、より確実に魔物を討てるはず」



「普通ならな… だが、普通じゃない…魔物には今までもこんな窮地は何度もあったが何故か全て回避してきた、反織田勢力はいつも大将が不審な死を遂げて形勢が逆転する…」



村重が光秀に今回の謀反が、態勢の構築だと言う説明を付け足す。



「この謀叛は形勢逆転のような予想外な事があっても勝てるように、勢力の態勢を整えるための戦いだ…」



「そうだ、村重殿には毛利や本願寺を煽って織田軍の力を弱体化してもらう、単純な勢力の優劣で争えば松永久秀の二の舞に成りかねない… 圧倒的な勢力差をもっていなければ魔物は討てない」



光秀が思慮深い作戦に感慨する…



「流石は秀吉殿、私は魔物を甘く見ていたようです」



光秀の誉め言葉に苦笑いの秀吉…



「実はこの作戦は村重殿の事情を知った半兵衛が考えたんだ」



「…よい参謀をお持ちで、羨ましい限りです」




… なるほど、俺が天下を取るのに一番邪魔なのが竹中半兵衛かも知れないと言う事か …






荒木村重は計画通り毛利輝元と本願寺の顕如を焚き付け戦闘を激化させる。





織田軍秀吉隊



「半兵衛、毛利か本願寺で何か異変は起きて無いのか?」



「まだ何も…」



「そうか、しかし何が起きるか分からん油断するな… 顔色が優れない様だか大丈夫か?」


半兵衛を凝視する秀吉…



「すみません、ただの寝不足です…今日は先に休ませて頂きます」



ゴフッガハッ‼




竹中半兵衛が大量の血を吐き倒れた



「半・兵・衛・ぇ~!大丈夫かぁー‼


誰か、医者だ医者を呼べぇー!」



… 迂闊だった、だが考えれば半兵衛が首謀者のようなもの狙われるのは当然か… しかし、半兵衛を死なせる分けにはいかない…!



 


 なるほど、思う壺か…



  いいだろう、踊ってやるよ…



 だがその力がどう動くかを、この目で見極めてやる …





秀吉は半兵衛を助けるためには、反織田勢力の鎮圧が重要だと考えた…



反勢力鎮圧に秀吉が動く事は魔物退治に混乱を招き魔物を優勢にする事だ、だが秀吉はそれで半兵衛がもし助かるとしたら…この不可解な信長の力はある程度予測して利用出来るかも知れないとも考え動いた。




すぐさま全軍で攻め毛利軍の砦を次々に陥落した秀吉… 毛利軍と本願寺勢はお互いを繋ぐ砦を落とされた為に連携を断たれ本願寺は孤立する。




これを知った明智光秀が秀吉を問いただしにやって来た。



「どう言うつもりだ‼ なぜ裏切った…」



「……魔物の呪いで半兵衛が死にかけてる、今回の謀叛は半兵衛が首謀者、だが魔物の味方になれば呪われる必要はないはず…」



「バカな… 不可解な現象が起きる事は最初から分かっていた事、多少の犠牲は覚悟の上では無いのか‼ 」



「…そのつもりだった、だが半兵衛が居たからこそ今の私がある… 半兵衛無しでは私も有り得ん、やつを死なす訳にはいかない」



「勝手な事を言うな! なら今戦っている村重殿はどうなるんだ!」



秀吉が床に手をつき頭を下げる…



「すまない… 私はどうしても半兵衛を見殺しには出来ない」



… そこまでして助けたいのか、やはり半兵衛が秀吉の強さのカギと言う事か …



光秀が秀吉を諭すように話し掛ける。



「村重殿との約束はどうするつもりだ、半兵衛も命が助かる補償は無いはず…」



土下座したままの秀吉。



「…半兵衛の命が助かるか助から無いかは分からないが魔物を殺すと言う考えは変わらない… だから、光秀殿の力で何とか村重殿を助けて貰いたい‼ 勝手な願いは百も承知での、お願いです!」



秀吉は土下座が生粋の武士でプライドの高い明智光秀に効果的と判断して、面倒な荒木村重救出を光秀一人に押し付けるつもりだ。



「今は光秀殿にすがるしかない、この通りだ‼」



「くっ… !」



… まてよ、これで上手く村重を救えば二人に貸しが出来る…信長討伐の主導権を握れるか …



「いいだろう、こうなった以上はしょうがない、出来るだけの事はやって見よう…」





… どうやら天下はこの明智光秀を待ってる様だな …






自分に天下の風が吹いて来たと思っている明智光秀は秀吉の強さをまだ甘く見ていた…


実際に秀吉は半兵衛を死なせたく無いと思っているが、本心は魔物の力を操りたいという一心で動いている…



信長討伐の先に天下を見る光秀と魔物の力を操りたいと思う秀吉では、強欲さで秀吉が光秀を遥かに凌駕していた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る