第16話 悪魔の殺戮部隊



朝倉を滅ぼした織田軍は浅井長政の居る小谷城に引き返し城を包囲した。



「信長様、小谷城に使いの者を送りました…まずはお市の方を救出致します」


「そうね…頼むわ、娘達もね」


嫡男は先妻の子供で、お市の実の子は三人の娘達だけだ…


「はい」


秀吉は、お市を救出する為の使いを送り長政の返事を待っていた。




小谷城 浅井長政


「長政様、織田からは何と?」


「やはり、お市の解放の事だ…」


「どうするつもりですか?」


「無事に渡せば要求を呑むと言っている」


「…御子息の為にも、ここは織田の軍門に下るしか無いと思いますが…」


「信長が約束を守ると思うか?」


「…それは、私には分かりかねますが」


「ます無いだろう… そこでお前に頼みがある、万福丸(長政の嫡男)を連れて逃げてくれ」


「長政様は…」


「私の事は、気にするな」


「…長政様が御子息と逃げられては、その間の時間稼ぎ位は命に代えても私が…」


「私が居たら信長は何処までも追って来るだろう、万福丸を死なす羽目になる…お前なら大丈夫だ万福丸を浅井家を頼む‼」


床に頭を付け土下座する長政の姿に、その覚悟を見た浅井家家老もまた覚悟を決めた…


「顔を上げて下さい… もう…決めたのですね」


「無理を言ってすまない」


「分かりました‼ 御子息は必ず浅井家の跡取りとして立派に育てて見せます」


「頼んだぞ!」



長政は家老に嫡男万福丸を預け、秀吉にお市と娘達を迎えに来るようにとの書状を出した。




織田軍 秀吉隊


「お市の方を迎えに来いと言ってますが、条件はありません…どうしますか?」


「長政が、お市を返せば許されると思ってるとは考えにくい…むしろお市を返せば戦闘は避けられない…戦う気か…? まぁいい、今から迎えに行ってこい」






秀吉の家臣がお市と娘達を引き取りに小谷城にやって来た。



「織田から迎えが来た娘達と行ってこい…」


「長政様は…」


「私は城主だ城に残る」


「…私が兄に…信長様に言えば命だけは助かるかも知れない…」


「分からんぞ、お前の目の前で殺されるかもよ」


「…見たく無い」


「あぁそうだ、見せたくない…」


「貴方がいなくなったら…娘達が悲しむわ」


私は平気だけどと言わんばかりに強がるお市…


そんなお市を愛おしく思う長政…

「ハハッなら、旅に出たと言っておけ手紙は出せないがな…」



そう言って長政がお市に目をやると、三つ指をついて頭を下げるお市…



「…もう良い、はやく三人を連れて織田に帰りなさい」


「私は今まで幸せでした…」


「あぁ俺も、お前が妻でよかった…お陰で潔く死ねる」


「武士として死ぬ主人を誇りに思います…」



お市と三人の娘が織田に引き取られると、秀吉は降伏を勧めたが長政は最後まで断り続け自害した。


この長政の判断は正しかった、信長は降伏を勧めていたが結局、長政が自害したあと浅井の血筋は皆殺しにされた…最初から許す気はなかった。

 長政が自分が亡き後に浅井家再建を託した嫡男の万福丸も織田の忍などの諜報員に探し出され磔にされてしまった。


晒し首にした浅井長政と朝倉義景の頭蓋骨は薄濃と言う杯にされ信長のコレクションの一つになり死んでからも信長に蹂躙され続ける。






織田軍の非道な粛清は次に三好義継に向けられた。


三好家当主三好義継は信長に追放された将軍足利義昭を庇護して、懲りずに諸国の大名に信長討伐の御内書を送らせていた、この報復として織田軍は三好義継討伐の大軍を送り出す。


義継は籠城して織田軍を迎え撃つが、御輿に担いだ肝心の将軍足利義昭はさっさと逃亡してしまった。 それでも義継は重臣であり自身の参謀でもある松永久秀の援軍を信じて織田軍と戦う…


しかし当の松永久秀は、将軍足利義昭が逃亡したのを知り出陣を断念していた…

 三好善継は頼みの綱の久秀に見捨てられた挙げ句、家臣にも裏切られる…

 善継を裏切った家臣は城門を開き織田軍を引き入れた…織田軍が雪崩れ込む、敵に乗り込まれた義継には勝ち目はもちろんのこと退路さえも無い…




最後を悟り覚悟を決めた義継は正室と息子の部屋に向かう…


「…義継様、私達はどうなるのでしょう」


「もう、三好家の勝ち目はない…」



信長が浅井家や朝倉家を皆殺しにした事や比叡山を焼き討ちにした事を知っている義継は、家族はせめて自分の手であの世に送ろうと刀を抜いた、それを見た武家育ちの正室も覚悟を決め息子の眼をそっと閉じた…


しばらくして返り血を浴びた義継が部屋から出て来る…


部屋の中には義継に斬られた正室と息子の亡骸が横たわっている。




義継は三好家当主としての意地で織田軍の兵士達と戦ったが、力尽きる前に自ら腹を十文字に切り裂き最期を遂げた、その死に顔は能面の様に無表情だった…


自分の腹を十文字に切り裂くと言う壮絶な死に様なのに無表情だったのは義継の精神が妻子を殺した時点で既に死んでいて痛みすら感じなかったのかも知れない。





三好義継が自害した報を受け放心する松永久秀…


… こんなはずじゃ無かった、武田信玄が死ななければ、今頃三好政権は復活していた… こんなはずじゃ無かった、もう三好家は終わりだ…  だがまだだ、まだ諦めん、まだ義昭様も生きている… 今回の事は善継に責任を負わせてまた信長の軍門に下り必ず寝首を掻いてやる …




将軍足利義昭を中心にした大規模な信長包囲網の元凶である松永久秀が主筋の三好義継の自害を受け、織田軍に降伏した。


武田信玄と言う虎を失った狐達は織田軍の前にあまりにも無力だった。




織田軍に降伏した松永久秀は驚いた事に、将軍足利義昭に泣きつかれた明智光秀が自分の配下として預り処刑される事無く織田家に復帰した…

 反信長勢力の元凶である久秀が何故許されるのか…

どうやら、この男も〝戦国の悪魔〟に気に入られているようだ。


悪魔は〝信長VS久秀〟の構図で戦国に殺しの螺旋を廻し地上に地獄絵図をかき続けようとしている。







【殺しの投影】




織田軍は過去最大の大軍で長島一向一揆勢力の壊滅に乗り出した…迎え撃つ一揆勢力は豪族など武装勢力が多く加担していて数万を率いる大軍だが半数は戦闘に不向きな農民のため、織田軍に一方的に攻められた。



前田利家が、捕らえた一揆衆を尋問する…


「お前の指揮官は何処にいる?」


「…指揮官を売る様な真似は出来ない」


「ほぉ~、殊勝な心がけだな…」


「侍として当然のことだ…」


「なるほどねぇ… 大釜を用意しろ」


家臣が火を焚き大釜を沸かす…この後に何が起きるかは大体想像がつく、一揆衆は尋常じゃない汗をかき出した…


「どうだ、話したくなったか?」


「…なっ何をするつもりだ」


「湯が沸いたようだな、入れろ」


手を縛られたまま大釜に投げ込まれた‼


ぐぅー!!!あついー!!!


ごほっ!!助けてぇー!


ぶえっ!!!


投げ込まれた一揆衆は、泣きながら指揮官の居場所を話して命乞いをするが利家は嘲笑いながら死に行く男を眺めるだけだった…


その他の利家に捕らえられた一揆衆はほとんどが磔にされる。



このような残虐行為が長島一向一揆殲滅では各部隊で行われ、一揆衆は三万人以上が織田軍に殺された。




織田軍は続く武田勝頼とのイクサでも織田・徳川連合の鉄砲部隊を中心に武田軍を徹底的に殺した… 武田勝頼は辛うじて逃げ切ったが一万人以上の兵が殺され信玄時代からの有力武将もほとんど殺されてしまった。



この時期、織田軍は越前侵攻でも降伏を許さず旧朝倉家や一揆勢力の兵や民を一万五千人以上殺し残虐の限りを尽くした。

 織田軍は、まさに第六天魔王の率いる悪魔の殺戮部隊として育っていた。




秀吉領土 長浜城


一揆勢力壊滅に疑問を持つ竹中半兵衛が秀吉に問う…


「一向一揆衆の壊滅ですが、多くの農民が虐殺されました… そこまでやる必要があったとは思えないのですが…」


「さすが半兵衛、あの信長様に文句を言うとはいい度胸だ」


「茶化さないで下さい、織田軍八万で攻めたら簡単に降伏するはず… 農民無しでは我々も存続出来ません無暗に殺す必要は無い…」


秀吉は真顔になって半兵衛を見据えると語りだした…


「…俺は最近信長様は魔物じゃないかと思う事がある…まぁ本人が第六天魔王だと名乗ってるから魔王か」


「戯れ言を…」


「まぁ聞け、今の戦国の世は信長様が作った様なものだ…今川義元を討った桶狭間から戦国の下克上は始まった‼

あの方は戦国その物だ… いつも信長様に都合良くイクサが進む気がする… 桶狭間はいくつかの偶然が重なって今川義元に勝った…」


「それは知ってます… ですが、天候を利用した信長様の戦術が敵にまさったからでは…」


「それだけじゃ無い… 義元を討たれた今川軍は何故か負けたと判断した… 何故だ?なぜ戦わない…? 圧倒的な兵力で織田軍を壊滅出来たはず、主君の敵討ちが出来たはず… だが逃げた」


「味方がすでに殺られたと勘違いした…」


「それもひとつだろうが、その時今川本陣では酒盛りをして皆酔っていたイクサ中に普通酒など飲むか? それにお前が言ってた悪天候も何故おきた? 何故味方が殺られたと思った?…」


「…確かに、不可解です」


「すべて信長様に都合が良い… 武田信玄の病死もそうだと思わないか? 半兵衛なら信玄が生きていたらどうなっていたか分かるだろう」


「…言われてみれば、確かに信長様に都合良く事が運ぶ」


「そう、まるで世の中が信長様の為に動いているかの様だ… まぁ、それは考え過ぎだと思うが…

要するに、これらの事を踏まえて考えると織田軍による最近の大量虐殺には信長様の為になる何らかの意味があると思う… もし命を助けてたらまた反織田勢力として我らが痛い目を見るかもしくは、滅ぼされる…」


「しかし… 酷すぎる、信長様は本当に魔王かも知れません‼ 私は信長様を止めるべきだと思います」


「……」


半兵衛の意見に深く考え混む秀吉…

そんな秀吉の心の奥底に小さな黒い渦が回りだす。






【足掻き】



織田軍の殺戮に拍車を駆ける者が居る…征夷大将軍足利義昭だ。


信長包囲網を築き上げ敵対するも、自らは対峙せずに逃げ出した足利義昭だが、またしても幕府の権限で諸国の大名に信長討伐を要請する…

 そのため織田軍はイクサが絶えない、今度も一向一揆の鎮圧が終り一区切りついたところだが、矢継ぎ早に石山本願寺が反織田勢力として決起した。


将軍足利義昭は自分を傀儡にして幕府の実権を我が物にした信長が憎くてしょうがない… その信長に対する憎悪が結果的に戦国の世を更なる殺しの螺旋で血に染める。



「将軍、石山本願寺の顕如様が毛利様の援護により反織田勢力として決起しました」


「そうか…顕如がどれだけ信長を弱らせる事が出来るか、見物だな」


義昭は毛利輝元と上杉謙信の大大名を当てにしていて、その他は捨て駒と考えていた。





織田家領土 安土城


石山本願寺の決起を聞いた信長が怒りを露にして、主力武将に本願寺攻めを命じる。


「あのクソ坊主ども‼

…光秀、石山本願寺を殲滅しろ」


「はい、一揆衆は脆弱ですが数が多いので他の部隊をお借りしても…」


「貴方に任せるけど、坊主どもほ根絶やしにするのよ」


「…わかりました」









織田信長Wikipedia

小谷城の戦い参照

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る