第7話 三好政権


       【三好政権】



永禄8年 京

   

京(当時の日本の中枢)では今や室町幕府に成り代わり三好政権が実権を握っている。



この状況を打開するために室町幕府将軍 足利義輝は、大名同士の抗争の調停を頻繁にこなした…

これは日本を仕切るのが室町幕府だと印象付けるためで、他にも幕府の役職などを大名に授けるなどして三好政権によって衰弱した幕府権威の復活を目指す。


こうした、足利義輝のあからさまな動きは三好政権に危機感を持たせ対立する事になる。





足利義輝の行動を危惧した三好長逸は松永久秀、三好宗渭、岩成友通、三好政権の中枢を司る三人を集め、将軍足利義輝討伐の話を切り出す。


「ここ最近の将軍の動きは明らかに三好政権への謀反…よって我ら三好は将軍足利義輝を討伐する」


松永久秀以外は、将軍足利義輝の討伐に乗り気の様だが… 久秀は長逸に反論する。


「討伐までしなくとも訴状ですむはず… 将軍を丸め込み幕府の力を三好のために使って貰う…それが最善」


長逸はこの訴状の話に反論せず他の意見を求める。


「我々四人で三好政権… 意見を纏める必要がある、久秀殿が言う様に訴状を出すか…」


長逸の問に三好宗渭が口を開く。


「三好政権は今や幕府より上の立場、逆らうなら将軍と言えど討伐だが… 訴状で将軍が我らに従うならそれに越したことはない…」


「俺もそれで良いと思うが…

久秀殿、訴状に将軍が従わない場合はどうする?」


岩成友通が久秀に問う。


「…形は訴状だが三好の意見は命令と同じ… 三好家に逆らうなら最後は力に物を言わすまで…」



松永久秀は足利義輝の討伐に反対の意思は無かったのだ、ただ長逸にそのまま従うのをためらった…

長逸に主導権を取らせたく無い、その為に代案で訴状の話を出しただけの久秀、結局は長逸同様力でねじ伏せるつもりだ。


三好政権の首脳陣は三好長逸・松永久秀・三好宗渭・岩成友通の四人だが外様の久秀は成り上がりと言うイメージが拭い切れない、実力的には長逸と並ぶ三好のトップだが何かとこの二人は張り合う間柄だ。





【威厳と忠義】





「訴状を持って参りました。将軍にお取り次ぎ下さい」



「ただいま取り次ぎますので、しばらくお待ちください」



将軍足利義輝が居る二条御所に長逸は久秀が京に居ないこの日、わざわざ訴状を渡しに行くと義輝に報告してから来たのは、三好家を警戒している義輝側を欺くためだ…



義輝側も久秀が留守の時に襲撃はないと思うはず…長逸は、その裏をかく作戦に出た。



久秀が出した案は義輝側を油断させる道具に使うだけで、結局はすべて自分の計画通りだ。



取り次ぎを見送り将軍足利義輝が居るのを確認した長逸は攻撃命令を出す。



「待機させた鉄砲隊に攻撃させろ」



三好軍の鉄砲隊が、十分程度で大量に現れて四方の門から襲撃を開始した…


この奇襲に義輝側は慌てて反撃に出るが次々に撃ち殺される…



義輝側は、長逸の思惑通り油断していた…襲撃は訴状を無視されてからと思っていた、しかも松永久秀の留守中の襲撃は予想外で迎え撃つ準備が出来ていない、 逃げるにも城はすでに三好勢に包囲されている…



戦国の武将ならこの状況で、助から無い事は分かっている…



敵の刃にかかるよりは自刃を選ぶ者が多い戦国時代で、義輝は自刃などする気は無く将軍の威厳を持って正面から戦い討ち死にするつもりだ…




だがその前に今日まで世話になった近臣達を集め最後の盃を交わす。




「いままでのお前達の忠義… 礼を言う」



「我々は義輝様に命を授けた身…何処までもお供します…」



「気にするな、お前達の忠義は死んでも忘れない……投降して私の分まで長生きしてくれ…」



「我々は義輝様と一緒に討ち死にする覚悟が出来てます…」



「最後に目にもの見せてやる‼」



三好に怒りを露にする近臣達だが、義輝が一喝する。



「黙れ‼ 命を粗末にするな…


忠義なら、充分果たしてる…」



「恐れながら征夷大将軍・足・利・義・輝・の居ないこの世に未練はありません…」



近臣のこの言葉に他の家臣達が全員、義輝の前に並び自分達も同じ思いだとばかりに方膝を付き頭を下げた。



「武士として義輝様に仕えて…幸せでした…」



「私を義輝様の家臣として死なせて下さい…」



「三好の外道達を一人でも多く道連れにして殺ります」



みんなが討ち死にの覚悟を口にした‼家臣達の思いに義輝は動揺を隠せない。



「将軍!鬼畜を殺しに…参りましょう」



近臣達の覚悟は、義輝に説得されようと変わる事は無いだろうと悟った義輝は胸を熱くし涙ぐむ…



「…バカ共が… 本当にそれで良いのか…」



「…我々は、死んでも義輝様の家臣… 地獄の底までお供致します…」



家臣達の揺るぎ無い覚悟と忠義が将軍足利義輝の心を決めた‼



「…そこまで言ってくれるか… わかった……

お前達がいれば地獄に行っても怖いものなしだ‼ 三好の鬼畜共を切り捨てる…

お前らぁ~!俺に付いて来い!・地・獄・に・出・陣・だ・ぁ~っ‼」



ウオッ~~!ワァアァ~!



叫びだす近臣達… その雄叫びが魂を震わし近臣達の顔が見る見るうちに鬼の形相になる!



「三・好・を・こ・ろ・せ・ぇ~‼」




三好の鉄砲隊に次々に撃ち殺される義輝の家臣達、その屍を飛び越え近臣達がまだ弾を込め切れ無い先陣の鉄砲隊を切り殺す!


義輝側の鉄砲隊も参戦して戦闘は激化するが多勢に無勢、義輝側はすでに少数の家臣達と義輝のみだ、城内での戦闘は義輝達の神がかった強さで三好の兵を次々に切り捨てる‼



だがその強さも長くは続かない腕を切られ足を切られ気付けば五体満足な者は誰もいない…




義輝の薙刀が折られた!すかさず脇差しを抜くが力尽き倒れる義輝、近臣が覆い被さり義輝を庇う…


しかし容赦ない三好兵の刃に近臣ごと串刺しにされ義輝は将軍の誇りと共にその生涯を終えた。





戦いは義輝側が全員討ち死にして決着がついた…しかし義輝勢のおよそ十倍が討ち取られた三好勢…その青ざめた表情は敗者のようだった。






参考文献

三好政権Wikipedia参照

天野忠幸、2016a、『三好一族と織田信長』、戒光祥出版〈中世武士選書〉 ISBN 978-4-86403-185-1。

井原今朝男、2014、『室町期廷臣社会論』、塙書房 ISBN 9784827312669。

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