第16話
そんな、そんなこと、ゆるせない。
フリーター小林は話を中断した上席を立ち、カフェオレを飲み切った紙コップをちょっと離れたゴミ箱まで歩いて捨てに行った。
このタイミングでなぜ話を切る。しかし。
今がチャンスだ。他の奥様方は背を向けて話を聞いているだけで、こちらの様子を見ていない、私は真中に目配せした。真中もアイコンタクトに応じる。
小林が戻ってくる。
私は真中と口付けを交わすように。
密やかな会話や噂話を真正面からするようにして。
口元を手のひらで隠しながら近づく。
何度でも言う。夏の、よく空調が効いた休憩室の赤いカーペットの上で、椅子から腰を持ち上げながら、真中は「受ける側」。することは顎の角度を上げるだけ。
小林は。
そんなことは慣れていますよ、というように一メートル50センチ後方で、私達のやりとりを見ていた。
小林は休憩室に入ってきて、おそらくナプキンの入った巾着を手にお手洗いへ向かう。
効果覿面だと思った。私も真中も、にやけるように久しぶりに、心の底から白い笑いで満たされたと錯覚した。その日私達のシフトは午前で終わる。この感情は黒くないはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます