第16話

そんな、そんなこと、ゆるせない。

フリーター小林は話を中断した上席を立ち、カフェオレを飲み切った紙コップをちょっと離れたゴミ箱まで歩いて捨てに行った。

このタイミングでなぜ話を切る。しかし。

今がチャンスだ。他の奥様方は背を向けて話を聞いているだけで、こちらの様子を見ていない、私は真中に目配せした。真中もアイコンタクトに応じる。

小林が戻ってくる。

私は真中と口付けを交わすように。

密やかな会話や噂話を真正面からするようにして。

口元を手のひらで隠しながら近づく。

何度でも言う。夏の、よく空調が効いた休憩室の赤いカーペットの上で、椅子から腰を持ち上げながら、真中は「受ける側」。することは顎の角度を上げるだけ。

小林は。

そんなことは慣れていますよ、というように一メートル50センチ後方で、私達のやりとりを見ていた。

小林は休憩室に入ってきて、おそらくナプキンの入った巾着を手にお手洗いへ向かう。


効果覿面だと思った。私も真中も、にやけるように久しぶりに、心の底から白い笑いで満たされたと錯覚した。その日私達のシフトは午前で終わる。この感情は黒くないはず。

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